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夜遊びも旅のカタチ 新宿 NIGHT OUT with 菊地成孔

菊地成孔が新宿の夜遊びを
提案する連載最終回。
新宿の歌舞伎町を
舞台にした小説を書いた
海猫沢めろんとともに、
今の新宿の夜遊びを語る。

Photo:Gen Saito
Text:Shizuka Oikawa

Vol.2「talk」
「小説にすると逆にファンタジーになるんだよね」 菊地成孔
Vol.2 「talk」with菊地成孔x海猫沢めろん

菊地成孔と海猫沢めろん、それぞれが思い描く
新宿のランドマーク「歌舞伎町」のイメージ

菊地:歌舞伎町には久々に来ました。2冊目のエッセイ集を書いた時には歌舞伎町のホテルにカンヅメになったけどね。
海猫沢:『歌舞伎町のミッドナイト・フットボール』ですね。菊地さんのエッセイのなかでもかなり好きな一冊です。
菊地:歌舞伎町のド真ん中だったから一晩中うるさい。煮詰まって、外出すると、ホストとキャバクラ嬢とお客でカタギが1人もいない(笑)。それが大人になってからのイメージかな?
海猫沢:僕は大阪生まれで姫路育ちなので、まずはメディアを通して新宿と出会いましたね。最初は菊地さんのお兄さん(菊地秀行)の『魔界都市〈新宿〉』で、次は大沢在昌の『新宿鮫』、その次は馳星周の『不夜城』。だから、常にフィクションと連動しています。
菊地:でも、『ヴァイナル文學選書』の第一弾「新宿歌舞伎町篇」で書いたように、小説にすると逆にファンタジーになるんだよね。僕が実際に歌舞伎町に住んでいた頃から浄化されていて、『新宿鮫』はいない(笑)。そうするとカリカチュアされたものになる。ただ、ヴァイナルの方はリアル新宿ライフを書いてほしかったみたいなので、僕はそのつもりで書きました。
海猫沢:僕は90年代の鬼畜系(バッドテイスト)文化が好きだったので、ヴァイナルにはそういう影響が強く出ていたと思います。
菊地:めろん先生はファンタジスタなんでね。
海猫沢:菊地さんとMC漢さんの作品は、実際に歌舞伎町に住んでいた人しか書けない空気感が出ていて、自分にはこれは書けないな……と思わされました。
菊地:ラブホテルしか出てこないんだけどね(笑)。

Vol.2 「talk」with菊地成孔x海猫沢めろん

時代とともに変わりゆく新宿の姿と
変わりゆく夜遊びの形

菊地:最近はバッド・ボーイさえも終電で帰る時代になったから、店も早く閉まるようになった。でも、2015年に完成した「TOHOシネマズ新宿」は、結構遅くからレイトショーをやってるんだよね。26時ぐらいからもやってる。ポップコーンが美味しくて、カップルシートも豪華。それで疲れたらラブホテルかな? 今のラブホはデザイン性が高くなって、ヴァイナルで書いた通り、プールの大きいところもあるし、アメニティーも充実していて、サステナブルかつリュクス。職安通りからすぐのところにあるので、オトナ女子に薦めるならそこかな?
海猫沢:歌舞伎町には漫喫もありますけど、なかなかオトナ女子には薦めづらい(笑)。最近はVR機材もあるし、ダーツができるところもあって多様化しているんですが。
菊地:漫喫は行ったことはないんですけど、すごいって聞きます。
海猫沢:漫画喫茶って名前から想像できない空間になってますよね。でもいまひとつ不健康な印象が……、夜遊びもそうなんだけど、健康になれる要素があればもっと面白くなると思いますよ。
菊地:スマホ持って、ベッドででろーんとしてると体に悪いからね。おいしい店でちゃんと食べて、体を動かして健康にって、どんな夜遊びか想像がつかない(笑)。
海猫沢:菊地さんはマッサージとか、針とか行かれないんですか?
菊地:行きますし、いっぱいありますよ。飲んで、4時ごろに友達が帰っちゃったら、職安通り沿いにある足つぼに行くんです。そこは早朝6時までやってるんで。最後はラーメンじゃなくて、足つぼで締める。それで家に帰ると気持ちよく眠れます。

「バットを振り回す男って、夜の歓楽街のメタファーすぎますね」 海猫沢めろん
Vol.2 「talk」with菊地成孔x海猫沢めろん

新宿らしい夜を満喫するなら
やはりゴールデン街と新宿二丁目

菊地:ほかの街では楽しめない飲み屋の楽しみがあるとすれば、ゴールデン街と二丁目かな? おしゃれなバーはどこにでもあるから。ゴールデン街の中で自分のお気に入りの店を見つけるか、二丁目で恋バナをして手厳しいママに叱られるか(笑)。
海猫沢:ゴールデン街って、一見で行くとどこに入っていいか分からないですよね。この間、田中小実昌さんのお孫さんがやっているレモンサワー専門店「the OPEN BOOK」に行ったんです。ここは一階が立ち飲みで、綺麗ですごく入りやすいのでお薦めです。上の階には、狭いけど、座って飲めるスペースもあります。
菊地:あとは女性に薦めるなら、ホストクラブ?
海猫沢:最近は昔とずい分違いますよね。今はネオホスと呼ばれる世代になっていて、ファッションからして違う。スーツじゃなくてカジュアルな韓国風ファッション。
菊地:オールドスクーラーもいますけど、全然違いますね。
海猫沢:ぱっと見ても、たぶんホストだとは思われない。
菊地:ホストも多様化していて、少女漫画の中にあるような疑似恋愛をちゃんとやってくれるんです。
海猫沢:働いている子も全体的に若いですし、接客もカジュアル。もちろん店によりますが、若い子が多い店は学校の部室に来たみたいな感覚になると思います。
菊地:初めての人はホストに興味のない友人も誘って、グループで行くのがいいと思いますよ。否定的な人がいても、たぶん全員満足すると思うし(笑)。ただ、いずれもハマりどころは十分にあるので、遊びに行くなら、分別を持って!

Vol.2 「talk」with菊地成孔x海猫沢めろん

24時間営業のバッティングセンターで
変わらない夜の新宿の面影を味わう

菊地:僕は幼少期から行っていた伊勢丹と紀伊国屋に行くと落ち着くんだけど、それだとナイトカルチャーじゃないからな。ほかに今、不夜城なのは、リトルコリアぐらい? 正確に言うと、日本の原宿に近いからリトルミョンドンね。K-POPの店も多いけど、伸びるフードもあったりして、高校生に人気のアイテムが多いから。
海猫沢:近くにプラネタリウムみたいなのもありますよね?
菊地:ラブホの中じゃなくて?
海猫沢:大久保の方にあるんですよ(新宿コズミックスポーツセンター)。そういえば、『キッズファイヤー・ドットコム』で、歌舞伎町のバッティングセンターのことを書いたら、フィクションだと思った人がいて……。
菊地:歌舞伎町にある一番ガジェットなものはバッティングセンターですよ!
海猫沢:ずっとありますよね?
菊地:今、ふたつあります。歌舞伎町に住んでいた頃は、家の窓を開けると夜中でも高打音が聞こえました。夜中に打ってる人のバイブスが伝わってきました(笑)。
海猫沢:バットを振り回す男って、あまりにも夜の歓楽街のメタファーすぎますね(笑)。ちなみに、もし人生最後の日に新宿に行くとしたら、どこに行きますか?
菊地:僕はやっぱり伊勢丹です。
海猫沢:僕は紀伊國屋書店かな?(笑) あるいは、新宿御苑の「La Boheme」。
菊地:あそこはいいね。
海猫沢:映画『君の名は』で、主人公がバイトしてる店なんですよね。
菊地:あと松本人志さんの監督映画『R 100』で最初にデートする店。内装など、あそこは素晴らしい店ですよ。

菊地成孔
PROFILE
菊地成孔Naruyoshi Kikuchi
1963年生まれ、千葉県出身。音楽家、文筆家、大学講師、ラジオパーソナリティなど、マルチに活躍。文筆家としてはエッセイ、音楽批評、映画批評、モード批評など多岐に執筆し、2018年10月に始動した『ヴァイナル文學選書』(東京キララ社)では、第一弾「新宿歌舞伎町篇」にて、「あたしを溺れさせて。そして溺れ死ぬあたしを見ていて」を書き下ろした
海猫沢めろん
PROFILE
海猫沢めろんMeron Uminekozawa
1975年生まれ、大阪府出身。作家。評論家、ルポライターとしても活躍。新宿のカリスマホストがITを駆使して育児に奮闘する小説『キッズファイヤー・ドットコム』で、2018年に第59回熊日文学賞受賞。同名コミックを7月に発売。複数の作家がひとつの街をテーマに描く掌編小説シリーズ『ヴァイナル文學選書』(東京キララ社)の第一弾「新宿歌舞伎町篇」では、「鬼畜系ゲームブック熊猫」を執筆

店舗情報

青葉(台湾料理)

住所/東京都新宿区歌舞伎町1-12-6 歌舞伎町ビル B1F
電話/03-3200-5585
営業時間/月~金曜・祝前日12:00~翌2:00、土曜11:30~翌2:00、日曜・祝日11:30~23:00
定休日/無休