「『既製品のお茶だけでは満足できない』と、初代である北川半兵衛は最高の茶葉を探し集めていたそうです。しかし幕末まで、宇治茶は特別な権利を持つ茶師しか商いが許されておらず、半兵衛は茶師の家系ではありませんでした」と語るのは6代目北川直樹さん。1861年5月、今から丁度160年前に幕府が茶商を自由化したことで、晴れて北川半兵衞商店として設立。一躍、半兵衛の厳選した宇治茶が全国に広まることとなりました。現在まで74回開催された全国茶品評会でも、最高賞を獲得すること11回。契約栽培農家を含めると受賞歴40回以上と、日本を代表する茶問屋の一角を担っています。
“時代に合わせ、お茶づくりに挑戦し続けること”が、北川半兵衞商店の理念。「自社の茶園で品評会用の抹茶を作りながら、そこで培った技術を17軒の契約栽培農家に広めています。各茶園で摘まれた茶葉は蒸し、揉み、乾燥などの工程を経て荒茶となりますが、この時点ではまだ完成品ではありません。その数百種にもなる多種多彩な荒茶の個性を見極め、配合することが合組(ごうぐみ)という茶問屋の腕の見せどころです」と直樹さん。銘柄ごとに5〜10種類ほどの荒茶を組み合わせることで、常に一定の品質を保ち続けているそうです。そうして技を受け継ぎながら、代々守り抜いてきた日本茶を「もっと気楽に楽しんでいただきたい」と開始したのがカフェ事業でした。
店内に小気味よく響くシェイカーの音。カクテルグラスに注がれたのは、なんと最高級の抹茶でした。「さまざまな方法で冷たい抹茶を点てて飲み比べたら、このやり方が最も美味しかったんです」と語るのは、店舗統括マネージャーの山形陽さん。「茶道により敷居が高いイメージになっている抹茶を、もっと身近なものにしたいんです」とも話します。茶筅で点てた温かい抹茶も、あえてグラスで提供。煎茶、ほうじ茶、和烏龍茶、和紅茶と飲み比べできるセットが「作法を気にせず、じっくり味わえる」と特に評判です。テアニンという煎茶の旨み成分を際立たせるため柴漬けをチョイスするなど、各お茶に合わせた一口菓子も個性豊か。新しいお茶の世界が広がるカフェとして大きな注目を集めています。
構想と準備に10年もの歳月を費やし、立地からメニューまで「一切妥協していない」という祇園 北川半兵衛。抹茶アイスを一口食べるだけでも、老舗茶問屋の矜持が伝わってきます。「旨みと香りはしっかりと、渋みや苦味は優しく穏やか。アイスとして成立する限界まで、高級抹茶の比率を増やしているんです」と自信をのぞかせていました。ほかにも1層ずつ重ね4日かけて作る7層仕立てのケーキなど、抹茶スイーツは多種多彩。ワンプレートで食べ比べできる抹茶のデグリネゾン2,600円が人気を集めています。また、築約120年の町家を改装した店内は、スタイリッシュでありながら、古い茶箱を階段横に積み上げていたり、茶壺を植木鉢に再利用していたり。古今のお茶文化が同居する、居心地の良い空気に包まれていることも、多くのファンが足繁く通う理由なのです。
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祇園 北川半兵衛
住所/〒605-0074 京都府京都市東山区祇園町南側570-188
電話/075-205-0880
定休日/不定休
営業時間/11:00~22:00(18:00~は夜カフェ営業)
座席数/32席
アクセス/京阪本線 祇園四条駅から徒歩6分
駐車場/無