国宝「萬福寺」の静寂を愉しむ。異国の美学に触れ、心整う大人の京都さんぽ
2月になりました。お正月の華やかさが一段落した京都は一年で一番寒い季節を迎えています。京都の人は「とっても○○」と言う代わりに形容詞を二回重ねて話す癖があります。なので、今の季節は「寒い寒い」。今回は、そんな寒い寒い京都市内から少し足を延ばして宇治の黄檗(おうばく)へ。皆さんがよく知る「和」の京都とは一線を画す、異国情緒あふれる禅の世界が広がる萬福寺さんへ行ってきました。
目次
萬福寺へのアクセス
萬福寺がある宇治・黄檗へは、JR奈良線で京都駅から約20分。紅葉の名所東福寺や伏見稲荷大社のそばを通り抜け茶所宇治へ向かう途中の黄檗駅から歩いて5分ほどです。
巨大な龍が横たわる国宝の寺
伽藍全体が龍を表す
よく見ると、萬福寺の境内は、建築群そのものが一頭の巨大な龍を表すという、壮大な思想にもとづいて設計されました。門の前にある二つの井戸の龍目井(りゅうもくせい)が目、総門は口に見立てられます。口になかへ進んで、参道の中心に敷かれたひし形の「石條」(せきじょう)は龍の鱗。そして、左右対称に並ぶ伽藍は龍の体を象徴しています。それでは、総門をくぐり龍の体内へと入って行きましょう。
龍の背を歩む「石條(せきじょう)」
総門をくぐると本殿へ続く道の中心に、ひし形の石が美しく並んでいました。これは、「石條(せきじょう)」といい、ひし形の一つひとつを龍の鱗に見立て、参道全体を巨大な「龍の背」として象徴しているのです。萬福寺の伽藍配置は、中国明朝様式を今に伝えます。古来より、龍は仏法を守護する存在として考えられてきました。聖なる存在である龍の背を一歩一歩、石の感触を確かめながら歩みを進むと、自然と心が清められるような気持になります。頬をなでる冷たい風が凛とした雰囲気を際立たせます。
包容力あふれる「天王殿の布袋尊」
奥に金色の布袋さんが見えますか?
龍の背を進んでいくと、初めに見えてきたのは国宝天井殿です。天王殿の正面で迎えてくれるのは、黄金に輝くふくよかな布袋尊。実は中国では弥勒菩薩の化身とされ、萬福寺の象徴的な存在です。ふっくらした体系と優しい笑みのお姿は包容力満点で、かわいらしくも見え、こちらも笑みがこぼれてきます。
不眠不休の教え「開梆(かいぱん)」
魚がくわえているのはあぶく。あぶくを吐くことで煩悩から解放される
回廊を歩くと、目を引くのが巨大な魚の形をした木製板の開梆(かいばん)。メディアにもよく登場する萬福寺の象徴です。開梆は木魚の原型ともいわれるもので、主に「食事」や「行事」の時間を告げる合図として使われます。魚の形をしているのは、魚は眠る時も目を閉じないことから「不眠不休で修行に励め」という戒めが込められているのだそう。長きにわたって叩かれ続けてきた魚はお腹の部分がへこんでいて、修行の中に暮らす僧たちの深い思想の形が宿っているような気がしました。
開梆のそばに休憩所があり、中ではおみくじやお守りなどをいただくことが出来ます。私も萬福寺と縁の深い赤いだるまさんに収められたおみくじを引いてみました。
赤色と大きさが可愛い
授与品で特に目を引いたのは愛らしい「馬のぬいぐるみ」。エキゾチックな雰囲気を漂わせる赤い馬のぬいぐるみは今年の干支にちなんだ限定品です。
伽藍を飾るエキゾチックな意匠たち
回廊を巡り、天王殿、大雄寶殿、法堂の3つの国宝を見て周るとあまり見慣れない意匠を見かけました。扉の装飾や欄間など、境内の至る所に隠れた意匠を見つけるのは、さながら大人の宝探しのよう。今回は、私が見つけた4つの意匠をみてみましょう。
1. 門の上にいるのは鯱ではなくて「鰐」
足が見えますか?
萬福寺の門や屋根を見上げると、一見「鯱(しゃちほこ)」に見える意匠があります。実はこれ、龍の子供とされる想像上の生き物「摩伽羅(まから)」、あるいは「鰐(わに)」を模したものといわれています。水を司る神の乗り物とされるこの鰐は、火災から伽藍を守る「火除け」の願いが込められているのだそう。近寄ってよく見ると、脚が見えますよ。
2. 幸福を呼ぶ「蝙蝠(こうもり)の意匠」
伽藍のあちこちに日本の寺院では珍しい「蝙蝠」の意匠が隠れていました。ちょっと怖いイメージがありますが、蝙蝠の「蝠」の字が「福」に通じることから、五福(長寿、富貴、康寧、好徳、善終)を運ぶ縁起の良い動物として大切にされているのだそうです。
3. 魔除けと不老長寿の「桃の意匠」
見つけられるかな
沢山あったのは、扉や手すりに施された「桃」の彫刻です。桃は邪気を払い、不老長寿をもたらす仙木として尊ばれてきました。まあるくて可愛い桃の意匠はあちこちで見つけられます。
4.厄を払う「般若の鬼瓦」
集まっているので怖いです
開梆の回廊のそばにある建物の鬼瓦は般若のおどろおどろしい顔です。般若と言えば歌舞伎で使用される般若面を思い出す人も多いでしょう。歌舞伎の世界で、般若の面が体現するものは、「愛ゆえの悲しみ」が極限に達し、怒りへと転じた女性の情念そのものです。一方、萬福寺の屋根に据えられた般若の鬼瓦は少し異なる意味があります。般若とは本来、仏教用語で「智慧(ちえ)」を意味します。角が生え、恐ろしい形相をした般若の面は、実は「人間の嫉妬や怒りが極限に達した姿」です。それと同時に、煩悩を自らの智慧で克服しようとする「葛藤と悟りへの過程」を象徴しています。とはいえ、屋根の上からこちらを見下ろすいくつもの般若様、ちょっと怖いです。
三百数十年の伝統を受け継ぐ普茶料理
ランチは、萬福寺でいただく中国風精進料理の普茶料理はいかがでしょう。普茶料理は300年以上前に隠元禅師が伝えたものです。濃厚な胡麻豆腐と、野菜を肉や魚料理に見立てたものなど、見た目の美しさとヘルシーな内容には驚きを隠せません。お料理をいただくには事前予約が必要です。今回私は食べそびれてしまいました。次の機会にぜひいただきたいと思います。
◆黄檗山萬福寺
住所:京都府宇治市五ケ庄三番割34
開門時間:9:00〜17:00(最終受付16:30)
拝観料:大人500円、小中学生300円
終わりに
今回は京都駅からJRを使って約4時間の小トリップでした。京都のイメージ「和」とはちょっと違ったエキゾチックなお寺。赤い伽藍やトルコブルーの大きな香炉、卍崩しの欄干、まるで海外のお寺を参拝しているような錯覚にとらわれます。京都市内の喧騒を離れ、静かに自分を見つめ直したいリピーターにとって、このほどよい距離感もまた、大人の散歩の醍醐味と言えるのではないでしょうか。












