ふかふかの手袋。
ポンポンのついた毛糸の帽子。
ボアのついたブーツ。
襟まきつきのコート。
あたりいちめん真っ白な雪の中を駆け回る。
太陽の光を浴びてきらめく雪の結晶。
ゆきだるまに、ゆきうさぎ。
かまくらの中で餅を焼くのもいいかもしれない。
かような光景をいつも夢見ている。
だが、現実は、寒い。
実に、寒い。
いくらコートの襟をあわせても、両手にはあはあ息を吹きかけても寒い。
10分もしないうちに、私は雪の中でがたがたと震えだし、外へ出たことを後悔しはじめる。
しかしながらこれは単純に、私の防寒不足ゆえのことであると、最近知った。
普段、アウトドアとは完全無縁な生活をしているインドア派の私であるが、このたび雪の青森県、弘前を訪れるにあたり、遂に防寒の世界に足を踏み入れてみた。
その類まれなる商品の数々や。
現代技術の進歩は著しいものである。
ダウンってあったかい……(いまさら)。
鑑みれば、常日頃の私の格好はといえば、ウールのオーバーコートに革のブーツ。暖かさはといえば、せいぜいニットのみ。まるで19世紀と違わぬ様相である。
21世紀にタイムトラベルした私は、いまや寒さではなく感動に打ち震える。
ゴアテックスって凄いね、水まで弾くのね。
インナーダウンって、どうしてこんなに薄いのに温かいんだ。
ヒートテック、コスパがやばいぞ。
八甲田山の雪中行軍も、装備(凍傷予防に靴下三枚重ねに唐辛子を塗り油紙を巻く)がその生死をわけたという話もあるし。
私はいまさらながら、なぜみんながこうもアウトドアブランドを身にまとっているかの理由がわかったのであった。
かくしてしばしアウトドアブランドの探求に勤しみ、学習に励んだ。
いまなら北極にもヒマラヤにも行けそうな気さえしてくる。
とはいえ、私がこれから訪れる場所は弘前とはいえ、駅前のホテルと「れんが倉庫美術館」。そもそもそこまで防寒する必要もないのでは?! という根本的な疑問は残るのだが……。
美術館前の広場で雪遊びも辞さない気持ちで臨みたい。