阿寒町を訪れてみてどのような印象を持ちましたか?
空港に降り立った瞬間、空気がすごく爽やかで、自然の豊かさ、緑の濃さ、力強い生命力に圧倒されました。深呼吸すると元気が復活するような心地がして、空気には生きていくための栄養がこんなに詰まっているのだと実感しました。フェリーの上で風を受けながら大自然に浸れる時間も最高でした。
1日目はマリモ展示センターやボッケの森など、阿寒湖ならではの自然を楽しみました。
大きくて丸いマリモは阿寒湖でしか形成されないと聞いて驚きました。現地の方に教えていただいた「水の中で踊りながら丸くなっていく」という言葉が強く心に残りました。水の流れや動きがあることで、ここでしか生まれない形になる。まさに自然の賜物ですよね。ボッケも初めて訪れましたが、立ち上る熱気や硫黄の匂い、大地のエネルギーを全身で感じられる体験でした。
夜の森を歩くナイトウォーク
「KAMUY LUMINA」には、かなり興味があったとか。
想像以上に衝撃的な、大感動のナイトウォークでした!夜の森を歩きながら、描き出されるアイヌの物語に深く共感しました。自然の恵みを「神からの授かりもの」として尊び、感謝し、自然に対して恩返しをするという生き方が、また新たな恵みのサイクルを生み出す……。人と自然が共に生きることを大切にしてきたアイヌの精神は、今を生きる私たちが取り戻すべき価値観だと強く感じました。また、最新技術を用いながらも過度に明るく照らし出しすぎず、暗闇に包まれる時間を大切にした、森をゆっくり歩く時間が素晴らしかった。自然を生かし、自然の中で体感する感動こそ、心の奥まで響き、私たちの心身を甦らせる「ほんものの感動」だと思いました。
2日目のアイヌ文様を彫るワークショップでは、
渦巻き模様をチョイスしていましたね。
アイヌの民芸品などに刻まれる幾何学文様に、自然と共に生きる世界の先住民族との共通性を感じます。例えばニュージーランドのマオリや、ハワイ諸島などポリネシア文化圏の先住民族にも、アイヌ紋様と酷似した幾何学や渦巻き模様が見られます。彼らもアイヌと同じく、自然や天体のバイオリズムを、生き抜く知恵として大切にする民族。もしかしたら、同じ文様を持つ民族同士、遥か昔には海流を通じて行き交い、強く結びついていた……と、古代へ思いを馳せると、世界中のみんなが自分の家族や仲間に感じられて楽しくなります。
多くの土地を旅してきた山口さんですが、
旅先を選ぶときに重要視しているものはありますか。
まさにアイヌ文化のように、自然と共に生きる暮らしを大切に実践してきた先住民族の、代々受け継がれてきた知恵を学びに行きたいと思っています。自然とどのように共生していくか、これからの地球に必要な大切な学びだと思います。特に、また訪れたいと強く願っているのは北極圏。過酷な自然の中で生きる北方民族の暮らしには、自然と密接に向き合い命を守り生き抜く緊張感と喜びがあります。マイナス20℃の極寒の中では、ちょっとした油断も命の危険に繋がり、自然が授けてくれる恵みがいかに貴重であるかを実感できます。カナダの北極圏で、凍った海の上を犬ぞりで走りましたが、人と犬の深い絆に深く感動しました。猛吹雪で視界が閉ざされた時、北極圏では計器が狂うらしいのですが、犬たちに「GO HOME!」と告げるだけで、迷うことなく無事に家に辿り着けるのだそうです。犬たちは決して来た道を決して忘れないから。彼らの強い信頼関係に心打たれました。
最近はどのような旅をしていますか?
今気になっているのは日本各地の離島です。最近訪れて素晴らしかったのは新潟県の佐渡島。かつては金の採掘で多くの人々が島を訪れ、様々な文化を伝え合いました。美しい能舞台が今も残り、庶民の中に能の芸能が今も息づいている。また、鬼の面をかぶる「鬼太鼓」の祭りも盛んで、地域によって様々な鬼太鼓の様式が受け継がれている。伝統が日常の中に生きていることに感動しました。離島には、かつて日本各地から流れ着いて結びついた豊かな文化が、時間を超えて生き続けているように思います。島々を訪ねると、まるでタイムトラベルのように、古への不思議な時間旅行に迷い込める感動があります。
山口さんは世界各地の音楽を映像ライブラリーに納める
プロジェクト「LISTEN.」も主宰されています。
立ち上げたきっかけは。
地球の素晴らしさに「耳を傾けたい」という思いから始まりました。説明も解説も必要としない「音」の感動は、世界中の人々と一瞬で共有できます。「LISTEN.」の始まりの地に選んだのは、東西文化が出会い豊かな音楽を育んだハンガリー。初めて訪れた時、ドナウ川の夜の帳から流れてきたロマ音楽の切ないメロディに、無性に懐かしさを感じました。街に漂う気配もどこか東洋的で、異国の地に心の故郷のような温かさを感じました。音の中に感じる懐かしさを追って色々調べ始めると、ハンガリーのルーツは東方起源。東から西へと進んだ騎馬民族の歴史があります。古代から受け継がれた歌やリズムの中に、馬と共に旅をした記憶が刻まれていて、「音」から聴き解く東西文化の出会いの歴史に心打たれました。 「音」を追いかけると、古から続く人々の出会いの物語を感じることができます。「LISTEN.」は、未来へ伝えたい地球の素敵な「今」が詰まった、「音」のタイムカプセルです。
山口さんにとっての
旅の醍醐味を教えてください。
世界を「知る」ことが何より楽しい。記憶するだけの勉強ではなく、旅をしてその地に立って、「体感」して学ぶ感動は最高です!この地球には、様々な風土に育まれた色彩豊かな文化が溢れている。私たちの地球滞在時間は限られているわけですから、うかうかしていられない。命の素晴らしさを「体感」する旅を続けていきたいです。

![[月刊旅色]2025年11月号](https://tabiiro.brimgs.com/book/monthly/202511/images/common/cover.jpg)
