【川瀬良子の農業旅】希少な国産コーヒーを求めて沖縄の「やまいち園」へ

沖縄県

2023.01.30

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【川瀬良子の農業旅】希少な国産コーヒーを求めて沖縄の「やまいち園」へ

こんにちは! 農業旅・アンバサダーの川瀬良子です。突然ですが、コーヒーは飲みますか? 毎日飲む、と言う方も多いと思います。私も毎朝必ず飲んでいます。それもそのはず、日本のコーヒー消費量は世界第4位。しかし、そのほとんどを輸入に頼っています。今回はそんな中で、沖縄で貴重な国産コーヒーに挑戦している農家さんがいる、ということで訪ねてきました。

目次

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株トレーダーからの転身。きっかけは「おもしろそう!」

1杯のコーヒーに辿り着くまでの長い道のり

収穫したての“沖縄県産コーヒー豆100%”コーヒーを実飲

やまいち園ができるまでの苦悩とこれからの熱意

「やまいち園」のコーヒーを買うなら道の駅へ

東京の自宅で清水さんのコーヒーを淹れていただきました

株トレーダーからの転身。きっかけは「おもしろそう!」

沖縄県名護市にある「やまいち園」でオーナーを務める清水一郎さんは、静岡県浜松市出身の49歳。農業経験はなく、突如沖縄に移住しコーヒー農家に転職しました。実は清水さん、特にコーヒー好きというわけでもなく、砂糖を入れて甘くしなければ飲むことができなかったというから驚き。そのうえ移住するまで沖縄に来たこともなかったそう。きっかけは、地元で仲間が開くカフェを訪れたときに「国産コーヒーを作ってみたい」という話で盛り上がったことでした。当時は株のトレーダーの仕事をしていましたが、これが「何かカタチに残ることがしたい」と思い始めていたタイミングと重なります。そこからは勢いで沖縄の知人が経営する農園のお手伝いから初めて、2017年に「やまいち園」を立ち上げました。「これをきっかけに沖縄に行けるし、面白そうだな~!って、それだけ。迷いはなかったです(笑)」。

1杯のコーヒーに辿り着くまでの長い道のり

東京の最高気温は15度でしたが、この日の沖縄は25度。市街地から車で少し山を登ったところに農園があり、その入り口で清水さんが仲間と談笑しながら待っていてくれました。清水さんたちと合流し、さらに坂道を上ると木が生い茂ったジャングルのような光景が目に飛び込んできます。

これがコーヒーの実!

沖縄の温暖な気候により、1年中雑草の処理が大変なのだそう。

コーヒーの木は180センチメートルほどの高さ。枝には赤い実が驚くほどたくさんついています。日本にコーヒーの木があることが珍しく、初めて見た感動と興奮でめちゃくちゃテンションが上がりました! コーヒーの赤い実はサクランボに似ていることから「コーヒーチェリー」とも呼ばれ、しっかりとハリがあり、熟すと少し紫が混ざったような濃い赤に変化します。そうして熟している実だけを選定し、親指と人差し指で摘まむように収穫していきます。収穫のピーク時には手摘みの作業を4時間も行ったことがあるのだとか。沖縄の暑さを考えると、機械に頼ることなく手摘みを続けている清水さんの作業量は計り知れません。コーヒー作りにかける想いがひしひしと伝わってきます。

コーヒーの木の周りには南国らしいワイルドな葉を茂らせた大きな木が。「日陰を作ってもらうために植えた、島バナナの木です」。なるほど~! 熱い地域の知恵ですね。

バケツ半分ほど収穫しました。ここからどんなふうに1杯のコーヒーになるのか……。まだまだ想像がつきません。この後「収穫」→「洗う」→「乾燥」→「皮と豆を分ける」→「選別」→「焙煎」→「挽く」→「お湯を淹れる」という工程を経てコーヒーにしていくそうなのですが、焙煎と挽く作業以外は清水さんの手作業です。

赤い実の中から、見覚えのある形が。

バケツに水を入れ、枯葉などのゴミを取り除きます。その後実から種を取り出すと、見たことのあるコーヒー豆の形! コーヒー“豆”とよばれているのは、正確には“種”なんです。特別に食べさせていただいたのですが、赤い果肉は特に味はなく、食感はサクランボのようでした。

種は機械で48時間ほど、天日干しの場合は7~10日ほど乾燥させるのですが、今回は事前に乾燥させた実を用意いただきました。赤い果肉がなくなり、豆の周りについている皮と豆の状態です。外側の皮を取り除き、中のコーヒー豆を取り出したのち、豆の選別を行います。虫食いがある豆や未熟な豆が残っていると、雑味や渋みの元になって品質を落とすことになってしまうそうです。「みんなで話しながらやると楽しいけど、いつもはテレビを見ながら1人でやるからなかなか終わらないんだよ~(笑)」と清水さん。1杯のコーヒーに必要なのは、選定した豆約12グラム。これをおひとりで、しかもこれまた手作業!? と考えると……どれだけの手間暇がかかっているのか改めて実感しました。

普段は焙煎士に任せているという焙煎も体験させてもらいました。銀杏を炒るように鍋をシャカシャカ振り、弱火でじっくり炒っていくと、コーヒーの香ばしい香りが広がり、気持ちが高まります! パチンッと豆が弾けるような音がして少し煙が出たと思ったら、あっという間に豆がお馴染みのコーヒー豆の色になりました。焦げなくてよかった~。「焙煎士」という方がいるぐらいですから、この作業は一度や二度ではコツはつかめなそうです。

焙煎した豆をコーヒーミルに入れ、ハンドルを回しガリガリと挽いていきます。普段は挽いてある豆やドリップコーヒーを購入しているので、私にとってはこの作業も慣れないものでした。想像以上に力がいるんだとびっくり。豆が粉のようになったら、お湯を注ぎやっとたどり着くことができました!

収穫したての“沖縄県産コーヒー豆100%”コーヒーを実飲

約4時間、すべての工程を経て、ついに“沖縄県産コーヒー豆100%”の希少なコーヒーが完成しました! 口元にカップを持ってくると深みのある香ばしい香りが漂います。飲んでみると、華やかな香りが鼻の奥まで広がって、コクも感じられ、清水さんの情熱が全身に染みわたる気持ちに。「はぁ~、おいし~い!」。

やまいち園ができるまでの苦悩とこれからの熱意

その後はコーヒーをいただきながら、清水さんがコーヒー農家になるまでのお話をじっくりお聞きしました。2016年、最初は仲間6人くらいでスタートし、その中の1人が沖縄に100坪の土地を持っていたことから、まずは試しにそこでコーヒーを、と思い立ちます。初めはたまに手伝いに行く程度だったものの「頼るのではなく自分1人でやってみよう」と決意し、同年沖縄に移住。2017年に農地を購入し、今のやまいち園が誕生しました。とはいえ、ジャングル状態の「やまいち園」の開墾は一筋縄ではいきません。「開墾は7、8月の夏の暑いときでしたし、チェーンソーを扱うのも初めて。スズメバチの巣もあって、人生の中で一番つらい作業でした」と清水さん。やっとの思いで開墾し、10月にはいよいよコーヒーの苗の植え付け。エレガントな甘味と酸味、透明感のあるフローラルな香りが特徴的な「ティピカ」と、なめらかでまろやかなコクに加え、フルーティーな独特の甘みが魅力の「イエローブルボン」の2種を、半分ずつ植え付けました。草丈20センチ程の苗木を約1000本、1カ月にわたる作業です。

2021年には10キログラムほどの収穫ができて、初めて自分で栽培したコーヒーを飲むことができました。それでも「量は少ないし、精製の勉強もまだまだだったので、この程度では『嬉しい』とかはないですね。喜ぶのはまだとっておきます」という清水さんの言葉からは、農業に真剣に向き合っている熱意が感じられます。

日本でのコーヒー栽培はほとんどの農家さんが手探りだそうで、工程も様々。企業秘密も多く、清水さんも失敗を繰り返しながら栽培を進めてきました。たとえば、水やりの管理が楽になると考え間隔をつめて苗を植えたところ、隙間をつくって風通しをよくする必要があると後から発覚したり。苗が成長してから引き抜いたところ、根っこが傷ついてしまい成長に影響が出たり。そんなことから、2022年の収穫量は期待より少なかったと言います。「とにかくゼロからのスタート。ど素人ですから」。やりながら学ぶことを止めず、努力によってここまできた清水さんですから、当然清水さんの栽培方法も“企業秘密”というのも納得です。「沖縄県産コーヒーはこれからの農作物。まだだれもやっていないことに挑戦しているのは楽しいですね」。現在は一般には公開していませんが、2024年には収穫体験の受け入れもしていきたいと積極的。これをきっかけにさらに多くの人が沖縄のコーヒーに目を向けてくれることに期待したいですね。

「やまいち園」のコーヒーを買うなら道の駅へ

「道の駅 許田やんばる物産センター」では、清水さんが作ったドリップコーヒーを購入できます。地元の人だけでなく観光客からも注目されていて午前中に売り切れてしまうことも……。この日も、収穫体験後に足を運ぶ予定だったのですが、午前中の時点で「最後の1つ」と連絡をもらい、急遽農園訪問の前に道の駅に立ち寄りました。ラベルには“沖縄県産コーヒー豆100%”の堂々たる表記が。改めてすごい人に出会えたのだなと感動です。

◆道の駅 許田やんばる物産センター
住所:沖縄県名護市字許田17-1
電話:0980-54-0880
営業時間:8:30~19:00

東京の自宅で清水さんのコーヒーを淹れていただきました

沖縄で感じたことを振り返りながら丁寧にお湯を注ぎ、1滴も無駄にしないようにゆっくり飲むコーヒーの味は、いつものコーヒーと一味も二味も違います。2024年には、もっとたくさんの実をつけたやまいち園のコーヒーの木を見に行きたいな〜と、来年の農業旅に心が弾みました。タイミングが合えば収穫体験もできるそうなので、気になった方はやまいち園のInstagramからダイレクトメッセージで問い合わせてみてくださいね。清水さん、ありがとうございました!

◆やまいち園
アクセス:中山公民館(沖縄県南城市玉城字中山75番地)より徒歩約2分
詳細はやまいち園(@okinawa.yamaichien)にて

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農業旅 川瀬良子

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川瀬良子

静岡県出身。NHK 『趣味の園芸 やさいの時間』司会を10年間務める。現在はラジオパーソナリティとしてTFM&JFN日本の農業を応援する番組『あぐりずむ』などで活躍中。2016年『川瀬良子のプランター野菜』(主婦と生活社)出版。 自身が農業好きになったように、一人でも多くの人に家庭菜園、農業に興味を持ってもらいたい!と、きっかけづくりになるようなモノ・コトを創り出している。

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