上林春松本店の直営小売店内の一角に用意された呈茶席では、
壺庭を望みながら抹茶と和菓子が味わえる
テーマのある旅 武士のたしなみ 徳川家光と茶の湯を辿る旅
武士のたしなみ 徳川家光と茶の湯を辿る旅

桜を愛した歌人 西行法師と春に浸る旅

戦国武将たちが愛した茶の湯。江戸幕府を開いた徳川家康も茶を好み、宇治から江戸まで茶を取り寄せていたといいます。3代将軍の家光も、祖父・家康と同じく毎年新茶の時季になると宇治から取り寄せた茶を楽しんでいました。昔から、「飲むと無病息災で一年間を過ごせる」という言い伝えがある新茶。茶を愛した家光ゆかりのスポットを訪れてみましょう。

文/松尾好江(ランズ)

徳川家光をおさらい

慶長9(1604)年、江戸幕府2代将軍秀忠の次男として江戸城で生まれました。幼名を竹千代といい、17歳で元服し家光と名乗るようになります。弟との世継ぎ争いがありましたが、家康が家光を後継者としたため、20歳で3代将軍になりました。家光は、将軍を頂点とした幕藩体制、大名を統制するための武家諸法度や参勤交代など、200年以上続く江戸時代の基盤となる制度を確立しました。自身を将軍としてくれた家康を、生涯を通して敬愛した家光。家康が祀られている世界遺産の日光東照宮を、寛永13(1636)年、豪華絢爛な建造物に作り替えました。幼いころから病弱だった家光は、慶安4(1651)年、病気により江戸城内で、48歳で亡くなりました。

奈良井宿
奈良井宿は日本最長の宿場町で、中山道沿いに南北約1km、東西約200mの範囲に広がる

Spot01 奈良井宿

長野県塩尻市

御茶壷道中は慶長18(1613)年、幕府が朝廷に宇治茶を献上するため、宇治採茶師を派遣したことが始まりとされています。その後、寛永10(1633)年に家光が制度化させました。毎年4月下旬から5月上旬ごろ、宇治の新茶の茶葉が詰められ茶壷を厳重に包み、運ぶ際には細心の注意が払われたといいます。
江戸から宇治までの往路は東海道を、復路は中山道・甲州街道を通り江戸へ運ばれました。将軍家の威厳を表すために制度化された御茶壷道中。多い時は1000人以上が100を超える茶壷を運び、豪華絢爛な行列を作ったそうです。復路の通行地点であった奈良井宿では毎年、宿場祭で御茶壷道中の道中行列を再現しています。長泉寺から出発し、宿場内を木曽の大橋まで一巡します。

奈良井宿 住所/長野県塩尻市奈良井
アクセス/電車:JR中央本線奈良井駅から徒歩約3分
車:長野自動車道塩尻ICから約40分
電話/0264-34-3160(奈良井宿観光案内所)

奈良井宿
樹齢300年以上の総檜造りの太鼓橋
奈良井宿
6月の第1金~日曜日に開催される「奈良井宿場祭」の最終日に御茶壺道中の大名行列が再現される
(2021年は中止)
奈良井宿
慶長年間(1602年)から明治維新まで問屋だった建物で、国の重要文化財に指定されている。現在は古文書、陶器、漆器など約400点を展示する資料館になっている
上林春松本店
館内には、製茶道具や小堀遠州などからの書状などの資料が展示されている
京都府宇治市

Spot02 上林春松本店

上林春松本店
幕府や大名に茶を運んだ際に使った御茶壷道中籠
上林春松本店
宇治・上林記念館の長屋門は元禄11(1698)年の宇治大火の後に再建された宇治茶師の長屋門

安土桃山時代から宇治の茶園の管理をしていた上林一族は、徳川家康から御茶師全体をまとめる役に命じられます。初代上林春松から代々、御物御茶師・上林春松として、幕府御用の茶園の管理や製造・精製、碾茶(てんちゃ、抹茶の原料)を壺に詰めるといった仕事を担っていきます。寛永10(1633)年に、御茶壺道中が制度化されると、上林家は総責任者として幕府と将軍家に納める茶葉を決め、御茶壺道中のスムーズな進行を取り仕切ります。明治時代以降、幕府への納入はなくなりましたが、上林春松は一般向けに新商品を販売し、茶師から茶商へ転身して、茶業の継続を図りました。
上林春松本店の「宇治・上林記念館」は、幕府や大名家に茶を運ぶために使った茶壺や、歴史的資料などが展示されています。

宇治・上林記念館 住所/京都府宇治市宇治妙楽38
入館時間/10:00~16:00
料金/200円
休/金曜日、8/13~16、12/30~1/5
アクセス/電車:JR奈良線宇治駅から徒歩約8分、車:京滋バイパス宇治東ICから約5分
電話/0774-22-2513

上林春松本店
宇治・上林記念館の隣には上林春松本店の直営小売店があり、茶葉を購入したり、呈茶席ではオリジナルの抹茶を味わえたりする
ふじのくに茶の都ミュージアム
館内では、お茶の起源や日本茶の世界への広がり、世界のお茶などについての資料が展示されている

Spot03 ふじのくに茶の都ミュージアム

静岡県島田市

徳川家光の茶の師範・小堀遠州は、千利休や古田織部に続いた茶道の本流を受け継ぎ“綺麗さび”といわれる茶の湯の世界を作った茶人です。建築・造園にも優れ、二条城や駿府城などの造営を行っていた大名でもあります。
ふじのくに茶の都ミュージアムでは、絵図面などをもとに復元した、小堀遠州作の茶室と庭園があります。茶室「縦目楼(しょうもくろう)」は、わび茶を基盤としつつ、平安王朝時代の雅さと和歌の世界を融合させた、綺麗さびの世界観を間近で見ることができます。ミュージアムでは、日本のお茶の歴史や静岡のお茶について、世界のお茶などさまざまな展示が行われています。茶道体験では、茶室で先生が点てた抹茶と季節の和菓子をいただくこともできます。

ふじのくに茶の都ミュージアム 住所/静岡県島田市金谷富士見町3053-2
開館時間/9:00~17:00(入館~16:30)、茶室は9:30~16:00(入室~15:30)
料金/300円
休/火曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始
アクセス/電車:JR東海道本線金谷駅からタクシーで約5分、車:東名高速道路相良牧之原ICから約10分
電話/0547-46-5588

ふじのくに茶の都ミュージアム
茶室「縦目楼」の鎖の間「臨水亭(りんすいてい)」
ふじのくに茶の都ミュージアム
鎖の間は茶道体験ができ、抹茶と和菓子をいただける
ふじのくに茶の都ミュージアム
寛永11(1634)年、小堀遠州が手掛けた後水之尾院の仙洞御所の東庭を復元した、池泉回遊式・舟遊式の庭園
二条城
天明8(1788)年の大火で焼失した本丸御殿。
現在の御殿は、明治27(1894)年に明治天皇によって移築されたもの(現在修理工事中)
京都府京都市

Spot04 二条城

二条城
国宝に指定されている二の丸御殿は、書院造りの江戸時代初期を代表する建物
二条城
寛永の大改修の際に、小堀遠州のもとで改修された二の丸庭園。その後、昭和28(1953)年に国の特別名勝に指定された

徳川家康が築城した二条城。寛永3(1626)年、家光と秀忠が御水尾天皇の行幸に伴い城域を拡張し、天守閣や本丸御殿を造営しました。2年の歳月をかけた二条城の拡張に関わったのが、家光の茶の師でもあり、作事奉行としても活躍していた小堀遠州でした。当時の二の丸庭園は、古代中国の不老不死の仙人が住む仙境・蓬莱山の世界をあらわした庭園といわれ、池の中央に3つの島、4つの橋があり、二の丸御殿の大広間、黒書院、行幸御殿の3方向から観賞できるように設計されていました。その後、改修された庭園は、昭和28(1953)年に国の特別名勝に指定されました。城内の和楽庵では、抹茶セットなどをいただきながら、清流園の庭園を眺めることができます。

二条城 住所/京都府京都市中京区二条通堀川西入二条城町541
入城時間/8:45~16:00(閉城17:00)
料金/1,030円
休/12月29~31日
アクセス/電車:地下鉄東西線二条城前駅から徒歩すぐ、車:名神高速道路京都東ICから約30分
電話/075-841-0096

二条城
二の丸御殿の大広間四の間に描かれた障壁画「松鷹図」は、桃山時代の様式を取り入れた迫力ある松と鷹が描かれている