「見る」だけでなく、文化や歴史に触れられる「体験」は、
旅をより印象深いものにします。
馴染み深い東京でも、ものづくりや食の体験を通して特別な時間を過ごせば、
いつもの街並みが旅先のように鮮やかに。
今回は、天候に左右されず、感性を磨けるおすすめの旅体験を
4つご紹介します。
写真/芹澤裕介 文/旅色編集部

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タキシード部門グランプリ。旅先でのものづくり体験も積極的なアクティブ派。旅先で絶対買うものは地酒(小ビン)という酒豪。
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きもの部門グランプリ。湘南の海で育ち、旅先を海に入れるかどうかで選ぶほどの海好き。どんな海でもたゆたうガチ勢。買いがちなお土産はご当地フェイスパック。
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イブニングドレス部門グランプリ。“食”を目当てに旅に出ることも。よく買うお土産は土地の特色が出るお漬物。最近のヒットは静岡の「食べるおだし」。
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きもの部門グランプリ。旅先にこだわりはないもののテーマパークになりがち。旅によく持っていくものはレンズ付きフィルム。現像するのが楽しみ。

日本のガラス工芸“切子”の技法を体験できるのは、落ち着いた住宅地が広がるJR総武本線平井駅より徒歩約6分の「東京ガラス工房 凛然」初心者でも1時間ほどで、世界に1点だけのオリジナル作品が作れます。まずは器を選び、入れたい文様やラインを相談しながら、カットしていきます。オーナーの小島さんは「ガラスとはいえ、なかなか割れないので怖がらずに挑戦できます。キレイなものを、というよりは失敗も楽しんでほしいですね」と奥深い助言を。体験した松本さんは試行錯誤しながら40分ほどで完成させました。


切子を施した作品は、磨きをかける場合は後日、くもりガラスのままが好みならばその日に持ち帰れます。ちなみに、店内には職人が手仕事で仕上げた作品が並び、購入することも。「文様は伝統的なものですが、ガラス屋さんに発注したオリジナルの色合いの器や、ラインの入れ方などの組み合わせで個性的な作品になるんです」と小島さん。お気に入りがきっと見つかります。


切子を実際にやってみると職人さんのすごさが分かります。難しいけれど理想のものができあがっていくのがおもしろいですね。ズレてもそれが味になります。
カットを入れるときは皆さん息を止めるほど集中していますが、日常生活のなかでこんなに集中する時間はあまりないと思います。仕上がると達成感もありますし、リフレッシュできます。


「おひとり様」という言葉が一般化して久しいですが、チェーン店以外にひとりで行くのは緊張しませんか? そんなときにおすすめなのが、落ち着いた店内で気の利いた料理を楽しめる「新富町丸安」です。席はカウンターのみ。店主の小栗さんは「主にひとりでやっているので、カウンターなら目が行き届くと思ってこの形なんです」と微笑みます。



そのやわらかで落ち着いた雰囲気そのままに、お料理も真摯で上質。「季節感を大切にしたメニューなので、好きなものを自由に楽しんでください」と小栗さん。いただいたのは「一人鍋 黒毛和牛の出汁しゃぶ」。黒毛和牛を出汁にさっとくぐらせることで肉のまろやかさが際立ちます。人気の〆ごはん・鯛茶漬けは、まずは刺身とごはん、そのあと出汁をかけて楽しめます。味わったたけうちさんは「ゴマダレとワサビが相性抜群。贅沢すぎます」と大満足でした。

ひとりでも外食できるタイプなんですが、ちょっといいお店に1人で行くのは背筋がのびます。印象に残るので旅のいい思い出になりそうですね。
うちは小料理屋なので、緊張せずに来てください。和食のよさは温度感だと思っています。温かい料理を、四季を意識した食材でご用意しています。カウンターだからこそ食事の進み具合もわかりますしご自身のペースで楽しんでください。


「江戸茶寮 青山店」では世界でたった一つのオリジナル茶器の絵付体験ができます。400年以上の伝統文化と現代アートを融合した“江戸塗り”が特徴で、好きな形の茶器を選んだら、塗料を練り合わせてオリジナルの色を自分で作り上げ、重ね塗り、好きな模様や絵柄を描いていきます。


挑戦する市木さんは「絵心がないので心配。この色でいいかな」と不安そうですが、講師のローラさんは「好きな色を重ねたり、ワンポイントでイラストを描いたりするのもいいですよ。塗る厚さや幅によって印象は変わります」と優しくアドバイス。描いては乾かしてまた描くという作業を繰り返し、やがて深みのあるオリジナル作品に。満足行く形に仕上がったら、最後の仕上げを施して、その茶器でお茶とお菓子(忍者饅頭)で唯一無二のティータイムを。達成感を感じながら、自分の作品でいただくお茶は格別です。


やるほどにコツが掴めて楽しかったです。模様を描くのが難しくて曲がってしまったけれど、それも味。お茶もおいしくて、自分で作ったものだと、さらにおいしく感じます。
伝統的な塗り方でもフリースタイルでも、好きなようにやってみてください。実際、やってみないとわからず、私も日々いろいろ挑戦しています。できあがった作品は食洗機NGですが、普通の食器同様に使えます。世界にたった一つのお気に入りの茶器の絵付を楽しみましょう。

ローラさん

趣深い店構えの「御料理 盈月」は、旬の食材やおいしいものを全国各地から厳選し、コースに仕立てています。生産者に会って自ら選んだ食材はどれも一級品で、女将の村松さんは「基本的には“食材の味”と言っていいほど、食材の持ち味を最大限に引き出すように心がけています」と絶対の自信をのぞかせます。


この日の箸割「渡り蟹 新じゃが芋 花穂」について、大将の山岸さんは「カニをベースに食感の違うものを合わせて驚きを」といたずらっぽい笑顔を浮かべます。そのほか、大将と女将が惚れ込んだという希少なブランド牛・ふらの和牛は、「脂の融点が低くさっぱり。肉自体に旨味があるので咀嚼すればするほど味が出るのでできるだけ噛んでください」(大将・山岸さん)という品で、味わった明神さんは「飲み込むのがもったいない……」と名残惜しそう。コースの最後のお菓子まで、繊細な工夫と心配りでほかにはない食体験ができます。





料理はひと口ごとに食感や味が変わる工夫があって驚きの連続でした。上品なお店なので緊張感はありますが、酒器選びや空間まですべてが心地よく、今度はゆっくり来たいです。
小さなお店なので、お一人でも少人数でもどうぞ。安心安全で、その時にしかない食材を厳選してご提供しているので、ここでしか食べられないもの、味わえないものをお楽しみいただけます。

大将の山岸さん