小説の舞台として度々登場
歌川広重の「名所江戸百景」などにも描かれ、江戸時代から水源としても使われた景勝地。2017年には開園100周年を迎えました。『乞食学生』や『ヴィヨンの妻』など、太宰は井の頭恩賜公園を多くの作品に登場させています。園内にある茶店「井泉亭」は開園当時から続いている老舗。太宰も立ち寄っては甘酒をよく飲んでいたそう。2013年より3度の水抜きのかいぼり作業が行われ、最近では、その美しくなった池を中心とした風景がまるで絵画のようだと話題になりました。
アクセス/電車:JR吉祥寺駅から徒歩約5分
車:中央自動車道 高井戸ICから約15分
電話/0422-47-6900(井の頭恩賜公園案内所)
友人を連れて来ていた
太宰お気に入りの橋
昭和4(1929)年に、広い電車庫をまたぐように作られた橋。“陸橋”とも呼ばれ、竣工当時の姿が現存するこの橋は三鷹の人々に親しまれています。編集者や友人を案内するなど太宰も好んでよく通っていました。現在は太宰ファンのほかに、電車好きの子どもたちも喜ぶスポット。電車庫にずらりと車両が並ぶ様子や、跨線橋の下を通過する特急電車などを夕日とともに見ることができる名所としても知られています。
アクセス/電車:JR三鷹駅から徒歩約7分
車:中央自動車道 高井戸ICから約25分
太宰一家がよく訪れた旧たばこ店
三鷹駅南口より20分ほど歩いた「連雀通り商店街」は太宰馴染みの場所。その商店街にある「珈琲 松井商店」は、かつてはタバコとお酒を販売し、太宰もよくタバコを買いに来ていたそうです。太宰好きのご主人・松井寛さんによると、「私の祖母の下宿先に太宰が住んでいたんですよ」。ほかにも太宰とのゆかりあるエピソードを惜しみなく話してくれます。お店で飲める「DAZAI COFFEE」500円は、太宰の生きた時代をイメージして作られたもの。焙煎したての豆で丁寧に淹れられた一杯は、本を片手にゆっくりと味わいたくなります。
マイハイムミタカ2F
営業時間/11:00~18:30
定休日/水曜、第3木曜
アクセス/電車:JR三鷹駅から徒歩約20分
車:中央自動車道 高井戸ICから約20分
電話/0422-47-2303
「伊勢元酒店」の跡地
太宰が頻繁に訪れ、短編『十二月八日』にも登場した「伊勢元酒店」。2008年の没後60年と、翌年が生誕100年になることを記念して、2008年3月に伊勢元酒店の跡地に開設されました。館内には、三鷹で撮影された太宰の写真や、太宰ゆかりの場所の地図、太宰の年表などがパネル展示されています。そのほか、太宰の直筆原稿、初版本などの資料も。三鷹を終生の活動拠点とした太宰の情報がぎゅっと詰まったサロンです。定期的に朗読会、企画展示の開催もしています。
開館時間/10:00~17:30
休館日/月曜(祝日の場合は、翌日と翌々日)、年末年始
入館料/無料
アクセス/電車:JR三鷹駅から徒歩約3分
車:中央自動車道 高井戸ICから約23分
電話/0422-26-9150
『十二月八日』(『太宰治全集5』内に所収)
972円/ちくま文庫
昭和16年12月、日本は大きな戦争に突入した。「しかし、私は小説を書く事は、やめなかった。もうこうなったら、最後までねばって小説を書いて行かなければ、ウソだと思った…」(「十五年間」)。大戦の進行につれて文化統制が強化されるなかで、太宰ほど質の高い文学活動をした作家は、ほかにない。戦時下に成った作品群を収める。
ななせさん
読みどころポイント
戦中でも街の人が普通に暮らしているシーンばかりが描かれています。何気ない日常を繊細に描く太宰の魅力が、とても伝わる作品です。
――今回、太宰治ゆかりの地を巡ってみていかがでしたか?
三鷹に来たのは初めてでしたが、とても楽しかったです。今はかつての面影がなく、様変わりしていた場所もありましたが、時の経過を感じる魅力がありました。そうしたところは案内板が立っているところも多く、初めての人も迷わずに来れそうなのが嬉しいところ。ゆかりの地は公園や文学サロンなどバラエティに富んでいて、それぞれ近かったのでだいたい歩いて巡れるのも良かったです。松井商店さんで、ご主人から当時の様子を伺えたのも貴重な体験です。
――ななせさんが太宰治作品を好きになったのはいつでしたか?
実は、好きになったのはここ2、3年なんです。なんとなく『女生徒』という作品を読んでみました。この作品は、主人公である女生徒の日常の何気ない場面を淡々と描いているんですけど、その表現の繊細さにすごく惹かれてしまって。作中に出てくるフレーズでいくつか好きなものがあるんですが、たとえば「女は、自分の運命を決するのに、微笑一つでたくさんなのだ」という場面。電車のなかで誰かと目が合い、微笑んでしまったら、それで自分が見染められて結婚まで決まってしまうのではないか、というシーンです。作品全体には起承転結がなくて平らな作りなんですが、日常のなかにある“きらめき”みたいなものが、作中に散りばめられているところが好きなんです。それから、太宰治の短編を中心に読むようになりました。
――短編というと、ほかにおすすめの作品はありますか?
『おさん』や『秋風記』がおすすめです。『秋風記』はおそらく太宰本人がモデルなのかなと思います。『富嶽百景』や『人間失格』などは有名ですが、太宰治の作品には女性の視点で描かれているものも多いんです。男性なのに女性の心境をすごくよく理解して書いているなと思って惹かれました。『おさん』という作品で印象的だったのは、主人公の旦那が夜な夜などこかに行ってしまい、帰ってきた時に問いただしたいけど、「具体的な事は、おそろしくて、何も言えない」という場面。ここは女心をよく表しているなと。私は、ただ事実を述べるだけじゃなく、その人がこの時何を思ってどう行動したのか、という部分にすごく惹かれるんです。丁寧に描写しているところや、心理描写を重視して書いているところは、私自身作品を書くうえですごく影響を受けていますね。
――普段からよく本を読まれているんですか?
本は常にかばんに入れていますね。例えば電車での移動時間だったり、半身浴をする時に読んだりしています。小説を書く時の表現の幅を広げるためにも、太宰治はよく読むんです。旅先でも、移動中などに読んでいますね。
――旅もお好きなんですね。行き先はどういう感じで決めていますか?
私は小説に書きたいかどうかで旅先を決めることが多いんです。今、WEB連載で『夢と知りせば』という小説を書いていますが、作品の舞台である京都にはよく行きます。お寺の歴史を知ると、目の前の景色を何百年も前から綺麗だと思っている人がいることがわかる。そこに思いを馳せるんです。そうした魅力を小説に取り込んで紹介していきたいと思っています。京都以外だと、2年前に一人旅で静岡の下田に行きました。海の見える田舎町を小説で書きたくて、知り合いに聞いて訪れてみたんです。タクシーの運転手さんには、一人ですか?って驚かれました(笑)。
――小説がカギなんですね。
そうですね。書きたい場所もですが、小説に出てきたところは行ってみたいなと思います。今回も、たくさんの人がこの記事を参考に太宰治ゆかりの地へ赴いて、110周年が盛り上がるといいですね。
23作品を執筆した邸宅
長兄・文治の結婚を機に、太宰の生家・津島家の離れとして大正11(1922)年に建てられた住宅。昭和20(1945)年に太宰は家族とともに疎開し、終戦をこの家で迎えました。東京に戻るまでの1年4ヵ月をここで過ごし、その間に『パンドラの匣』、『庭』など、多くの作品を執筆しています。太宰が文壇に登場してから暮らした住居としては唯一残されている貴重な邸宅です。現在は一般開放されており、多くの太宰ファンが訪れる場所となっています。
開館時間/9:00~17:00
休館日/11〜4月(冬季)は第1・3水曜、
年末年始、臨時休館日あり
入館料/500円
アクセス/鉄道:津軽鉄道 金木駅から徒歩約4分
車:津軽自動車道 五所川原北ICから約10分
電話/0173-52-3063
『パンドラの匣』
562円/新潮文庫
「健康道場」という風変りな結核療養所で、迫り来る死におびえながらも、病気と闘い明るくせいいっぱい生きる少年と、彼を囲む善意の人々との交歓を、書簡形式を用いて描いた作品。著者の年少の友の、実際の日記を素材とした作品で、太宰文学に珍しい明るく希望にみちた青春小説。
ななせさん
読みどころポイント
日常の、身近にある何気ないことこそがドラマチックなんじゃないかと、そう思わせてくれる魅力があります。私もとっても好きな作品です。
『人間失格』執筆時の静養地
“熱海の三大別荘”と称賛され、多くの文豪に愛された名邸。3,000坪の広大な敷地内には、緑豊かな庭園を囲むようにして、日本の伝統的な建築様式が残されている本館と離れ、外国様式が融合された洋館が建てられています。太宰は、昭和60(1985)年に取り壊された別館の「雲井」の間に滞在し、代表作『人間失格』を執筆しました。また、滞在中には本館の2階「大鳳」の間にも宿泊しており、太宰がこの部屋から見ていた美しい庭園の景色を現在も眺めることができます。
開館時間/9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日/水曜(祝日は開館)、12/26〜30
入館料/510円
アクセス/電車:JR来宮駅から徒歩約15分
車:西湘バイパス 石橋ICより約25分
電話/0557-86-3101
作家。3月30日生まれ、愛知県出身。京都大学文学部人文学科 国語学国文学専修。第29回新風舎小説出版賞奨励賞受賞。好きな作家は、太宰治、夢野久作、桜庭一樹、高村光太郎。主な作品として、長編小説「リリィ・ローズの花言葉」、現在WEBサイトにて連載中の「夢と知りせば」などがある。そのほか誌面やCMなどでモデルとしても活躍している。
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