【奄美大島】食べ物だけじゃない! 身も心も発酵する3泊4日のウェルネスツアー
直感と好奇心で旅をする・旅色LIKESライターおんりです。近年、健康と観光を組み合わせた新しい旅のかたちとして、注目されているのがウェルネスツーリズム※です。そんなウェルネスツーリズムを体験すべく、奄美大島へと行ってきました。ツアーの中で、繰り返し耳にしたのが「酵素」「発酵」という言葉でした。食べ物だけじゃない、奄美大島で出会った奥深い発酵の世界を紹介します。
※旅先でのスパ、ヨガ、瞑想、フィットネス、ヘルシー食、レクリエーション、交流などを通して、心と体の健康に気づく旅、地域の資源に触れ、新しい発見と自己開発ができる旅、原点回帰し、リフレッシュし、明日への活力を得る旅のこと。(琉球大学・ウェルネス研究分野より)
目次
はじめに
ツアーを企画したのは、奄美大島在住の観光セラピスト・安(やす)みずきさん。"観光セラピスト"というネーミングには、「ただ観光名所を案内するだけではなく、お客様の求める自然スポットや絶景スポットへお連れして、心身の疲れや日頃の悩みを解放する旅のお手伝いをしたい」という思いが込められているそうです。
ツアーが開催された2024年2月10日は、旧暦の元旦と水瓶座の新月※2 が同時に訪れるという暦上特別な日。旅程は、歴史や文化を学ぶワークショップ、マングローブカヤックなどのアクティビティ、ヨガ、瞑想、マッサージなどのヒーリング、「自己肯定感」をあげるための座学、ムーンウォーター※3 作り、カードリーディング※4 などのスピリチュアル系ありと盛りだくさん!好奇心旺盛で、よくばりな私にぴったりです。
勇気を出して独りで参加したのですが、一緒に参加者した方も、出会った島の方々も、老若男女問わず魅力的な人達ばかりで、「出会うべくして出会ったのだな」と感じる意義深い旅となりました。
※2 水瓶座は停滞した状況に変化を起こす力があるとされ、新月には「スタート」「リセット」の意味があるため、古きを脱し新しく進むのによい日とされる。
※3 新月・満月の夜に、2時間以上月光浴させてつくる水。新月・満月の波動(エネルギー)が宿るとされる。
※4 「オラクルカード」」というカードを使い、カードから現状や今後などを読み取ること。
1. 宿「めぐりて」で発酵尽くしのおもてなし
宿泊先は、瀬戸内町にある一棟貸しの宿「めぐりて」。みずきさん夫妻が、古民家を改修し、今年オープンしたばかりです。宿の前には海が広がり、遠くには加計呂麻島(かけろまじま)や立神様※5 も見える絶好のロケーション。広いデッキでは、のんびりとティータイムやヨガを楽しめ、南国の木々が美しい庭では、焚火やバーベキューもできちゃいます。今後、屋外サウナを設置する予定もあるのだそう。
※5 海岸から少し沖ににそびえる立派な岩や小島のこと。神様が立ち寄る場所として、また海上の安全祈願の対象として、古くから大切にされている。
古民家ならではの落ち着いた雰囲気と、みずきさん夫婦のセンスがほどよくミックスされた室内は、ゆったりとした時間が流れています。テレビがないので、鳥の鳴き声や波の音が心地よく響き、ヒーリング効果は抜群。キッチンや、洗濯機、乾燥機も完備してあるので、長期滞在も可能です。
ウェルカムドリンクとしていただいたのは、みずきさんのご主人が栽培しているパッションフルーツと、島ザラメを発酵させた自家製酵素ジュース。種のプチプチとおもしろい食感と爽やかな酸味が口の中に広がります。夏の暑い日に飲んだら、より最高だろうなぁ。
朝夕の食事を作ってくれるのは、みずきさんが出張料理人をお願いした空(そら)さん。空さんは、店舗を持たず、SNSや電話予約で、ハンドクラフトやお菓子やお弁当をつくって暮らしているそう。一緒に来る娘さんが、毎回手作りのクッキーや摘んできたお花やイラストを持ってきてくれて、何だか自分が子供だった時のことを思い出してしまいました。
空さんが心を込めて丁寧につくる料理は、自由で独創的で美しく、滋味深く、ヘルシーなものばかり。島の発酵食品や野菜たくさんを使った、色とりどりの料理がテーブルに並ぶと、毎回「わぁー!」と歓声があがります。おいしい手料理の数々に、自然と会話もはずみ、気がつくとまるでみんな昔からの知り合いのようなリラックスした空間になっていました。
お腹も満たされお風呂に入ろうとすると、ここにも酵素のおもてなしが。湯船に浮かんでいたのは、米ぬかと島ハーブの酵素パックです。「やまごやハーブamaja」さんでつくられたもので、米ぬか1グラムあたりなんと80億もの微生物がつまっているそう。今頃、微生物たちが、ガチガチに固まった私の体をほぐしてくれるのかなぁと妄想しながら、いつもより長めのバスタイムを楽しみました。
ヨガやマッサージなど、「めぐりて」ではさまざまなアクティビティを満喫できます。発酵のおもてなしを受けているうちに、日常生活のなかで、無意識に気を使い、がっちりガードしていた自分の殻がじんわりと溶けて、自分自身も発酵しているような気がしていました。そんな発酵にも似た緩やかな気が「めぐりて」には流れています。
2. ここにも発酵が!? 伝統的染色技法「泥染め」と発酵の深い関係
伝統的染色技法・泥染めの工程にも「発酵」が隠れています。案内されたのは、龍郷町(たつごうちょう)にある「肥後染色夢しぼり」。まずは染めたいものとデザインを決めて、工房の方と一緒にゴムで縛ります。これで柄が決まると思うと、緊張感が……。
「発酵」が関わるのは、最初のテーチ染め(下染め)作業。奄美に昔から自生するシャリンバイ(テーチ)木のチップを煮出し、1週間ほど発酵させてつくる下染め液は、微生物の活動が活発であればあるほど、色がたくさん溶け出しよく染まります。
下染め液でもみ込んだ後、サンゴなどを砕いて作った石灰水で、色を定着させるという作業を数回繰り返し、茶褐色に染まったら、泥田でもみ込みます。すると、シャリンバイのタンニン酸と泥の中の鉄分が化合し、だんだんと深みのある黒色へ変化していくのです。大島紬のような黒を出すためには、この工程をなんと100回近く繰り返すそう。私たちは数回繰り返したところでギブアップしましたが、ピンクと茶が混じったような素敵な色になりました。
泥染めは、シミがついた服や出番がない服を染め直し、リメイクすることも可能です。しかも、泥の成分による防虫効果や、消臭作用も期待できるうえ、すべての原料が自然由来であるため、染色後の排水を河に流しても環境に問題はないといいます。まさにエコでサステナブル!泥染めは、人と自然が共存するうえで、とても理にかなったシステムなのです。
♦肥後染色夢しぼり
住所:鹿児島県大島郡龍郷町戸口2176
電話:0997-62-2679
営業時間:9:00~17:00
定休日:日曜日
3. 奄美のソウルドリンク「ミキ」も発酵でできている
ミキは神酒に由来する発酵飲料で、薩南諸島と琉球諸島で作られています。例えると甘酒のようなもので、祭りや行事に神様と人を繋ぐ大切な役割を果たすと同時に、スーパーでも売られているポピュラーな飲み物です。米や粟、麦、芋などが材料となりますが、奄美大島では米とサツマイモが主流だそう。
旧暦元旦と水瓶座新月にあわせて、ガイドのみずきさんが企画してくれたのは、「ミキ作り&旧暦元旦を奄美伝統の正月料理・三献(さんごん)で祝う」というワークショップです。ミキ作りを教えてくれるのは、会場となった「島めし屋かのう」の淳子さん。島の方々もあわせて10名ほどが参加して、賑やかに開催されました。
奄美のソウルドリンク「ミキ」もまた、「発酵」の工程が欠かせません。淳子さんの指導のもと、
①ミキサーで攪拌した米に、サツマイモと黒糖を加えた黒糖ミキと
➁お粥にサツマイモを加えた砂糖なしのミキ
の2種類を分担して作ります。できあがったミキは、各自持ち帰って発酵させますが、自宅に持ち帰って常温3日目のミキを攪拌(かくはん)したところ、発酵が進みコーラのようにあふれ出し大惨事となりました。発酵の力、恐るべし……。
三献(さんごん)は、「餅入りの吸い物の赤碗」「刺身」「鶏肉か豚肉の吸い物」の3品からなる、奄美の伝統的な正月料理です。「オショウロ(さしあげましょう)」の掛け声を合図に、淳子さんが準備してくれた三献を島の方たちと一緒にいただきます。朱塗りのお膳やお椀がお正月気分を盛り上げ、まるで親戚で集まってお祝いしているかのような晴れやかな気分になりました。
♦島めし屋かのう
住所:鹿児島県大島郡瀬戸内町篠川173ー4
電話:090-8918-0259
営業時間:11:30~15:00
営業日:土~月曜日
4. 黒糖焼酎は、2段階の発酵でできている
最後にご紹介するのは、奄美の特産品・黒糖焼酎です。奄美群島に限り製造が認められている焼酎で、米麹と黒糖の二段仕込みでつくられます。一次仕込みで、水と麹と酵母を発酵させて醪(もろみ)を作り、二次仕込みで醪に黒糖液を加えさらに発酵させます。
私たちが訪れたのは、宇検村(うけんそん)にある「奄美大島開運酒造」。クラシックで音響熟成された黒糖焼酎「れんと」で有名な酒造です。なぜ島唄ではなくクラシックかというと、周波数に抑揚のある音楽が最も効果的だからだそう。蔵にある熟成タンクにはスピーカーがついていて、説明の声が聞き取れないくらい大音量でクラシックが流れていました。今年1月に「薩南諸島の黒糖製造技術」が登録無形民俗文化財に答申されたこともあり、奄美大島の黒糖は今後ますます注目されそうです。
♦奄美大島開運酒造
住所:鹿児島県大島郡宇検村湯湾2924-2
電話:0997-67-2753
営業時間:9:00~16:00
※工場見学は事前問い合わせが必要
おわりに
奄美大島での多様な発酵文化に触れているうちに、私自身もこの旅で出会った人や出来事や体験に触発されて、少しずつ"発酵"しているような気がしていました。私のなかにある「~するべきだ」「~ねばならない」という思い込みや固定概念、常識などが溶けて緩んでいくような感覚は、旅が終わった今もまだ続いています。
普段時間に追われて慌ただしく過ごしている人や、「これでいいのかなぁ」とモヤモヤした気持ちを感じている人は、是非奄美大島の観光セラピスト・みずきさんを訪ねてみてください。きっと島の人達との素敵な出会いや奄美の自然のパワーが、あなたを内側から"発酵"させ、新たな気づきや明日への活力を与えてくれると思いますよ。