「旧白洲邸 武相荘」と「日本民藝館」へ行く、一冊の本から始まる旅
旅色のコミュニティ「旅色LIKES」メンバーで長崎在住のおんりさんが、過去に読んだ本「白洲正子 美の種まく人」をきっかけに、花人・川瀬敏郎の講座と、随筆家・白洲正子の終の棲家である「旧白洲邸 武相荘」、さらに、柳宗悦が設立した「日本民藝館」へ、日本の芸術を辿る旅に行ってきました。
目次
旅のきっかけは川瀬敏郎の講座に参加するため
「白洲正子 美の種まく人(著:白洲正子、川瀬敏郎 他)」を読んだのは、私がまだ20代のころ。その中に出てくる花人・川瀬敏郎が生ける花に、当時の私は強い衝撃を受けた。
川瀬敏郎が生ける花は、今まで目にしてきたフラワーアレンジメントや華道とは明らかに一線を画したものであり、「自己表現としての花」とか「場を彩るための花」というよりは、「敬虔さ」「宗教や哲学」「宇宙」「禅」という言葉を想起させられる。自分と花。その2つしか存在しない幽玄の世界に、一瞬にして連れて行かれるような圧倒的な求心力と、1対1で対峙させられているかのような緊張感に、私は魅せられてしまった。
「川瀬敏郎に会ってみたい。実際に作品を見てみたい」
20代のときにそう思い始めてからしばらく経ち、そんなこともすっかり忘れていたころ、偶然にも川瀬敏郎の一般人向け講座が東京で開催される情報を目にした。
「ずっと雲の上の人だと思っていた川瀬敏郎に会えるかもしれない……!」
そう思った私だが、花について知識も経験もない。そのうえ、決して安くはない受講料。だが、こんな機会はそうそうないと思ったので、迷わず申し込むことに。無事キャンセル枠を勝ち取り、私はひとり東京へ飛んだ。
講座は1回3時間半という長丁場。門外漢の私には難しく、理解できない部分も多々あったが、花に対するストイックな姿勢、向き合ってきた膨大な時間、圧倒的な知識と経験、創意工夫と肉体的鍛錬の積み重ねを目の当たりにし、川瀬敏郎が生ける「花」の背景にこれだけの叡智が潜んでいるということを知れただけでも、東京に来た甲斐が充分にあった。
講座は全4回開催される。1回目の講義は慌ただしい日帰り旅となったが、2回目の開催時には1泊して白洲正子の終の棲家である「武相荘」も訪ねようと決意しつつ、家路に着いた。
白洲正子の終の棲家「旧白洲邸 武相荘」を訪ねる
2回目の講義を終えた私は妹夫婦に案内してもらい、念願叶って東京の町田にある「旧白洲邸 武相荘」を訪ねた。
敷地内には喫茶のみの利用もできる「レストラン&カフェ 武相荘」があるので、まずはここで妹夫婦とランチをすることに。野菜嫌いの白洲次郎も、カレーに添えられたキャベツの千切りは食べられたそう。しかもスプーンは使わず、フォークで食べるのがこだわりだったとか。なかなか面倒くさい男、次郎……。
その後はゆっくりと、敷地内にある白洲次郎の愛用品や、制作したものを見て回った。
門の脇には臼を使って次郎が制作し、正子が文字を書いたという新聞受けが。夫婦そろってこのセンス……!
売店には「PLAY FAST」Tシャツも販売されていた。かなり可愛かったが、6,000円という値段に躊躇し、今回は断念することに。
そして、ひとり1,100円の入場料を払い、本邸へ。残念ながら館内は撮影禁止。本邸には正子の書斎、次郎・正子愛用の品々や、次郎の有名な遺言書「一、葬式無用 一、戒名不要」など、貴重な資料が多数展示されていた。
こだわりの強そうな2人が互いを尊重しつつも、各々のペースで自由に暮らしていた様子がうかがえ、何だかほほえましい「旧白洲邸 武相荘」の旅となった。
◆旧白洲邸 武相荘
住所:東京都町田市能ヶ谷7丁目3番2号
電話番号:042-735-5732
白洲正子とも関連深い、柳宗悦により企画・設立された「日本民藝館」へ
「旧白洲邸 武相荘」を後にし、最後は目黒区駒場にある「日本民藝館」へ向かうことに。ここは“用の美”を提唱した、民藝運動の創始者である柳宗悦(やなぎむねよし)が中心となり設計されたもので、1936年に開設された歴史深い場所。基本的に館内は撮影禁止。2階建ての建物は外部・内部ともに重厚感と貫禄に溢れた造りになっている。
展示されているものは柳宗悦らの審美眼を通して集められたものが主で、イギリスの陶芸家であるバーナード・リーチ、板画(版画)家の棟方志功、陶芸家の河井寛次郎、濱田庄司らによる作品からアイヌ衣装、東北の刺子衣装など多岐にわたり、どれもこれも見応えがある。手に入れることは不可能に近いとわかってはいるものの、何度「欲しい!」と連呼したことか。
今回の旅のきっかけとなった「白洲正子 美の種まく人」の著者の一人である白洲正子がかつて師事していた美術評論家・青山二郎という人がいる。これは帰宅後に分かったことだが、彼はかつて、柳宗悦らの「民藝運動」に参加していたことがあったらしい。つまり、柳宗悦~青山二郎~白洲正子~川瀬敏郎は、一連の大きな流れの中にあり、今回訪れた場所はいずれも無関係ではなかったということである。この旅で思いがけず、旅先で点と点が線になる「アハ体験」をすることになった。
「読書の秋」をきっかけに始まった今回の旅は「芸術の秋」に帰着することとなったが、1冊の本から始まる旅もまた面白いものである。
◆日本民藝館
住所:東京都目黒区駒場4丁目3番33号
電話番号:03-3467-4527
◆この記事を書いたメンバー
おんりさん(8期生)
長崎市在住。人混みが苦手なので、人が少なそうなところや自然が多い場所に旅行することが好き。広く浅くいろいろなことが気になっている。中でも最近興味があるのは、アフリカ、古民家、巨石、水がきれいな場所など。