ウェス・アンダーソンの世界観に浸れる風景展へ|映画ソムリエ東紗友美と巡る魅惑の映画スポット
ポップな色彩に、どこか懐かしく愛おしさを感じる風景……どのシーンを切り取っても、まるで絵画のようなウェス・アンダーソン監督の映画作品。そんなウェス映画に“出てきそう”な風景写真を約300点展示した「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」が、東京・寺田倉庫で開催中。映画ソムリエ・東紗友美さんが、ウェス作品の魅力と共にその見どころをご紹介します。さらに、ウェスっぽい写真を撮影するヒントや、街中でウェス風スポットを見つけるコツも。みなさんの周りにも、きっと“ウェス的風景”があるはずです!
目次
「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」って?
個性的で忘れられない絵画のような構図、コミカルで可笑しみ溢れる愛おしいキャラクター。そして、際立つ色彩センスを兼ね備えた世界観で、世界中の映画ファンに愛されるウェス・アンダーソン監督。
アカデミー賞脚本賞にノミネートされた『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)やベルリン国際映画祭で審査員グランプリを受賞した『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)など、一度観たら忘れられない美的センスとユーモアに溢れた作品を数々世に送り出していて、その独自の作家性から年齢や国籍を超えて絶大な支持を誇る監督の一人です。
そんなウェス映画のワンシーンに出てきそうな風景を集めたInstagramの人気コミュニティ「AWA(Accidentally Wes Anderson)」の展覧会、「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」が、2023/4/5~5/26まで東京・天王洲の寺田倉庫G1ビルにて開催中。私もウェス映画ファンなので、ショートトリップ気分で訪れました。
旅に出かけたくなる『ダージリン急行』の世界観
この展覧会は、世界各地への旅を疑似体験できるよう“旅”にまつわる10のキーワードごとにエリアが分かれています。作品数も見どころも多い本展の中で、特にお気に入りのエリアをいくつかご紹介。ちなみに、全展示撮影OKです!
まずは、乗り物にまつわる写真を集めた「Mind the Gap」エリア。ウェス・アンダーソン版「世界の車窓から」ともいえる作品『ダージリン急行』を想起させるエリアです。車窓からの景色は乗客の気持ちになれますし、目的地までのワクワク感も感じられて、この展覧会の副題「あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」にもピッタリ。
日本のJRと新幹線の写真も展示されていました。見慣れた日本の景色も、切り取り方でこんなにもドラマチックになるなんて。日常の見え方が豊かになりそうですね。
こちらの「Mind the Gap」エリアの元ネタである『ダージリン急行』は、父の死以降疎遠になっていた3兄弟が、インドを横断する「ダージリン急行」のなかで紆余曲折しながらも兄弟の絆を取り戻していく、家族愛の物語。超個性的なキャストたちが演じる主人公たちの体験を通して、私たちもインドの秘境を旅しているような感覚になれるロードムビーです。列車旅を擬似体験したい人にオススメですよ。
『グランド・ブダペスト・ホテル』の登場人物になりきれる!?
本展では、ウェス・アンダーソン監督の最も有名な映画のひとつ、『グランド・ブダペスト・ホテル』の世界観を再現したフロントも見どころ。まるで映画の世界に入り込んだかのような気分を味わえる、ドラマチックなフォトスポットが再現されています。中に入ってフロントマンになりきることも可能!
また、『グランド・ブダペスト・ホテル』の世界観といえば、ピンクの建物も外せませんよね。ピンクとブルーだけを集めたエリア「Colorful Collection」もキュートで心が躍ります。
これらの元ネタである『グランド・ブダペスト・ホテル』は、ウェス映画で最も人気のある作品の一つ。時代は1930年代、ヨーロッパ東端にある架空の国「ズブロフカ共和国」にある一流ホテルを舞台にしたミステリー作品。常連客の殺人事件と遺産争いに巻き込まれた“伝説のコンシェルジュ”が事件を解明すべく冒険を繰り広げます。
こんなに可愛らしい世界観なのに、殺人事件を追うサスペンスミステリーであるギャップ……でもやっぱり悶絶するくらいラブリーなシーンに溢れていて、実は笑える要素もいっぱい。この作品は1930年代、60年代、85年、現代と4つの時間軸で展開されていくので、“時空の旅”の追体験も楽しめるはず。カリスマ性あふれるコンシェルジュにきっと魅了されますよ!
商業性と芸術性を見事に両立させたウェスの作品は、どれも空想的だけど綿密に計算し尽くされた世界観が魅力。まだ鑑賞したことがない人にもぜひ一度は出会ってほしいです。
オリジナルのボーディングパスを作ろう
出口エリアでは、オリジナルのボーディングチケットを作れるうれしいサービスも。設置されたモニターで、好きな旅先や色を選んで名前を入力すると……
このように、自分だけのボーディングチケットを発行してもらえます! このチケットを手にして会場を出ると、自分がここではないどこかへ向かうような気持ちになってなんだかワクワクしてきました。
ウェス的写真を撮るコツは、真正面&シンメトリー
さてここからは、全展示撮影OKの本展をより楽しむために、ウェスっぽい写真を撮影するコツをお伝えします。ポイントは簡単で、「真正面から」、そして「シンメトリー(左右対称)」を意識して撮影すること! 私も飛行機写真の展示の前で撮影してみました。
ウェス観を出すにはとにかく直立不動、もしくは左右対称のポージングで撮影すること、そして笑顔を避けること! ユニークなキャラクターたちが登場する作品が多いので、ポーズを取る場合はコミカルな表情を作るとそれっぽくなります。ここではキラキラとしたキメ顔はナシで(笑)。 さらにこだわるなら、シンメトリー感の出るお洋服もオススメ。私はパワショルのワンピースをチョイスしました。
ウェス映画にインスパイアされた色とりどりの作品たち。観賞後は、シンメトリーの構図や色彩への感度のアンテナが磨かれていくような感覚を味わえます。ウェス作品を観たことはある人はもちろん、未見の方でも十二分に楽しめる空間のはず。
誰かと一緒に行き、数ある作品の中から訪れたい場所や気になった作品をシェアして、まるで旅の帰路に感想を言い合うような会話を楽しむのもよし。ひとりで行くことで、旅路の途中で自分がたったひとりなんだと感じた時の、あの幸福な孤独感に浸るのもよし。旅の楽しみ方と同様に、人それぞれの楽しみ方ができるはずです。
◆ウェス・アンダーソンすぎる風景展 -あなたのまわりは旅のヒントにあふれている-
会期:2023年4月5日(水)~5月26日(金)※休館日なし
会場:東京・天王洲 寺田倉庫 G1 ビル(東京都品川区東品川2丁目6-4)
開館時間:11:00~19:00、毎週金・土曜日 11:00~20:00 ※GW中(4月30日~5月4日)と最終週(5月22日~25日)は11〜20時
入館料:一般2,000円(1,800円)、大学生1,500円(1,300円)、高校生以下1,000円(800円)
※( )内は前売り料金
東京で見つけたウェス的スポット
最後に、東京で”ウェス・アンダーソン的世界観”の写真が撮れるスポットをいくつかご紹介。まずは、南青山にある都会のオアシス的スポット「SHARE GREEN MINAMI AOYAMA」。芝生の広場に面したカフェ「Little Darling Coffee Roasters」のくすみピンクの建物は、まさしく『グランド・ブダペスト・ホテル』の色味ですよね。青空バックに撮影できるとよりウェス感が増しそうです。
お次は、京橋にある「明治屋京橋ビル」。イタリア・ルネサンス様式の美しいこの建物は、道路の反対側から見るのがウェス的にオススメです。こちらは日本の近代建築史上重要な建物であり、中央区の有形文化財に指定されているのだそう。レトロな石柱と装飾、そしてシンメトリーな形状にウェス的ポイント。
日々何気なく過ごしていると見過ごしがちだけど、街のあちこちに隠れウェス要素は潜んでいます。日常を楽しむ“気づき”の視点が一つ増えたかのよう!
「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」の後は、ウェス的視点の解像度がグッと高くなっているはず。私も、行く先々で無意識にシンメトリーの建物や景色を探してしまいました。街中にたくさんの発見ができて、見慣れた景色がちょっと変わって見えてきます。皆さんも日常の中にあるウェス的風景をぜひ探してみてくださいね。