移住をきっかけに、それまで培ってきた技術や大切にしてきた思いを、自分らしい仕事につなげた二組の店主。なぜ紀美野町を選び、ここでどんな日々を築いてきたのか。仕事や地域との関わり、移住して気づいた魅力など、それぞれの経験から紀美野町での暮らしをひもときます。
撮影/田村和成 文/西 倫世

移住をきっかけに、それまで培ってきた技術や大切にしてきた思いを、自分らしい仕事につなげた二組の店主。なぜ紀美野町を選び、ここでどんな日々を築いてきたのか。仕事や地域との関わり、移住して気づいた魅力など、それぞれの経験から紀美野町での暮らしをひもときます。
撮影/田村和成 文/西 倫世
東京や大阪などで働いた後、兵庫県宝塚市でパン店「ドーシェル」を開業した戸田晶さん。商売向きの立地でないと気付き、さらに母親の体調の変化や子どもの小学校入学なども重なり、「動くなら今だ」と移住を決意したそう。「商圏をイメージできる、故郷の海南市に近い場所で探し、見つけたのが紀美野町でした」。
決め手は、山と海の両方を感じられるロケーション。当時みかん畑だった土地を借り、前店を手がけた設計士と共に、見晴らしのいいログハウス風の建物を建てました。自ら畑で農作物を育てるほか、農家から直接野菜を仕入れたり、知人が無農薬で育てた小麦を譲ってもらったり。「生産者との距離の近さも、地方でパン作りをする魅力」だと言います。

「移住前より仕事は2倍楽しいし、パンも2割ぐらいおいしくなった気がする」と笑う戸田さん。「以前は、小さな厨房の中だけが自分の世界。でもここなら自分の畑もあるし、仕事をしながら朝日が見える。野菜やフルーツを育て、ジャムを手作りするなど仕事は増えるけど、それも自然と暮らす醍醐味です」。
地方への移住を考える人に伝えたいのは、自分の技術を持つ大切さ。「漠然と移住するのではなく、自分で生計を立てられる技術を身につけていた方が、田舎暮らしで花が開く。近隣には手すき和紙職人の工房や画家のアトリエがありますし、僕自身も都会で腕を磨いたからこそ、目新しいパンがある店として注目してもらえました」。この地で歩んだ約28年。素材や人との出会いを重ねながら、戸田さんのパン作りも少しずつ形を変え、今へとつながっています。
[DATA]
住所/和歌山県海草郡紀美野町釜滝417-3
電話/073-489-5324
営業時間/11:00~16:00(LO15:30)、土日祝10:00~17:00(LO15:30)
定休日/月曜日~水曜日、不定休

尾上泰江さんが紀美野町と出合ったのは、約5年前。山の中にある古民家の宿泊施設「うえみなみ」に一泊したことがきっかけでした。当時、夫婦で移住先を探しながら各地を旅するなか、山々に囲まれた場所でのリトリートから「ここで暮らしたい」という思いが芽生えたと言います。
移住を後押ししたのが、町の「きみの地域づくり学校」。東京から毎月通い、地域でのなりわいや暮らしを学びながら、地域住民と交流。「移住前から知り合いがたくさんいる状態をつくってもらえたので、安心して来ることができました」と振り返ります。地元の人気店の店主から「駅前だとターゲット層は周辺の人だけ。山の中だからこそ広いエリアからお客さんを呼べる」という考え方を聞けたことも、未経験だったカフェ開業へ踏み出す勇気につながりました。

物件を探すこと約1年。憧れていた“山の上の暮らし”を叶える古民家と巡り合います。築約100年、長年空き家で一部は屋根も落ちていた建物をフルリノベーション。残せる梁や柱を生かし、住まいとカフェへよみがえらせました。実際に暮らしてみても「移住前のイメージとの大きなギャップはなかった」と言い、事前に地域とのつながりを築いていたことで、自然体での新生活が始められました。
移住を考える人には、「自分のやりたいことを大事にできる場所を見つけてほしい」と尾上さん。紀美野町には魅力ある空き家や継承を希望される農地など、店を始めたい人や農業に挑戦したい人にも可能性のある場所だといいます。「まず地域を訪れ、人とつながることが、自分らしく心地よく暮らす第一歩かな」と語ります。
[DATA]
住所/和歌山県海草郡紀美野町北野71-1
電話/080-8941-6524
営業時間/10:00~16:00
定休日/火曜日・木曜日・日曜日
