「チン電」でめぐる大阪・堺~阪堺電気軌道~
静岡県在住。愛読書は時刻表。暇さえあればリュックひとつで旅に出かけるLIKESライター・なおは、こよなく愛する鉄道を使って絶景巡りをしています。今回乗車したのは大阪南部を走る阪堺(はんかい)電気軌道。地元の方に「チン電」と呼ばれ親しまれる路面電車に乗って周辺スポットを巡ります。
目次
大阪の一大ターミナル・天王寺駅前から延びる路面電車
こんにちは、なおです。今回わたしは大阪、天王寺に来ています。
駅前にはどーん! とあべのハルカスがそびえ立ち、その他のビルや商業施設も林立する大都会。天王寺駅からは大阪環状線やJR阪和線が和歌山方面に出ているほか、奈良方面の大和路(やまとじ)快速も走り大阪市南部の鉄道の一大ターミナルとなっています。そんな天王寺駅の駅前、あべのハルカスの麓に少し控えめに佇む路面電車の駅があります。
それが「天王寺駅前駅」。今回ご紹介する阪堺電気軌道の起点となる駅です。
大都会大阪を走る路面電車の旅。いったいどんな素晴らしい景色に出会えるんでしょうか。それでは出発します!
阪堺電気軌道の紹介
阪堺電気軌道は明治33年に開業した天王寺駅付近から阿倍野(現在の東天下茶屋駅)を結ぶ大阪馬車鉄道(馬が客車を引いて走る鉄道)を起源とします。120年の間に社名変更、路線の延伸、一部路線の廃止などの変遷を経て、現在は天王寺駅前駅から住吉駅までの上町線と恵美須町から浜寺駅前駅を結ぶ阪堺線の2路線を運行しています。
運賃はどこまで乗っても1乗車おとな 230円、こども120円。上町線と阪堺線の乗り継ぎは、住吉駅と我孫子(あびこ)道駅でのみ可能です。お得な乗車券も用意されており、1日乗車券はおとな 600円、こども 300円で、3回の乗車で元が取れてしまいます。どこか懐かしさを感じる日付を削って使うスクラッチ方式。日付を間違えないように削りましょう。
住吉で摂津国の一宮にお参り
それでは路面電車の旅に出発しましょう。多くの車両はロングシートのみになっていますが、新型の超低床車「堺トラム」では1人掛けのシートも用意されています。
電車に揺られて約17分で、住吉鳥居前駅に到着しました。
その名の通り、駅は住吉大社の鳥居の目の前にあります。住吉大社は摂津国の一宮。全国に2,300か所あるという住吉神社の総本社で地域のシンボル的存在となっています。訪れたのが夏の暑い日だったにもかかわらず、多くの参拝者が神社を訪ねていました。
本宮の裏に回ると面白そうなスポットがありました。五所御前といって、住吉大神が神殿を建てることを決めた神聖な場所。鳥居の向こうに敷かれている小石にはマジックで「五」「大」「力」と書かれているものがあり、一つずつ拾って先ほどのお守り袋に入れると心願成就の御利益があるとされています。
◆住吉大社
住所:大阪府大阪市住吉区住吉2丁目9-89
電話:06-6672-0753
朝しか電車が来なかった!? 旧住吉公園駅跡へ
住吉大社は南海電鉄の住吉大社駅からもほど近く約3分でアクセスできます。住吉大社駅の横に、「住吉公園驛」と書かれた古びれた駅舎が。
住吉公園駅は2016年1月末で廃止された駅です。最盛期には数分間隔で電車が出ていた時期もあったのですが、廃止間際の2014年には朝の1日5往復(休日は4往復)のみの発着となり朝8時半過ぎには終電が発車して営業が終了する状態になってしまいました。軌道の改修費用が必要になったのを機に、近くに住吉鳥居前駅があることから駅を残す意義も薄れ駅は廃止。駅舎は今も残っており、軌道があっただろう跡に沿って駐車場ができていて往時を偲ぶことができます。廃線好きな方にはたまらない場所です。
◆阪堺電気軌道住吉公園駅跡
大阪府大阪市住吉区長峡町3-1
商都・堺の古い街並みがのこる高須神社駅界隈
住吉鳥居前駅から再び電車に乗って浜寺駅前方面に向かいます。大和川を渡ると堺市に入ります。
下車したのは高須神社駅。「じんじゃ」ではなく「じんしゃ」と読むところがなかなかトリッキーです。
駅名の由来となった高須神社は駅の近くにある小さな神社です。
高須神社駅から綾ノ町(あやのちょう)駅に至る周辺は江戸時代に建てられた屋敷が多く残ります。戦国時代に焼き尽くされた堺は、江戸時代に新たなまちづくり「元和の町割り」が行われました。高須神社駅界隈は堺を襲った大空襲を奇跡的に免れたため、未だに500年前の町割りや当時の様子を色濃く残す建物が残っているのです。町を歩くだけで楽しくなりますが、今後は鉄砲鍛冶屋敷を博物館として活用することとなっており、新たな観光スポットとして脚光を浴びることになりそうです。
◆堺市立町家歴史館 清学院
住所:大阪府堺市堺区北旅籠町西1丁3-13
営業時間:10:00~17:00
定休日:火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/29~1/3)
千利休ゆかりの地で古墳も眺める
高須神社駅から電車に乗ってさらに南へ。宿院(しゅくいん)駅で下車しました。この辺りは堺市の中心部でかなりの賑わいを見せています。
千利休・与謝野晶子を知る新たな観光スポット
平成27年、駅からすぐの場所に堺が生んだ偉人、千利休と与謝野晶子の資料館「さかい利晶の杜」がオープンしました。特に千利休は、宿院付近の商家に生まれておりゆかりの深い人物です。
濠で囲われていた江戸時代の堺の古地図が床に描かれています。先ほど渡った大和川や歩いた綾ノ町も描かれていて位置関係がよくわかります。
◆さかい利晶の杜
住所:大阪府堺市堺区宿院町西2丁1-1
電話:072-260-4386
開館時間:千利休茶の湯館、与謝野晶子記念館、観光案内展示 9:00〜18:00 ※千利休茶の湯館、与謝野晶子記念館の入館は17:30まで、茶の湯体験施設 10:00〜17:00
さかい利晶の杜の隣にあるのが「千利休屋敷跡」です。晩年豊臣秀吉の怒りを買って蟄居(ちっきょ)※1 した場所であり、隅に造られた井戸は、利休が秀吉の怒りを買った原因といわれる大徳寺山門の木材を転用し、江戸時代に利休を偲ぶ者たちによって造られたといわれています。
※1 家に閉じこもること
◆千利休屋敷跡
住所:堺市堺区宿院町西1丁17-1
開館時間:10:00~16:30
定休日:第3火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/29~1/3)
堺市役所から日本一の前方後円墳を眺める
宿院駅から歩いて17分ほどのところにある堺市役所に来ました。21階が入場無料の展望フロアになっており、堺の景色を自由に眺めることができます。堺といえば「百舌鳥・古市古墳群」が世界遺産に登録されており、中でも日本最大の前方後円墳である仁徳天皇陵が有名です。過去に一度行ったことがあるんですが、
当然ですが正面からでは教科書などでよくみる特徴ある形はわかりませんでした。古墳はとてもありがたいものではあるんですが、やはり正面からではなく上から見たいもの。「鍵穴」のようなあの形を上から見たい! と思い堺市役所の展望階へ行きます。
向こうの方に見える緑の森がすべて仁徳天皇陵。想像以上に広い! ただやはり鍵穴の形は見ることができませんでした。相当高いところから覗かないとあの形は見ることができないんですね。
◆堺市役所21階展望ロビー
住所:堺市堺区南瓦町3-1
営業時間:9:00~19:00
定休日:年中無休
料金:無料
洋風近代建築が出迎える浜寺駅前駅
宿院駅から電車に乗ってさらに南へ。終点の浜寺駅前駅に到着しました。
乗客を路上で降ろしたあと対向列車が出発すると、前進してホーム上で乗客を乗せます。「浜寺駅前駅」と名乗っていますが「浜寺駅」はありません。南海電鉄「浜寺公園駅」が130メートルほど離れたところにあります。今は役割を終えてしまいましたが、かつての浜寺公園駅は、みごとな近代洋風建築で、実際に利用されていた2016年までは私鉄で最も古い駅舎とされていました。
近代洋風建築の父・辰野金吾氏の設計によるもので初の駅舎設計作品です。1907年から利用されてきましたが、地域の線路が高架化されるにあたり営業を終了し、今はカフェやギャラリーとして活用されています。駅にはストリートピアノが置かれていて、この日も古い駅舎からピアノの音が聞こえていました。
さいごに
大阪と堺を結び長きにわたり地元の足となっている「阪堺電車」。地元の方には親しみを込めて「チン電」と呼ばれてきました。決してスピードが速いわけではありませんが、ときにはあせらず時間をかけて移動して大阪、堺の町を散歩してみてはいかがでしょうか。