浅田政志の宿旅

わざわざ泊まりに行きたい、そんな宿を訪ねる写真連載。第10回は、多くの文豪に愛された静謐で瀟洒なホテルへ。
写真家 浅田政志の宿旅
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Vol.10「山の上ホテル」東京都千代田区

文化人たちのひそやかな会話が聞こえるよう
出版社が多くある神保町からほど近く、川端康成、池波正太郎はじめ
多くの文豪が定宿として利用していました。
「葡萄酒ぐら モンカーヴ」にはワインと文化の香りがただよいます。
美食家の名前が集うネームプレート
もともと会員制だった「葡萄酒ぐら モンカーヴ」。会員の名前を刻んだネームプレートには美食家としても知られる池波先生の名前が燦然と輝きます。いまはどなたでも入店可能。お気軽にどうぞ。
佇まいは瀟洒。おもてなしはやわらか
坂をのぼると、徐々に姿を現す1937年に竣工された、アールデコ様式の外観。
都心とは思えないほど、喧騒は遠く静かでやわらかな時間が流れています。
自宅にいるかのようなくつろぎのひと時
趣味のよいお家のようなインテリアの客室。多くの作家は自宅のようにくつろげるからこそ「かんづめ」になって作品を仕上げられたのでは……と思いが巡ります。
“特別な空間”に入るための夢の鍵
クラシカルなルームキーについているのは、ホテルのロゴが印象的なキーホルダー。
この鍵を持つことで、ホテルの滞在をより印象づけてくれます。
一回り小さいサイズは販売しているので、自宅のキーにつけることも。
時空を越える螺旋階段
螺旋階段は1937年の竣工時の雰囲気を壊さぬように改修。
階数表示のフォントのかわいさよ。
ドアの向こうは粋な大人の遊び場
ステンドガラスのドアの向こうは英国風のバー。
全35室のホテルに7つのレストランやバーがある贅沢。ここは粋な大人の別宅です。
ガス灯のようなあたたかさ
よく故障するというガス灯はいまも現役。
古き良きを大切に、お客様との距離の近さを大切にするホテルの姿勢は
ガス灯の、素朴なあたたかさに通じるものがある気がします。

山の上ホテル

ホテルとしての開業は1954年ですが、建物自体は1937年(昭和12年)に新興生活運動のための施設として竣工されました。1980年(昭和55年)、2019年(令和元年)に改装したものの、螺旋階段やタイルなど竣工当時の雰囲気はそのまま。文化人たちの会話が聞こえるようです。建物に威厳はあれど、もてなしはあたたかで、どこか家庭的。そんなやわらかな空気が文化人に好まれた理由かもしれません。

住所 / 東京都千代田区神田駿河台1-1
電話 / 03-3293-2311(代表)
料金 / デラックスシングルルーム1泊朝食付 1名28,810円(税・サービス料10%込み)

浅田政志
Masashi Asada浅田政志
1979年三重県生まれ。2007年に写真家として独立。2008年、写真集『浅田家』(赤々舎刊)で第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。『浅田家』をもとにした映画『浅田家!』が2020年10月2日(金)公開予定。著書に、『NEW LIFE』(赤々舎刊)、『家族新聞』(幻冬舎刊)、『家族写真は「」である』(亜紀書房)など。国内外で個展、グループ展を精力的に開催している。