
2026/10/23
栃木県北部に広がる那須野が原は、約140年前まで、人が住みにくい原野だったといわれます。明治時代に那須疏水が引かれ、政治家や軍人などの「明治貴族」が農場と別邸を構えたことで、開拓が大きく進みました。その物語は、文化庁の日本遺産「明治貴族が描いた未来〜那須野が原開拓浪漫譚〜」として認定されています。
この記事では、「那須野が原開拓日本遺産活用推進協議会」の招待で参加したツアーをもとに、別邸や疏水、牧場、板室温泉、りんご園を巡る1泊2日のモデルコースをご紹介します。
この記事の目次
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取材したときの行程は次のとおりです。移動は貸切バスでした。時刻は目安です。

1日目の行程(時刻は目安・貸切バスで移動)

2日目の行程(時刻は目安・貸切バスで移動)
那須野が原は、那珂川(なかがわ)と箒川(ほうきがわ)に挟まれた約4万ヘクタール(約400平方キロメートル)の扇状地です。博物館の展示によると、日本最大規模の扇状地とされています。川が山を出ると地下にしみ込み、地表に水が流れない「水なし川」になるため、水を得にくい土地だったと紹介されていました。

館内の展示パネル(那須野が原の地形)
1885年(明治18年)に那須疏水が通水し、遠くの川の水を引けるようになりました。その後、政治家や軍人などの華族が農場を開き、別邸を構えました。博物館の展示によると、農場は約40あり、その約半数が華族の設立で、本州で最大規模といわれます。
現存する別邸のうち、巡るのは松方別邸、旧青木家那須別邸、山縣有朋記念館の3つ。あわせて、乃木希典の旧宅も訪ねました。

館内の展示パネル(農場と別荘群)
モデルコースの最初は、那須野が原博物館です。扇状地の地図や、開拓の歩みを紹介するパネルがあり、この土地の成り立ちを先に押さえられます。水が乏しかったことを知っておくと、このあと訪ねる疏水や別邸が、ひと続きの物語として見えてきます。

石造りの壁に「那須野が原博物館」の銘板と像が立つ
那須疏水は、明治18年に通水した、那須野が原の開拓を支えた水路です。幹線水路は約16.3kmあり、水の少ない扇状地に川の水を引いた歴史が残っています。見学した場所では、水路の脇に「ガラガラ水車」があり、水が勢いよく流れ落ちる様子を間近で見ることができました。

水路のそばに立つ「ガラガラ水車(下掛け水車)」
松方別邸は、元内閣総理大臣の松方正義が、農場を訪れる際の別荘として使った洋風の建物です。看板には「萬歳閣」と記されていました。内部は非公開で、見学は外から眺める形になりますが、芝生の向こうに、赤い庇(ひさし)の玄関とガラス張りのベランダが見える二階建ての姿をゆっくり見ることができました。
松方正義の農場は、のちの千本松牧場につながっています。別邸へは、牧場の園内を歩いて約5分です。
千本松牧場は、松方正義が1893年(明治26年)に、那須開墾社の土地を買い取って開いた農場が始まりです。天然のアカマツが多く生えていたことから、松方が「千本松」と名付けたと、公式サイトで紹介されています。入場は無料で、ファームショップやレストラン、ソフトクリームショップが並び、散策もしやすい園内です。
昼食は、ちぎりハンバーグ(160g)をいただきました。肉を卓上の鉄板で自分で焼き、塩や生わさび、ソースなど6種類の味付けで楽しめます。ごはんやパン、サラダ、スープも付き、意外とおなかがしっかり満たされました。食後はコーヒーで一息つき、園内を散策しました。ソフトクリームショップもあり、散策のおやつにもよさそうです。
那須塩原のランチやカフェをさらに探したい方は、那須塩原のおすすめグルメもあわせてご覧ください。
那須乃木神社の境内には、陸軍大将の乃木希典が、那須野が原で農耕に励んだ別邸(乃木希典那須野旧宅)が残っています。乃木は、休職の期間中にこの別邸で過ごし、「農事日記」に作物の経過や日常を細かく記したそうです。現在の建物は、焼失後に元の設計で再建されたもので、田の字型の間取りと、土間や囲炉裏のある農家造りです。内部には入れませんが、入口から、畳の間と、自在鉤に釜が下がる囲炉裏を見ることができました。
境内の宝物館は無人で、入口の料金箱に拝観料(100円)を納める方式です。小銭を用意しておくと安心です。館内には、乃木希典の遺書(10カ条)が、現代の漢字に直して展示されています。また、敷地内には、地下水が自然に湧き出る「乃木清水」もあります。
旧青木家那須別邸は、ドイツ公使などを務めた外交官・青木周蔵が、1888年(明治21年)に建てた別邸です。ドイツの貴族地主に憧れた周蔵は、1881年(明治14年)にこの地で青木農場を開きました。設計は、ドイツで建築を学んだ松ヶ崎萬長で、国内に残る唯一の作品とされています。外壁には魚のうろこのような形のスレートが使われ、白い洋館の姿が印象的です。現在の建物は、調査を経て、もとの位置から約50m移して復原されたものです。
この日は、庭の芝生に長いテーブルが並び、別邸を眺めながらのガーデンパーティーが開かれました。前菜からデザートまで、地元の食材を使った料理が並び、特別な雰囲気の中で味わえました。
別邸の庭では、チーズづくりも体験しました。手袋をはめ、袋から出したチーズの素を手で引き伸ばしていきます。繊維のように細く裂けていく様子が面白く、できあがりはその場でいただきました。ほんのり塩気が効いた味わいでした。
1日目は、板室温泉の幸乃湯温泉に宿泊しました。公式サイトでは、天然源泉かけ流しの温泉と案内されています。
夕食は、お刺身や焼き魚、天ぷら、小鉢のほか、朴葉の上で焼くお肉ときのこ、紙鍋など、品数の多い内容でした。器にも彩りがあり、旅の夜を楽しめました。
朝食は、焼き鮭や温泉卵、煮物、海苔、梅干し、漬物などが並ぶ和朝食でした。

朝食の膳。焼き鮭、温泉卵、煮物、海苔、梅干しなどが並ぶ
南ヶ丘牧場は、戦後に大陸から引き揚げた人たちが開いた牧場です。入場と駐車場は無料で、馬やロバ、ブタなどの動物を柵のすぐそばで見ることができます。園内には観賞池もあり、ニジマスやチョウザメが泳ぐ様子を眺められます。広い牧草地からは、周囲の山並みも眺められました。名物のソフトクリームは、ミルクの風味が濃厚で、牧場ならではの味わいでした。ピロシキなどの軽食も楽しめます。
家族で動物とふれあえる牧場は、ほかにも多くあります。那須のおすすめ観光スポット
栃木県|那須郡
長く愛されている入場無料の観光牧場
那須高原で酪農を中心とした生産・加工・販売まで行っている1948年創業の「那須高原 南ヶ丘牧場」は、世代を超えて長く人々に愛されてきた。牧場ならではの乳製品やソフトクリーム、美味しい食事が味わえるお店があり、ヒツジやヤギなど動物との触れ合いや乗馬、釣り、アイスクリームやソーセージの手作り体験、売店でのお土産選びなど、食べたり、遊んだり、体験したり、買い物したりと、子どもから大人まで楽しめる入場料無料の観光牧場だ。家族やグループで立ち寄って、自然豊かな緑のなかで思い切り遊ぼう。
住所:栃木県那須郡那須町湯本579
アクセス:車:東北自動車道那須ICより約15分 バス:関東自動車那須線「一軒茶屋」停留所より徒歩約15分
営業時間:8:00~17:30※季節によって異なる、詳細はHP参照
那須歴史探訪館は、那須町の歴史を紹介する施設です。ガラスの壁に刻まれた館名と、那須町の歴史を記した文章に迎えられます。那須町は、古代の東山道から、中世の鎌倉街道、近世の奥州街道まで、関東と陸奥を結ぶ道が通ってきた土地で、館内では、こうした道の歴史や、芦野の宿場町としての歩みを学べます。学芸員の方の解説も聞くことができました。
館内では、山田伯爵家のアルバムも紹介されていました。人々の姿を写した古い写真が、アルバムに貼られています
アルバム
黒羽では、大関組紐の組紐体験をしました。黒羽藩主だった大関家に伝わる甲冑には、紺・萌木・白・紫の四色で矢羽根の文様を組んだ組紐が使われています。その技法や配色は、大関家に伝わる兵学書「止戈枢要(しかすうよう)」にも記されているそうです。日本遺産の構成文化財ではありませんが、周辺の文化として紹介されました。
会場は、那珂川のほとりにある会所です。畳の部屋で、木製の組台に色糸をかけ、講師の方の手ほどきを受けながら組んでいきます。今回は30分ほどで仕上がりました。組み上がった紐は、お店の方が金具を付けてキーホルダーに仕立ててくださいました。公式の案内では、コースにより所要は約60〜90分、料金は3,000〜5,500円(税込)です。体験は予約制です。
やなは、川に石を積んで流れを一か所に集め、竹のすのこの上に魚を導いて捕る漁法です。江戸時代から続くとされ、那珂川では今も受け継がれています。実際に、水が勢いよく流れ落ちる仕掛けを見ることができました。
昼食は、鮎釜めしと塩焼きをいただきました。釜めしには、焼いた鮎の身がのり、塩焼きは炭火で焼かれていました。やなの営業は季節限定です。営業期間は年によって変わることがあるため、訪れる前に、公式サイトなどで確認すると安心です。
山縣有朋記念館は、明治・大正期の政治家、山縣有朋が開いた農場の跡地にある記念館です。山縣は、農家の次男や三男のために土地を開こうと、村の人たちを説得して開墾を進めたと伝えられます。かつて渋沢栄一が断念した土地を開いた逸話も、日本遺産のテーマと重なる見どころです。
記念館の建物は、明治42年に、小田原にあった山縣の別邸「古稀庵」の中に建てられた木造洋館です。大正12年の関東大震災で倒壊したあと、翌年に、嫡男の伊三郎によって、この地へ移築されたと紹介されています。

芝生の庭から眺める、赤い瓦屋根の洋館
館内では、2階の応接間が特に印象に残りました。格子状の天井や深紅のじゅうたん、金色の布を張った椅子がそろい、当時の空気を感じられます。展示室には、勲章などの遺品も並んでいます。入館料にはコーヒーが付き、休憩を兼ねた見学にも向いています。
矢板のりんごは、大正時代に青森から苗木と技術者を招いて栽培が始まったと伝えられ、日本遺産の構成文化財にもなっています。加藤農園では、りんご園を歩いて収穫を体験し、品種の違う試食も楽しめました。取材した10月上旬は、秋映が赤く色づいており、シナノスイートや紅玉なども並んでいました。りんごは品種ごとに旬が異なるため、訪れる時期によって、出合える品種が変わりそうです。
試食コーナーでは、品種ごとに切ったりんごをいただけました。「秋映」はほどよい酸味があり、「シナノスイート」は甘みが強く、個人的にはこちらが好みでした。
今回のツアーは、貸切バスで巡りました。4つの市町に見学地が点在し、2日目の大田原から矢板への移動は約1時間かかりました。1日目は、午前に学び、昼に食、夕方に青木別邸と、山場のある流れです。
宿泊先は、今回の板室温泉のほか、塩原温泉で探す方法もあります。
那須野が原のモデルコースは、水のない土地を開いた歴史と、今も味わえる食や体験を1泊2日でたどれる旅です。別邸の外観、疏水、牧場、そして2日目の組紐、やな、りんごまで、季節ごとに違う楽しみがあります。日本遺産のポータルサイトや、観光アプリ「ココシル」で事前に学んでおくと、旅がより深まります。
那須野が原開拓日本遺産活用推進協議会
参考になりましたか? 旅行・おでかけの際に活用してみてください。
記事企画・監修:旅色編集部 なかしま
ライター:なかしま