浅田政志の宿旅

旅の目的は、あの宿に泊まること―。至高の宿泊体験を切り取る写真連載。第16回は、標高2000メートルの信州・美ヶ原高原に建つ、雲上のホテル。息をのむ絶景が360広がっています。
写真家 浅田政志の宿旅
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Vol.16「王ヶ頭ホテル」長野県松本市

徒歩、2分。
松本市内から車で約1時間、王ヶ頭ホテルは標高2000メートルにあり
雲と同じ目線、その下に草原や松本の街並みが広がります。
この絶景までホテルから徒歩2分。浮世離れした世界が広がっています。
日本一、高くて広い草原
ホテルは自然保護区にあるため、車の乗り入れが制限されており途中から無料の送迎バスに乗り換え、広大な草原を進みます。支配人の三浦さんいわく「この標高でこれだけひらけた場所は日本でここだけ」。ルートによっては、美ヶ原高原の象徴「美しの塔」へ。「美しの塔」に刻んである、山岳詩人・尾崎喜八氏の詩の一節、『世界の天井が抜けたかと思う』を実感できます。
まるで要塞。その居心地のよさ、鉄壁の守り。
美ヶ原のなかでも、標高2,304メートルの王ヶ頭頂上に位置する王ヶ頭ホテルの周囲には、電波塔や警察無線が建っています。
その様は、まるで要塞。これほど現実離れした環境の中に、山小屋ではなくホテルがあるってすごいことです。
見どころは、雲
客室は全45室。眺望のよいのは南館ですが、どのお部屋からも美しい山並みが望めます。
雲が出ても大丈夫。刻一刻と変わる、空の動きを見ているだけで飽きません。
空飛ぶ大浴場
約3キロ先から湧き水をひき、沸かしている大浴場。眼下には雄大な丘陵が広がります。
大きな窓からは草原を渡る風が吹き込み、空に浮かんでいるみたい。
この大浴場も、予約不要の貸切風呂も、チェックインから何時でも入れます。
魅力は絶景、だけじゃない
「ホテルといいつつ、山小屋でしょ」なんて思っていたらその考え、ここでひっくり返ります。
カマンベールチーズが入った茶碗蒸し、信州野菜を使ったサラダ、骨まで食べられるふっくらイワナの塩焼き……
ひと手間もふた手間もかけられた食事を食べにまた来たくなります。
美ヶ原高原寄席
館内では楽しめるイベントがたくさん。
夜には、美ヶ原の四季や星空の様子を紹介するスライド上映会が開催され、
写真にあわせてスタッフの方々が解説をしてくれます。
知識と美ヶ原への愛を交え、朗々とした声で話す様はまるで噺家のよう。
そのあとは星空観測会へ。天気が悪くて星が見えない場合は、
人工ブロッケン現象をおこしてくれます。
花言葉は「日々新たに」
毎朝6:00から開催される「朝霧自然教室」では周囲の高原植物を紹介してくれます。夏は、朝方に花開き、夕方になるとしぼんでしまうニッコウキスゲの季節。可憐ながら野趣あふれる高原植物との出会いは一期一会。来年も会えるとは限りません。
名山一望
周囲に遮るものがほぼなく、富士山をはじめ、八ヶ岳連邦、南アルプス、乗鞍岳などが望めます。
天気がよければ、日本百名山のうちの41も見えるそう。また、朝は雲海を望む絶好の時間。

王ヶ頭ホテル

昭和28年に山小屋として創業し、2000年にホテルとしてスタート。松本駅からだとバスで1本でも来られるので、標高2,000メートルといえど子どもから年配の方々まで気軽に訪れることができます。絶景はもちろん、ホテルとしてのホスピタリティも一流。周囲にお店がないので、宿の食事だけで満足してもらえるようにと、地場食材を使った夕食も朝食もボリューム満点。この場所に魅了されたというスタッフも温かで、ホテルの中だけで十分に楽しめます。

住所 / 長野県松本市入山辺8964
電話 / 0263-31-2751
URL/ https://www.ougatou.jp/
料金 / 1泊朝食付 1人 19,400円~

浅田政志
Masashi Asada浅田政志
1979年三重県生まれ。2007年に写真家として独立。2008年、写真集『浅田家』(赤々舎刊)で第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。『浅田家』をもとにした映画『浅田家!』が2020年10月2日(金)公開。著書に、『NEW LIFE』(赤々舎刊)、『家族新聞』(幻冬舎刊)、『家族写真は「」である』(亜紀書房)など。国内外で個展、グループ展を精力的に開催している。