地域住民が約120年守り続ける私立図書館、江北図書館の挑戦

滋賀県

2023.09.28

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地域住民が約120年守り続ける私立図書館、江北図書館の挑戦

こんにちは、旅色LIKESライターの長月あきです。同じ旅色LIKESライターのなおさんや&ヨシカさん書かれた図書館記事に触発されたので、私も滋賀県長浜市で出会った古くて温かい私立図書館「江北(こほく)図書館」をご紹介します。北国街道木之本宿にほど近い、JR西日本北陸本線木ノ本駅のすぐ目の前にある小さな図書館です。

目次

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滋賀県で現存する最古の図書館

厳しい運営状況の中での新たな挑戦

懐かしくて温かい唯一無二の図書館

おわりに

滋賀県で現存する最古の図書館

江北図書館は、明治40年の誕生から120年近くの歴史を持つ、滋賀県で現存する最古の図書館です。地元出身の弁護士・杉野文彌(すぎのぶんや)氏が寄贈した3,000冊の書籍をもとに創設した「杉野文庫」が、江北図書館の前身となっています。図書館の恩恵を受けつつ、苦学の末、東京で弁護士となった杉野氏は「いつか自分が成功したら、郷里の子どもたちのために図書館を作りたい」という志を持っていたのだとか。

江北図書館

江北図書館の建物は築86年。元々は農業協同組合の事務所でした

江北図書館

年季の入った味のある看板

江北図書館

靴箱も年季が入っています

北国街道木之本宿(ほっこくかいどうきのもとじゅく)を訪れた際、たまたま通りがかりに目に入った、レトロな建物が気になり立ち寄ったのが江北図書館を知ったきっかけです。一見、文化財のような雰囲気のある建物だと思いませんか? 江北図書館は開設以降、本と本棚を抱えて空き物件へ引っ越しを繰り返してきた図書館なのだそう。現在の建物は、元は農業協同組合の事務所として使われていた築86年の建物で、昭和50年にこの場所へ引っ越してきました。

厳しい運営状況の中での新たな挑戦

はじめてこの図書館を訪れた日は、運悪く書架の入れ替えのための臨時休館日でした。建物の内外では忙しそうに本棚を組み立てたり、本を整理する方々の姿が。図々しいのは承知の上で「作業のお邪魔はしないので、建物の中を見学させていただけませんか?」と作業中の方に声をかけると「どうぞどうぞ~!」と快く迎え入れてくれました。お話を伺うと、ちょうど市の公立図書館が使っていた古い書架を貰えることになり、書架を搬入して整理しているのだとか。作業をされているのは地元の方やお手伝いに来られたボランティアの方でした。

江北図書館

本の入れ替え作業中の図書館

江北図書館

こちらは児童書コーナーの入れ替え中

江北図書館

廊下にも本が山積み

江北図書館

階段も古さを感じます

「階段に本が置いてあるけど、2階も見ていってね!」とボランティアの方に声をかけていただいたので、上がってみました。本が積まれた古い階段を上がると、目の間に広がる大きな部屋に思わず「わあ!」と声が出ます。2階は大きな広間になっており年季の入った畳が敷かれ、なんとも味のある空間になっていました。

江北図書館

2階の大広間

館長が作業の手をとめて色々なお話を聞かせてくださいました。利用や貸し出しは無料でありながら、公的な財政支援が受けられない私設の江北図書館にとって、存続は大変厳しい状況になっているのだとか。老朽化する建物の修繕すら容易ではなく、あの手この手でなんとか運営費を確保すべく知恵を絞っているとのこと。近年、運営体制を一新、老朽化した建物の修繕のために初めてクラウドファンディングに挑戦し、支援金を集めたそうです。公共図書館と同じように利用料無料の図書館なので、支援金や寄付金を募るだけでなく、図書館の駐車場を利用者以外に有料で貸し出したり、オリジナルグッズを販売したり、アイデアを出し合いながら図書館存続のため運営資金の確保に奔走しているそう。

懐かしくて温かい唯一無二の図書館

後日、書庫の入れ替えが終わった図書館をゆっくり見せていただこうと再訪しました。本棚を見て回ると郷土に関わる本がかなり昔のものから豊富に揃っています。児童書を含め全体的に古い本が多く、私が子どもの頃に見た記憶のある表紙の本もちらほら。懐かしくて思わず手に取ります。

江北図書館

郷土に関係した本が充実していました

江北図書館

窓からの風が心地よい

江北図書館

ここにも郷土の本が

江北図書館

廊下にも本がずらり

江北図書館

2階の広間には本や資料のほか、昔の蔵書検索カードを入れていた棚が置いてあります。入り口には利用者の方の意見や感想が貼ってありました。利用者の方からの図書館へのメッセージを眺めているとなんだかとても温かい気持ちになりました。

江北図書館

二階の大広間。綺麗に本が収まっていました

江北図書館

農協だったころの名残でしょうか

江北図書館

窓際に並ぶ、昔試用されていた蔵書検索カードの棚

江北図書館

窓の形がレトロな雰囲気

江北図書館

利用者の声がノートや黒板にぺたぺた。眺めていると温かい気持ちになります

江北図書館の本には、他の図書館の書籍に貼られているような管理用のバーコードがありません。つまり貸し出しの際に、コードをスキャンする機械がなく蔵書検索をするためのPCもありません。貸し出しは、手書きのカード(付箋)と封筒のような紙のファイルで管理されています。本の貸し出しは地元の方だけでなく全国どこからでもいいのだそう。「読み終わったら郵送で返却してくれればいいですよ」とのことでした。

江北図書館

現在貸し出し中の本のカード

江北図書館

本に挟まれた貸出日、返却日の紙

江北図書館

貸し出しカード(付箋)を入れる封筒

時間がゆるやかに流れるような静かで穏やかな空間。はじめて訪れた時に伺った、「建物は古いけれど、古い書籍には古い建物のこの空気があっていると思うの」という館長の言葉が印象的でした。古い本と建物が醸し出す空気感だけでなく、館長やスタッフの方の柔らかで朗らかな雰囲気、この図書館を愛する方々の思いが江北図書館の居心地の良さを作っているようです。

江北図書館

玄関を入ってすぐのコーナー。黒電話、久しぶりに見ました

江北図書館

オリジナルのトートバックや絵はがきの販売も

おわりに

長年、地域の唯一の図書館として住民に愛されてきた江北図書館ですが、現在は車で少し走れば近隣の大きな公立図書館が利用できますし、地域の公共施設で市立図書館の本の予約や貸し出しサービスを受けることもできます。それでも気軽に車で移動できない、子どもや高齢者にとっては、本と触れ合う貴重な場の一つであることに変わりはないでしょう。日本各地に立派な大型の公共図書館が続々と誕生している一方、古くから国内に残る私立の図書館の数は少なく、その多くは企業や宗教団体を母体とする図書館です。公的支援も大きな後ろ盾もないまま、無料で利用でき、地域住民が守り続ける江北図書館はとても珍しい図書館かと思います。江北図書館では各種の講座や古本市、コンサート、おはなし会や読書会など様々なイベントも企画しており、困難な状況にありつつも、地域の文化の発信・交流拠点として根を張っているようです。賤ヶ岳や木之本宿を訪れた際にはぜひ立ち寄ってみてください。子どもの頃に手にした懐かしい本に再会できるかもしれません。なお、木之本宿については以前、記事で書きましたので、よろしければこちらもご覧になってみてくださいね。図書館の駐車場(有料300円)に駐車して散策もできます。

◆江北図書館
住所:滋賀県長浜市木之本町木之本1362
電話番号:0749-82-4867
開館時間:10:00~16:00
休館日:火曜日、水曜日 年末・年始(12月29日~1月4日)

公式ホームページはこちら

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歴史旅 長月あき

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時間を見つけては、歴史や伝統工芸などに触れられる旅スポットを巡っています。ものづくりの技術や創意工夫を知る産業観光も大好き。東海・関西エリアを中心に、歴史やものづくりを身近に感じられる旅体験をお届けします。近年は道の駅とかわいいおみくじ、地サイダーがマイブーム。

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