「あれ食べに行こう」からはじまる旅 タベサキ

名門ホテルで優雅にカレーを

扉写真、文:佐藤 潮.(effect)

ホテルの威信をかけた欧風カレー

家庭でもなじみのあるメニューだからこそ、シェフたちが腕を振るって提供するカレー。老若男女に親しまれる欧風カレーと思いきや、ホテルの威信をかけたハイクラスな味が楽しめます。さらに、高級感のある豪華な空間で食べることで、気分も高揚して暑さでダらけた気持ちも背筋も引き締まります。そんな非日常の旅気分を味わいに、ホテルカレーを召し上がれ。今回はカレー業界を代表する専門家にとっておきのホテルカレーを伺いました。
株式会社カレー総合研究所 代表取締役 井上 岳久さん お話を聞いた人
株式会社カレー総合研究所 代表取締役

井上 岳久さん

文化や歴史、地域的特色、栄養学まで精通するカレー研究の第一人者。総括プロデューサーとして横濱カレーミュージアムを成功に導き、現在は「カレー大學」の学長として業界を牽引する人材を育成しています。ほかにもレトルトカレーのコンサルティング、イベントの企画運営、飲食店のメニュー開発といった多岐にわたる事業を展開。『カレーの経営学』(東洋経済新報社)など著書も多数あります

カレー大學 https://currydaigaku.jp/
カレー総合研究所 http://www.currysoken.jp/

ホテルには幅広い層のゲストが訪れるため、万人受けする味が求められます。そんななかでお客を満足させるには「磨き抜いた高い調理技術を、いかに一皿で表現するか」が大切です。さまざまなこだわりを詰め込みながら独自の味を作り上げている、一流の“ホテルカレー”をご紹介しましょう

※新型コロナウィルスの影響により、施設の営業日・営業時間が変更になっている場合があります。最新の公式情報をご確認ください。
帝国ホテル 東京
帝国ホテル 野菜カレー2,700円(サービス料別)。濃厚ながら上品なコクがあり、適度にスパイシーなのも嬉しい

歴史と技と味が織りなすまさにカレーのクラシック

東京 日比谷

帝国ホテル 東京

伝統のカレーが登場したのは1931年(昭和6年)ごろ。香味野菜の粒感を残すため、あえて裏ごしをしないなど、今なお息づくのは近代フランス料理の父オーギュスト・エスコフィエ氏から学んだ技。十数種のスパイスが加えられ、ソースはより現代的な仕上がりに。弾けるように甘さが広がるトマトのコンフィをはじめ、白ワイン風味のキノコソテー、バターが香る蒸しジャガイモなど具材も多彩。まるで交響曲のように、カレーと野菜が豊かなハーモニーを奏でます。

帝国ホテル 東京
歴史ある味をカジュアルに堪能できるパークサイドダイナー。みゆき通り沿いの大きな窓から優しい光が差し込みます
[DATA]
帝国ホテル 東京/パークサイドダイナー
住所/〒100-8558東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテル本館1F
電話/03-3539-8046
定休日/無休
営業時間/7:00〜22:00(L.O.21:30)
アクセス/東京メトロ日比谷線、千代田線、都営地下鉄三田線 日比谷駅から徒歩約3分
駐車場/425台
井上岳久さん

王道中の王道です。全てにおいてディテールへのこだわりを感じますが、やはり印象的なのは野菜。それぞれ風味と食感が際立っており、カレーソースと見事に調和しています

ホテルニューグランド
ビーフカレー2,783円。柔らかな角切り牛フィレ肉が、濃厚なカレーソースに引けを取らない存在感を放ちます

洋食のふるさと横浜の中心で今なお受け継ぐ伝説の味

神奈川 横浜

ホテルニューグランド

1927年(昭和2年)ホテル開業時から、カレーのレシピを守り続けています。カレー粉を扱うイギリス企業クロス&ブラックウェル社の依頼を受け、レシピを考案したのは初代総料理長サリー・ワイル氏。ドリアの発案者としても知られる伝説の料理人です。深いコクと旨味のベースは、鶏肉や野菜をじっくりと煮込んで仕上げた特製ブイヨン。リンゴ、チャツネ、ココナッツミルクのフルーティな甘さも加わり、スパイシーな風味を見事に引き立てています。

ホテルニューグランド
カレーを提供するのは本館1階ザ・カフェ。本館は横浜市認定歴史的建造物で設計は昭和建築界の巨匠、渡辺仁氏
[DATA]
ホテルニューグランド/ザ・カフェ
住所/〒231-8520 神奈川県横浜市中区山下町10 ホテルニューグランド本館1F
電話/045-681-1841(代表)
定休日/無休
営業時間/10:00〜21:30(L.O.21:00)
アクセス/横浜高速鉄道みなとみらい線 元町・中華街駅から徒歩約1分
駐車場/118台
井上岳久さん

トラディショナルな雰囲気で、非常に居心地のよい空間です。ここで歴史に思いを馳せながらカレーを味わうのが最高の贅沢。福神漬などの副菜も華やかで味わい深いものばかり

志摩観光ホテル
伊勢海老カレー14,800円は2日前までの予約が必須。常に同じスタッフが炊くというサフランライスの味わいもリッチ

伊勢志摩の恵みを凝縮したカレーという名の芸術品

三重 志摩

志摩観光ホテル

約300グラムという大ぶりな伊勢海老を使用したカレー。注文を受けてから活きた伊勢海老を軽くボイルし、バターの上澄みでソテー、コニャックと白ワインでフランベするなど、調理法は実に繊細です。50年の歴史を誇るカレーソース、伊勢海老入りのアメリカンソースも加え、素材の風味を凝縮。隠し味の生クリームとレモンにより、味の輪郭を鮮明に浮かび上がらせています。「料理は芸術」との名言で知られる先々代の総料理長、高橋忠之氏が残した、いわば作品とも言える存在。

志摩観光ホテル
G7伊勢志摩サミットの舞台にもなったラ・メール ザ クラシック。志摩半島の大自然を眺めつつ海の幸が楽しめます
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志摩観光ホテル/ラ・メール ザ クラシック
住所/〒517-0502 三重県志摩市阿児町神明731 志摩観光ホテル ザ クラシック1F
電話/0599-43-1211
定休日/無休
営業時間/7:00〜10:00(L.O.9:30)、11:30〜14:30(L.O.14:00)、17:30〜22:30(L.O.20:30)※
アクセス/近鉄志摩線 賢島駅から徒歩約5分
駐車場/90台
井上岳久さん

ただでさえ格式のあるホテルのカレーのなかでも、ひときわ高嶺の花。昔から高級カレーの代表格として語られることが多く「一度は食べてみたい」とカレー通の間でも憧れの的です

日光金谷ホテル
百年ライスカレーランチ4,290円。低温調理の牛肉が添えられているほかオードブル、デザート、飲み物もセットです

考古学者の気分で味わえる1世紀前の美味しさ

栃木 日光

日光金谷ホテル

1873年(明治6年)創業という現存する日本最古のリゾートホテルですが、カレーが有名になったきっかけは2003年でした。蔵の中に眠っていた大正時代のカレーレシピが発見されたのです。少なく見積もっても100年以上も昔のロマンあふれる味わいを、初代総料理長の中西健一シェフが復刻再現。「大正時代にはすでに、ここまで美味しいカレーがあったのか」と大きな評判を集め、いまや日光を代表する名物料理にもなっています。

日光金谷ホテル
1936年(昭和11年)の改装まではロビーだったメインダイニングルーム。歴史的価値が高く登録有形文化財でもあります
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日光金谷ホテル/メインダイニングルーム
住所/〒321-1401 栃木県日光市上鉢石町1300 日光金谷ホテル本館2F
電話/0288-54-0001
定休日/無休
営業時間/7:30〜L.O.9:30、11:30〜L.O.14:30、18:00〜L.O.20:00※
アクセス/東武鉄道日光線 東武日光駅から徒歩約20分
駐車場/60台
井上岳久さん

100年以上前、黎明期の欧風カレーを味わえるというのは、めったにできない体験です。食の歴史を知るうえでも、遠方まで足を運んで食べに行く価値があるでしょう

ホテルアークリッシュ豊橋
新城産源氏和牛カレー(サラダ付)1,100円。厳選した黒毛和牛を使用しながらリーズナブルな価格も魅力です

カレーとともに伝え広める地元が誇る黒毛和牛の魅力

愛知 豊橋

ホテルアークリッシュ豊橋

カレーの具材は、愛知が誇る銘酒「蓬莱泉(ほうらいせん)」の酒粕で育てたブランド黒毛和牛。鳳来牛(ほうらいぎゅう)という品種のなかでも特に希少であり、月に5〜6頭しか出荷されていません。和牛のオリンピック言われる「全国和牛能力共進会」でも優等賞を獲得。「煮込んでも力強い旨味がある」といった特徴を総料理長の今里武氏が活かしています。将棋の王位戦で勝負メシとなるなど、その評判は全国に浸透中です。

ホテルアークリッシュ豊橋
庭園に面したザ ガーデン。シャンデリアタイプのガス灯が煌めくなどラグジュアリーかつ開放感のある雰囲気
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ホテルアークリッシュ豊橋/ザ ガーデン
住所/〒440-0888 愛知県豊橋市駅前大通1-55 ホテルアークリッシュ豊橋3F
電話/0532-51-1118
定休日/火曜日、日曜日
営業時間/11:30~14:00、17:30~21:00
※新型コロナウイルスの影響により現在はバースペースのみの営業
アクセス/JR東海道新幹線、東海道本線、飯田線、名鉄名古屋本線 豊橋駅から徒歩約1分、駐車場/無(提携駐車場あり)
井上岳久さん

たまたま仕事で宿泊した際に「ここまで高級感のあるホテルが地方都市に!?」と驚きました。和牛カレーのクオリティも予想以上。周囲にもよく紹介している穴場的なホテルです

広島 呉

シェフと“艦長”がつくったホテルのカレー

金曜昼にカレーを食べるのが伝統という海上自衛隊。艦艇ごとに異なる味を、それぞれの艦長と料理長の協力のもと「呉海自カレー」として町ぐるみで再現しているのが呉市です。各所に点在する提供施設のなかでも、3種を同時に楽しめるのはクレイトンベイホテルだけ。「シンプルな味を予想していましたが、実際には個性豊かでびっくり。ぜひ食べ比べてみてください」と井上さんも太鼓判。のんびりホテルステイしながらカレー三昧というのも、ステキな旅のプランです。

[DATA]
クレイトンベイホテル/呉濤/コートダジュール
住所/〒737-0822 広島県呉市築地町3-3 クレイトンベイホテル1〜2F
電話/0823-26-1111(代表)
定休日/無休
営業時間/呉濤11:30〜14:30(L.O.14:00)、17:30〜21:00(L.O.20:30)、土曜日・日曜日・祝日11:30~14:30(L.O.14:00)、17:00~21:00(L.O.20:30)、コートダジュール10:00~18:00(L.O.17:00)※
アクセス/JR呉線 呉駅から徒歩約17分
駐車場/約120台
補給艦とわだカレー
補給艦とわだカレー1,430円(呉濤)
一期一会 護衛艦かがカレー
一期一会 護衛艦かがカレー1,100円(コートダジュール)
練習艦かしまカレー
練習艦かしまカレー(デザート付き)1,650円(コートダジュール)
井上岳久さん

どんな場所で誰と一緒に楽しんだのか。料理の味は食べる環境によっても大きく左右されるものです。身近にある“カレー”だからこそ、一流ホテルで食べることで違いを感じ、特別な思い出の味として記憶に残りやすいはず。ぜひ大切な相手を連れて、非日常の味わいを満喫してはいかがでしょうか。