文筆家・甲斐みのりさんが教えてくれた 日本の手しごとに出会う“クラフト旅”

伝統工芸品や民芸品など、日本各地の手しごとを訪ねる“クラフト旅”。
古くから受け継がれる伝統の技や、暮らしの知恵から生まれた品など、
それぞれに特色があり、その土地の風土を映しています。
その場所で育まれてきたものを訪ねることは、その土地をより深く知るということ。
日本全国の工芸品・民芸品に造詣の深い
甲斐みのりさんのお話を参考に、ご当地の品々を訪ねましょう。

取材・文/若宮早希

文筆家 甲斐みのりさん

文筆家 甲斐みのりさん

静岡県出身の文筆家。旅、雑貨や暮らし、手みやげ、散歩、お菓子、クラシックホテル、建築などをテーマに執筆し、40冊以上の著書がある。『にっぽん全国おみやげおやつ』(白泉社)、『はじめましての郷土玩具』(グラフィック社)、『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)など、工芸品や民芸品、雑貨に関する著作も多数。主宰する雑貨ブランド「Loule(ロル)」では、イベントや商品企画も行う。

日本各地の民芸品や郷土工芸品などのクラフトに精通する甲斐さんですが、“クラフト旅”の魅力とは何でしょうか?

幼少の頃から家族旅行で各地の郷土玩具や伝統工芸品の工房を訪れていました。その影響もあって、大人になって自分で全国各地を旅するようになってからも、雑貨や工芸品、暮らしの品を扱う店には積極的に足を運んでいます。なかでもその土地に根付いた品々を紹介する民芸館は、必ず立ち寄る場所のひとつです。
クラフトはその土地の風土や特色を色濃く反映しているもの。旅先でそれらに触れることは、「土地や旅の記憶」を持ち帰ることになると思います。自宅に帰ってからも、その品を見る度に旅した時間を思い出すことができるんです。それが “クラフト旅”の一番の魅力だと思います。

クラフトをテーマとした旅に出る際、行き先を選ぶポイントは何でしょうか?

どの県、どの土地にも伝統工芸品は必ずあります。まずは家の近くの民芸館や民芸品店を訪ねていろいろなものを見て、気になるものを探してみてはいかがでしょうか。気になるものが見つかったら、その工芸品が作られている土地を旅先に選ぶのも楽しいですよ。たとえば干支や趣味のものなど自分の好きなモチーフを決めておいて、それを集めることを目的にするのもおすすめです。

“クラフト旅”をより一層楽しむコツを教えてください!

まずはやっぱり、地元の民芸館を訪ねてみるといいですよ。渋いイメージがあるかもしれませんが、最近は20~30代の若い人も多く訪れています。次に、工房へ。作り手から直接作品を購入することで、より一層愛着が湧きます。3つ目は、クラフトにまつわる体験をすること。実際に制作の一部を体験してみることで、想像もしていなかった物づくりの大変さを実感できます。ほかにも市やフェア、お祭りなど、イベントを目的にするのもいいですね。

手しごとに触れる旅

民芸館・ショップを訪ねる 松本[長野県]

松本は大正時代に民藝運動(日常のなかで生まれた器物に美を見出し活用することを提唱したもの)が起こった地。鑑賞するだけでなく、「用の美」を追及した手しごとの品が根付いています。「松本民芸館、民芸家具を配した喫茶店、工芸品の店など、お気に入りの場所がたくさんあります」と、甲斐さんにとっても縁の深い場所だそう。モダンな手しごとをテーマに、地元作家の作品を集めたセレクトショップなども人気です。

松本のクラフト旅

工房を訪ねる、体験する 石垣島・竹富島[沖縄県]

沖縄の工芸品といえば、織物の紅型(びんがた)ややちむん(焼物)、琉球ガラスなどが有名。なかでも石垣島には、クージとよばれる植物の蔓で編んだかごなど、素朴な暮らしの道具が伝えられています。色鮮やかな自然の染料を使ったミンサー織は、ポーチやパスケースなど気軽に身につけられる小物も豊富です。甲斐さんは「沖縄は本州とは異なる文化が根付く場所。工芸品も、異国情緒漂うものや植物を使った素朴なものなど個性的です」と話します。

石垣島・竹富島のクラフト旅

老舗道具店・市を訪ねる 京都[京都府]

「京都には、100年続く手しごとなど歴史ある工芸品が数多くあります。特に包丁や金網などの道具類は、一生ものとして使い続けられます」と甲斐さん。さらに購入した品は、その後も手入れをしてもらえるのが老舗道具店の魅力。結婚祝いや引っ越し祝いなど、人生の節目に贈る特別なギフトとしてもおすすめです。京都は手づくり市や朝市、骨董市など、定期的に行われるイベントも豊富で、気軽にクラフトに触れることができます。

京都のクラフト旅