福井のクラフト文化を代表する「漆器」と「和紙」を旅する

福井県

2022.02.02

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福井のクラフト文化を代表する「漆器」と「和紙」を旅する

「都道府県幸福度ランキング」で4回連続日本一となり、2024年には北陸新幹線が延伸されることで「住む」「旅する」双方で注目を集めている福井県。クラフト文化の宝庫としても魅力ある当地で越前漆器と越前和紙の魅力に触れてきました。

目次

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漆器生産量日本一の「越前漆器」

現代的なアプローチで漆器を日常にフィットさせる

越前漆器を学び、眺め、買い、郷土料理も食べられる「うるしの里会館」

ゴディバのバロタンにも採用された越前漆器のクオリティと先進性

和紙の神様の伝説が残る五箇山地区

紙の神様「紙祖神 岡太神社 大瀧神社」

越前は和紙の生産量、質、職人の数も日本一

おわりに

漆器生産量日本一の「越前漆器」

木地師は使いやすい道具を自作するという

木地師は使いやすい道具を自作するという

1500年の歴史をもつ越前漆器は、元々建材の塗装として家屋を守ってきた技術が踏襲されており、その堅牢さから業務用としての需要が高まり、業務量漆器として日本全体の80%のシェアを占めています。越前漆器は工程ごとに、木地師、塗師、蒔絵師、沈金師など分業体制が敷かれていて、それぞれが専門特化していくことで技術が深堀りされてきたと言います。

現代的なアプローチで漆器を日常にフィットさせる

旅館やセレクトショップのバイヤーが訪れるショールーム

漆琳堂のオリジナルブランド「RIN&CO.」

漆琳堂八代目の内田徹さん

「冬は雪、夏は湿度が高いという風土が越前漆器にとって重要な漆の硬化に適していました。そして、京都という市場が近かったこともあり発展しました」と話してくれたのは、鯖江市河和田地区にある、1793年創業の「漆琳堂」八代目当主を務める内田徹さん。「工芸品としてながめるのではなく、どんどん使ってほしい」という内田さんは、“金継ぎ”などの技術を駆使して積極的に漆器の修理も請け負う。2020年には、淡い色でマットな質感の漆器をそろえる、現代的なアプローチのオリジナルブランド「RIN&CO.」をスタート。「漆器というと、昔は庶民は黒、お坊さんは赤などと決まっていましたが、いまの人が使いやすいものもあっていい」と福井大学との連携によって食器洗い機にも耐える漆を開発した。

漆琳堂
福井県鯖江市西袋町701

越前漆器を学び、眺め、買い、郷土料理も食べられる「うるしの里会館」

越前漆器の歴史や製造工程が展示されている

ショップでは椀、皿、カップ、箸など1000種類以上の漆器が展示販売されている

うるしの里ご膳(1名分3,000円、事前予約制、5名以上から)

漆琳堂と同じ河和田地区にある「うるしの里会館」は、越前漆器の歴史や製造工程の展示に、絵付け、沈金、拭き漆などの体験ができるワークショップ、1000種以上の漆器が購入できるショップもある越前漆器の総合ミュージアム。また、施設内の喫茶施設「椀椀(わんわん)」では、福井県の食材を使った呉汁、里芋、すこ、山うに、葉寿司、桑茶などが朱塗りの越前漆器に贅沢に盛られて食べられる。

うるしの里会館
福井県鯖江市西袋町40-1-2

ゴディバのバロタンにも採用された越前漆器のクオリティと先進性

バロタンと好きなチョコレート2つで価格は3,850円

ゴディバカフェブルーがクールな特製バロタン

越前漆器の堅牢さや手触りといった質感、食文化を支えて時代とともに進化してきた柔軟性に、ゴディバ ジャパン社が注目。2022年のブランド誕生50年を機に掲げたコンセプト「GODIVAは日本をもっと知りたい」というメッセージにマッチするとして、越前漆器で製作したチョコレートを入れる専用ボックス「バロタン」を、「GODIVA café」全店で数量限定で発売した。製造は福井県の山嘉商店が行なっている。バレンタインに合わせた特別版も発売予定。

和紙の神様の伝説が残る五箇山地区

和紙の原材料の説明をしてくれた「岩野平三郎製紙所」の玉村秋子さん

和紙の原材料の説明をしてくれた「岩野平三郎製紙所」の玉村秋子さん

漆器と同様に1500年前の歴史を持つ越前和紙は、神のお告げからはじまったとされている。岡本川の上流に女の神様「川上御前」が現れ、水で紙を作れと言ったことから、いまでも紙漉きの職人には女性が多いという。「かつて横山大観が和紙を求めてはるばる訪ねてきたほど越前和紙は質が良い」と教えてくれたのは五箇地区にある「岩野平三郎製紙所」の玉村秋子さん。原材料の楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)を煮だしながら紙漉き歌を歌ってくれました。その陽気な歌声のあとに見学した溜め漉きは、静寂につつまれた中、2人1組が無言で作業を進めていて、その阿吽の呼吸がまるで神事を見ているかのように神秘的でした。

岩野平三郎製紙所
越前市大滝町27-4

紙の神様「紙祖神 岡太神社 大瀧神社」

天保14(1843)年に建立された社殿は国の重要文化財の指定を受けている

天保14(1843)年に建立された社殿は国の重要文化財の指定を受けている

岩野平三郎製紙所から車で数分の場所に鎮座するのは、“紙の神様”と言われる「紙祖神 岡太神社・大瀧神社」。和紙職人だけでなく、出版社や作家など紙にまつわる仕事をしている人がたびたび訪れることでも知られています。そして、訪れた人たちが一様に驚くのが、階段を上った先にある奥の院の社殿。日本一複雑な社殿とも言われている建築物は、一見の価値ありです。

紙祖神 岡太神社 大瀧神社
福井県越前市大滝町13-1

越前は和紙の生産量、質、職人の数も日本一

敷地内にあった築100年の蔵を改築した和紙ギャラリー

杉原商店の杉原吉直さん

油とんは1畳15万円ほどするという

「和紙の伝統工芸士が全国で66人いるうち、30名が越前にいて、人間国宝の岩野市兵衛さんもいる。質、量ともに越前は日本一の和紙産地です」。越前で150年続く和紙問屋・杉原商店の杉原吉直さんは、“遺産”ではない和紙の今に生きる工芸の可能性を、蔵を改装したギャラリーのなかで説明してくれた。ギャラリーの中でひと際異様な存在だったのが、油とん(ゆとん)。いわゆる夏用の敷物で、何重にも和紙を重ねた上に荏胡麻油を塗った油とんは、触るとひやりとしていて、クーラー要らずだとか。100年はもつとされ、いまでは鯖江で1軒しか作れるところがないと言います。ちなみにこの越前和紙、前述のゴディバのバロタンの包み紙にも採用されています。

杉原商店
福井県越前市不老町17-2

おわりに

気候、風土や地理的な要因などが相俟って育ってきた越前の漆器と和紙の文化は、それを継承しながら、時代に合わせてフィットさせる人々がいるからこそ、レガシーとならずに生き生きとしているのかもしれません。こういったところに幸福度No.1の理由の一端を垣間見た気がします。

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編集部 ハリマ

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ハリマ

旅色編集長。情報誌、美容メディアなどを経て、現職。新企画を立ち上げるのが好き。最近は福井県の小浜市で出会った懐箸を持ち歩いています。

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