白洲正子が訪れた木地師発祥のかくれ里、奥永源寺・君ヶ畑を歩く

滋賀県

2023.05.01

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白洲正子が訪れた木地師発祥のかくれ里、奥永源寺・君ヶ畑を歩く

歴史やものづくりを身近に感じられる旅スポットが好きなLIKESライター・長月あきです。もうすぐ緑の日。新緑を楽しめる旅先を探していたところ、キャンプ場が点在し、登山、渓流釣りなど、アウトドアで人気の滋賀県奥永源寺(おくえいげんじ)に、興味深い集落を発見しました。ろくろを使って、お椀やお盆、こけしなどの木工品を作る職人・木地師(きじし)発祥の地であり、白洲正子の随筆「かくれ里」に登場する、悲運の皇子の伝承が残る君ヶ畑(きみがはた)町です。

目次

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地元在住・出身者が運営「木地師のふるさと交流館」

君ケ畑集落を散策

惟喬親王ゆかりの史跡

豊臣秀吉の心を掴んだ幻の銘茶「政所茶」

君ヶ畑周辺にある惟喬親王ゆかりの史跡

歴史と自然がつくり出す山村風景に会いにいきませんか?

地元在住・出身者が運営「木地師のふるさと交流館」

君ヶ畑町

山道を抜けると現れる君ヶ畑町の入口。

君ヶ畑町は、滋賀県東近江市と三重県の県境、鈴鹿山脈の自然に囲まれた奥永源寺の中でも、さらに山深い場所にある小さな集落です。川沿いの山道を車で登っていきます。

木地師ふるさと交流館

古民家の1階を改装した木地師ふるさと交流館。

木地師ふるさと交流館

玄関を入ってすぐの受付。地元の木製品が並べられています。

木地師ふるさと交流館

地元の木材で建てられた古民家は床とサッシ以外は昔のままとのことですが、きれい。

木地師ふるさと交流館

奥永源寺で栽培されている絶滅危惧種「紫草(ムラサキ)」を原材料にしたコスメも。

まずは集落を少し進んだところにある「木地師(きじし)ふるさと交流館」へ。玄関から声をかけると、奥から4人の男性が出迎えてくれました。君ヶ畑在住・出身者で作る有志の会「高松会」の方々です。会員の方が、毎週持ち回りで交流館の案内をしています。

木地師ふるさと交流館

木地師ふるさと交流館の展示室。

木地師ふるさと交流館

君ヶ畑の紹介映像を流してくれました。

木地師ふるさと交流館

木地師によるお盆の制作過程。

木地師ふるさと交流館

林業に使われていた道具。

交流館には、14畳ほどの広さの展示室と、座ってお茶が飲める10畳ほどの部屋があります。木地師に関する資料や道具類、写真やパネルなどの展示物一つひとつを丁寧に説明していただきました。

見学が終わると、隣接する部屋で、お茶とお菓子をいただきながら、集落での暮らしや見どころを伺ったり、雑談したりの歓談タイム。各地でさまざまな資料館を訪れていますが、こんなアットホームな資料館ははじめてです。ここが「資料館」でなく「交流館」という意味がよくわかりました。規模は決して大きくありませんが、集落の歴史や産業がよくわかり、地図なども貰えますので、はじめて君ヶ畑を訪れた方は、最初に立ち寄ることをおすすめします。

◆木地師ふるさと交流館
住所:滋賀県東近江市君ヶ畑町768
電話番号:090-9991-0130(木地師のふるさと高松会事務局 瀬戸さん)
開館日:毎週土・日、祝祭日 ※自治会行事などにより臨時休館の場合あるので要事前確認
開館時間:10:00〜15:00
入館料:中学生以上 500円
※冬季(12月1日~3月31日)は積雪のため休館

君ケ畑集落を散策

君ヶ畑の集落

家はたくさん並んでいるが空き家が多い。

君ヶ畑の集落

集落のあちこちで見かける防火水槽。山から引いてきた水が流れている。

君ヶ畑のバス停

君ヶ畑は東近江市のコミュニティバス「ちょこっとバス」の終点。

君ヶ畑ミニ展示館

交流館にほど近い「君ヶ畑ミニ展示館」。登山客向けなのか隣にトイレが設置されている。

君ヶ畑ミニ展示館

ミニ展示館の中に展示されている木工製品。

集落は徒歩で約1時間もあればぐるっと見て回れるほどの広さ。約40~50軒ほどの民家がありますが、多くが空き家です。高松会の方によると、現在、住居は12軒で人口は16人ほど、移住者の30代の方を除き全員が高齢者なのだとか。白洲正子の随筆では、村人に聞いた話として「他の部落は過疎地帯になりつつあるが、ここだけは暮らしが豊かで人口は増えもしないかわり減りもしない」と書かれた君ヶ畑ですが、50数年後の現在、いわゆる限界集落になっています。

君ヶ畑の集落

茅葺き屋根は維持が大変なのでトタンを被せている。

君ヶ畑の集落

静かで長閑な集落。

君ヶ畑の集落

天気がいいのに、なかなか人に出会わない。

君ヶ畑の集落

集落に流れる川には渓流釣りをする人がいました。

歩き回っていてもほぼ人とすれ違うことがない、静寂な集落。茅葺き屋根をトタンで覆った独特の屋根の家が多く、印象的でした。

ノエビアの研究所

株式会社ノエビアの高山植物の研究施設。

道の駅 奥永源寺渓流の里

道の駅 奥永源寺渓流の里。

集落の一番奥にある政所小・中学校の分校の跡地に建つのは、化粧品会社の研究施設。本校は約7キロ離れた場所にありましたが、後に廃校となり、現在は、道の駅 奥永源寺渓流の里になっています。

◆道の駅 奥永源寺渓流の里
住所:滋賀県東近江市蓼畑町510
電話:0748-29-0428
営業時間:4~11月 9:00~17:30、12月~3月 9:00~16:30
休館日:火曜日
※GW、11月は休まず営業

惟喬親王ゆかりの史跡

大皇器地祖神社

荘厳な雰囲気の大皇器地祖神社。

大皇器地祖神社

大皇器地祖神社には樹齢1000年を超えるといわれる杉が。

大皇器地祖神社

大皇器地祖神社の脇は天狗堂への登山口になっています。

高松御所金龍寺

高松御所と呼ばれる金龍寺。一度全焼し、現在の建物は明治初期に再建されたもの。

惟喬親王御陵

金龍寺に隣接する惟喬親王の墓所「惟喬親王御陵」。

文徳天皇の第一皇子でありながら、生母が藤原氏でなかったことで皇位継承争いに敗れ、幽棲され生涯を終えたといわれる惟喬(これたか)親王。彼がろくろを思いつき、技術を人々に伝えたのが木地師の始まりという伝承があります。集落内には親王を祀る大皇器地祖神社(おおきみきじそじんじゃ)や、暮らしていたとされる金龍寺(きんりゅうじ)など、ゆかりの史跡があります。

◆大皇器地祖神社
住所:滋賀県東近江市君ケ畑町977

◆金龍寺
住所:滋賀県東近江市君ケ畑町809

豊臣秀吉の心を掴んだ幻の銘茶「政所茶」

政所茶の茶畑

ぽこぽことしたお茶の木がどことなくかわいらしい茶畑。

政所茶の茶畑

大皇器地祖神社近くの茶畑。

政所茶の茶畑

栽培をやめてしまった茶畑も見られる。

道の駅 奥永源寺渓流の里

道の駅 奥永源寺渓流の里で政所茶を購入できます。

集落内で見られる茶畑は、君ヶ畑を含む奥永源寺で栽培されている「政所茶」。農家減少の影響で、君ヶ畑で収穫される政所茶は、最盛期の10分の1ほどの量になってしまったのだそうです。木が整然と並んでいる一般的な茶畑と違い、畝(うね)がありません。政所茶はほとんどが種から育った在来種で、農薬や化学肥料を使わず、昔ながらの栽培法を受け継いでいるのだとか。ちなみに、初めて豊臣秀吉と出会った石田三成が、秀吉に出した三杯の茶「三献茶」は、政所茶だったといわれています。

君ヶ畑周辺にある惟喬親王ゆかりの史跡

奥永源寺には君ヶ畑の周辺の集落にも木地師や惟喬親王の伝承が残る場所があります。

■惟喬親王御陵

惟喬親王御陵

惟喬親王の像。

惟喬親王御陵

人里離れた山深い筒井峠にある惟喬親王御陵。大きな親王の石像があります。

◆惟喬親王御陵
住所:滋賀県東近江市蛭谷町

■筒井神社・木地師資料館

筒井神社

筒井神社。

木地師資料館

木地師資料館。

筒井峠から、麓の現在地に遷された筒井神社。かつては筒井公文所の名前で、君ヶ畑の金龍寺とともに全国の木地師を支配していたとされます。神社の奥に、木地師資料館があります。資料館は4日前までの事前電話予約が必要だそうです。

◆木地師資料館
住所:滋賀県東近江市蛭谷町176
電話番号:050-5802-3313
営業時間:9:00~16:00
入館料:300円
※4日前までの事前予約が必要
※12月1日~3月31日は冬季休館

■八幡神社

八幡神社

政所町にある八幡神社。

八幡神社の参道

茅葺き屋根の家と、トタンに覆われた屋根の家の間にある細い路地が参道のよう。

八幡神社

惟喬親王の墓と伝えられる宝筺印塔。

国指定重要文化財の能衣装が伝わる八幡神社。惟喬親王の墓と伝えられる宝筺印塔(ほうきょういんとう)が建っています。惟喬親王の墓はあちこちにあるようです。白洲正子は神社に伝わる能面を見せてもらうために訪れています。

◆八幡神社
住所:滋賀県東近江市政所町950

歴史と自然がつくり出す山村風景に会いにいきませんか?

集落をひと通り散策した後、交流館に立ち寄ってお礼を告げると、高松会の方々が「夏は涼しいところなので、またいつでも来てください」と、気さくに声をかけてくださいました。繰り返しますが資料館ではなく「交流館」。素敵なコンセプトです。また、限界集落とされる君ヶ畑。現在居住している戸数は12軒ですが、自治会に加入している戸数は居住者だけではないため、24軒あるといいます。高松会の会員の方々のお話を聞くなかでも、なんとか集落を維持したいという地元出身者の熱意が垣間見えました。

これからのアウトドアシーズン、奥永源寺でのキャンプや登山の際には、奥永源寺の山村風景にも会いにいってみませんか。君ヶ畑は標高が高い場所にあるからか、夏は市街地よりも涼しく過ごしやすいそうですよ。

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#滋賀県 #歴史旅 #GW #ゴールデンウィーク

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長月あき

時間を見つけては、歴史や伝統工芸などに触れられる旅スポットを巡っています。ものづくりの技術や創意工夫を知る産業観光も大好き。東海・関西エリアを中心に、歴史やものづくりを身近に感じられる旅体験をお届けします。近年は道の駅とかわいいおみくじ、地サイダーがマイブーム。

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