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約150年前から続く「注染」という染めの技法。浪華本染めとも呼ばれ、2019年11月には国の伝統的工芸品にも指定されました。そんな注染の技術を50年以上受け継ぐ株式会社ナカニ。手ぬぐい=注染というイメージを確立したパイオニアです。

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  • 注染の技術を武器に、

    手ぬぐいを若年層に広めた立役者/ナカニ

ナカニは、染色方法のなかでも注染に力を入れ、2008年に注染手ぬぐい専門店「にじゆら」を立ち上げました。現在京阪神に4軒、東京に2軒の直営店を構えています。注染の特徴は、ブランド名に盛り込んだ‟にじみ“と‟ゆらぎ”。「高い技術力が必要なのに、問屋からの依頼のまま、ただの加工屋として終わるのはイヤだった」と語る2代目社長・中尾雄二さんの案内のもと、気になる注染の全貌を紐解きます。

お話を聞いた人:株式会社ナカニ / 代表取締役 中尾雄二さん

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工場に入ると、そこはほんのり海の香り。それは注染において最初の工程「のり置き」に使われる糊に含まれている海藻の匂いでした。のり置きとは、手ぬぐいの柄に応じて染料をはじく「防染糊」を塗る作業。蛇腹状に重ねた生地のうち、手ぬぐい1枚分を糊付け台に置き、型紙をかぶせて上から糊を塗り込みます。均等にぬらないと染めムラにつながるため、もっとも重要な工程だそうです。

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続いて、染めへ。糊がついた手ぬぐいの束を染め台に置き、色をつけたい場所ごとに土手をつくり、そのなかに染料を注いでいきます。染料は絵の具のように見たままの色ではなく、2種類以上の染料を混ぜて目的の色を出すもの、色止め剤が必要なものもあり、とても複雑。プリントやロール捺染のように生地の表面に型押しするのではなく、糸自体を染める技法のため、足元ではペダルを踏み、染料を下から吸引してしっかり染み込ませます。

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染めた手ぬぐいの束は、工場内にある「川」と呼ばれる洗い場へ。ここもなんと手作業。職人が1枚ずつていねいに、最初に塗った防染糊と余分な染料を洗い流します。濃い染料が淡い染料に移染してしまわないよう、染めた後は1時間以内に洗うのが鉄則だそうです。この後、脱水機にかけて水分をとばします。

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脱水が終わったら、すぐに乾燥室へ運んで干します。かつては天日干しをしていましたが、現在は天日と同じ環境を作った屋内で乾燥させています。この段階ではまだ手ぬぐいをカットしていないので、1枚20数メートル。蛇腹に畳んで染めていたものを広げると、柄が交互になっているのがわかります。この状態を見られるのは工場見学の醍醐味です。

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「20代の頃は、家業を継ぐつもりはなかった」と話す中尾社長。家族の不幸が重なったことがきっかけで、大手家電メーカーの海外営業から染めの職人へと転身します。日々の仕事は問屋からの指示を受け、晒を染めていく単純作業。仕事に誇りが持てず、どんな人が手ぬぐいを使っているかも知らないまま時が過ぎましたが、まわりが高齢の職人ばかりになったとき、やはり若い世代に注染という伝統技術を受け継いでもらいたいと、自社ブランド「にじゆら」を立ち上げることになりました。

注染の工程は、すべて手作業。

職人の目が届く範囲で行われます。

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にじむこと、ゆらぐこと。
注染の特長を価値にした商品開発

注染の魅力は、なんといっても染めのにじみ具合。プリント染めとは違い、色際のエッジがにじんだり、グラデーションを作ってわざと境界線をぼかしたりすることができます。こういったにじみは、問屋からは注染の弱点だと指摘されましたが、それを他にはない個性としてアピールし、大成功。百貨店の催事に出るや否や話題となり、テレビ取材が殺到。職人志望の若手も現れ、後継者問題もクリアしました。

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手ぬぐいや注染だけではない、
にじゆらのある生活

手ぬぐい専門店とうたっていますが、実はオープン当初からマスクも販売。今年大きく注目され、オンラインショップでの売上が15倍にもなったそうです。「手ぬぐいだけではお客は呼べない」と、手ぬぐいの生地でバッグや祝儀袋もつくっています。注染のほか、一部プリントやロール捺染でつくられた商品も。細かい絵柄やデザインにあわせて、染色方法を使い分けています。流行や需要に合わせ、店頭には常時300種類もの商品が並びます。

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伝統工芸品の指定を受けても意識せず、
最優先するのはお客様からのニーズ

昨年、注染が国の伝統工芸品に指定されましたが、特に影響はないという中尾社長。「政治関係の会合などで手土産として選んでもらえる機会は増えたけど、店のお客様にとっては伝統工芸品だろうが、注染がすごい技術だろうが関係ない。目の前にある商品が魅力的かどうか、それが判断基準です」と話します。「堺だけでなく大阪の定番土産として定着していったらうれしいですね」。

親子でつなぐ、和晒の伝統と新しい価値

世界で唯一の両面染め技術でロール捺染を発信