自分をごきげんにする初夏の京都へ。期間限定パッケージのカルネと白亜の学舎、梅小路から島原へ、時代をわたるさんぽのすすめ
京都在住の旅色LIKESライター・ちあきです。新しいことが始まる予感がする春の始まりは忙しく、息をつく間もなかった気がします。桜の喧騒が一気に過ぎ去った京都は、少しの静けさを取り戻します。今月は、JR梅小路京都西駅を起点に、京都のローカルパン屋・志津屋で人気のパンを買って、誰のためでもない時間を、一歩ずつ。芽吹き始めた若緑の下、明治から江戸へと時を遡るようなお散歩です。
目次
はじまりは梅小路京都西駅から
JR京都駅から嵯峨野線に揺られて、わずか一駅。梅小路京都西駅に降り立つと、京都駅の濃密な活気が嘘のように、ふわりと軽やかな空気が流れています。
すぐ右手に広がるのは、時折蒸気機関車の汽笛が遠く響く「京都鉄道博物館」のエリアです。重厚な鉄の造形美を思い描きつつ、ピクニックには欠かせないランチを買いに行きましょう。
カサリと鳴る紙袋。期間限定、京都市警とのポップな邂逅「志津屋七条店」
自動ドアが開いた瞬間、鼻をくすぐる香ばしいパンの匂い。京都人のパン好きはよく知られていますが、とりわけ志津屋のカルネは子どもの頃から食べている日常の味。数ある魅力的なパンを横目に、目指すはやはり、棚にずらりと並んだ「カルネ」のコーナーです。
ん? 何やら今日は違う。並んでいたのは、いつものレトロなパッケージ……ではなく、パトカーと京都府警察のキャラクター・ポリスまろんが描かれた、ポップなコラボバージョンです。実はこれ、全国交通安全運動に合わせた期間限定のコラボパッケージ。可愛いカルネを携えて梅小路公園芝生広場に向かいましょう。
◆志津屋 七条店
住所:京都府京都市下京区朱雀正会町1-1 京果会館1F
電話:075-343-2220
営業時間:7:00〜19:00
定休日:1/1~2
新緑の木漏れ日、レトロ電車に見守られたピクニックはいかが? 梅小路公園
梅小路公園に戻ると、広い芝生広場ではピクニックをしたり、走り回ったり、思い思いに過ごしていました。初夏の京都は気候も良く、ほほをなでる風が気持ちいい。京都駅からすぐの立地にありながら、静かでのんびりとした空間にブルーシートを広げれば、そこはもう自分だけのプライベートな特等席のできあがり。
持参した苦めの珈琲とカルネは相性抜群。シンプルだけれどどこか懐かしいマーガリンとオニオンの味が口になかで広がります。合わせて購入した期間限定の「ひよこパン」は、よく見るとひよこの顔が見えて改めて笑みがこぼれます。お日さまの下で食べるランチって、おいしいなぁ。
食後は、公園内に静かに佇むレトロな路面電車を眺めながら休憩。かつて京の街を走っていた市電の姿は、新緑の景色にどこか懐かしく、そして美しく溶け込んでいます。時折聞こえる鳥の声と風の音。鈍くなっていた感覚が、この穏やかな時間のなかでゆっくりと満たされていくのを感じました。
映画の記憶が息づく、白亜の“擬洋風建築”「龍谷大学 大宮学舎本館」
梅小路公園でランチをした後は少し東へ向かってみました。七条大宮を少し西へ進むと大きな門が見えてきます。門をくぐると左手に洋風の石柱の正門が現れます。一歩足を踏み入れれば、そこは明治時代へと時計の針が戻されたような、静謐な学び舎の世界です。
正面に佇む「本館」は、『るろうに剣心』や『舞妓Haaaan!!!』 など数々の映画やドラマのロケ地としても知られています。ここで注目したいのは、その独特な建築様式です。一見すると石造りの洋館に見えますが、実は木造。日本の伝統技術を持つ職人たちが、西洋への憧れを形にした「擬洋風建築」の傑作なのです。連続するアーチ窓や、細部に施された意匠には、当時の職人たちの誇りと遊び心が今も宿っています。
驚くべきは、この重要文化財が今なお「現役のキャンパス」として息づいていること。重厚な木製の階段を学生たちが足早に通り過ぎ、開け放たれた窓からは講義の気配が微かに漏れ聞こえてきます。
一般公開している日以外は関係者以外の立ち入りが禁止されているので門の前から見てみましょう。本館は門の正面です。
◆龍谷大学 大宮学舎本館
住所:京都府京都市下京区大工町125-1
新旧が交差するテラスで、老舗の味に浸る「前田珈琲 龍谷大学黎明館店」
重厚な明治の建築群を見た後は、七条通りを少し西へ。ガラス張りのモダンな空間、龍谷大学の「黎明館」に立ち寄りましょう。ひときわ目を引くのは、中庭の吹き抜けに浮かぶ木材を精巧に編み上げた巨大なオブジェ。伝統的な籠編みのようでもあり、近未来のシェルターのようでもあるその不思議な造形物は、巨大な植木鉢なのです。
この独創的な空間に店を構えるのが、京都で長く愛される老舗「前田珈琲 龍谷大学黎明館店」。大学のカフェではありますが、もちろん一般のお客さんも使えます。店先のボードに踊る「おでん定食」や「赤味噌オムハヤシ」といった、どこかホッとするメニューたちに、心は学生時代に戻る気分。古いものと新しいものが、互いを引き立て合いながら共存する。そんな京都らしい懐の深さを、学生たちに混じって味わうのも京都さんぽの一興です。
◆前田珈琲 龍谷大学黎明館店
住所:京都府京都市下京区七条通大宮西入花畑町94
電話:075-344-2025
営業時間:8:00〜17:00
定休日:日曜日
時代が止まった路地で、旅の余韻を噛みしめる「島原」
モダンなカフェを後にし、西へ少し歩を進めると、風景の輪郭がさらに深く、濃くなっていくのを感じます。昔の名残を残した建築物が残る商店街を抜けると、目の前に現れるのは、枝垂れ柳が美しい島原大門。かつて日本最古の公認花街として栄華を極めた場所への、厳かな入り口です。新撰組が愛したかつての面影はなく、住宅街にぽつりぽつりと華やかなりし頃の風情が香ります。かつて置屋として隆盛を極めた角屋は、現在は「角屋もてなしの文化美術館」として公開されており、かつての華やぎと美学を今に伝えています。
観光地として華やかに着飾った京都ではなく、かつての文化がひっそりと、しかし力強く息づいている「暮らしの跡」。目的もなく細い路地を曲がり、石畳を踏みしめる音に耳を澄ませると浅黄色に、だんだら模様(新選組の羽織に用いられたそれ口の白い山形の模様のこと)の男たちの息遣いが聞こえてきそうな路地なのです。
さんぽのおわりに
駅を降りてから島原の路地まで。数時間の散歩で触れたのは、いくつもの時代が重なる京都の素顔と、心地よい初夏の気配でした。目的を決めずにただ歩くのに、特別な準備はいりません。お気に入りのパンを頬張り、古い建築の美しさに足を止め、日常のスキマに自分を「ご機嫌」にするためのおさんぽが京都で叶います。次はどこへ行きましょうか。














