「あれ食べに行こう」からはじまる旅 タベサキ

映えもいいけど、まじめなかき氷で、賢く涼をとる!

7月25日は「かき氷の日」。

7と2が「夏」、5は「氷」といった語呂合わせだけでなく、1933年のこの日、山形市で歴代最高気温40.8度を記録し、2007年まで更新されなかったことにもちなんでいます。何だかんだ昔から暑かった日本の夏に、各地で発展してきたかき氷の文化。どんどん暑くなってくるこれからの時期、伝統的かき氷を学びながら、少し大人の涼を楽しみませんか?
一般社団法人日本かき氷協会の代表 小池隆介さん お話を聞いた人
一般社団法人日本かき氷協会の代表

小池隆介さん

10年以上前から奥さまと一緒に全国各地のかき氷屋めぐりをスタート。2012年には日本初のかき氷イベント「かき氷コレクション」を主宰しました。2013年、かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の出版を開始し、今年7月にはvol.9をリリース。協会の設立、運営にも尽力し、かき氷を普及する活動を続けています。

実は歴史が長い、日本のかき氷文化

かき氷が日本に誕生したのは、少なくとも1000年以上昔。最古の記述は清少納言の『枕草子』。「削り氷にあまづら入れて、新しき金椀(かなまり)に入れたる」。削った氷と甘味を新しい金属のお椀に入れたものが「非常に雅で上品」だと書き記しています。豊臣秀吉の時代には、きび砂糖と抹茶を氷にかける「宇治氷」が登場。甘党の徳川家康に献上する際に、アンコが添えられ「宇治金時」が誕生したという説もあるなど、かき氷は、昔は高貴な方々の食べ物でした。そんな風に歴史を感じながら食すことで味わいも増すはずです。

栄養豊富な下町の風物詩 糀と米だけの甘酒がたっぷり

天野屋 東京都 御茶ノ水
氷甘酒550円は夏限定メニュー。つぶつぶとした食感が心地よい
天野屋
蜜は氷の上からかけず器の下に忍ばせるのが、関東の下町流
天野屋
風鈴の音が鳴る涼し気な店内。坪庭の眺めも風流です
天野屋
場所は神田明神の鳥居のお隣。柴崎納豆や塩糀なども名物

天野屋

創業は弘化3年(1846年)、江戸時代から170年以上も続く老舗の甘酒店。地下深くにある天然の土室(むろ)で仕込んだ糀(こうじ)を使用し、伝統的な甘酒を造っています。発酵により生まれた優しい甘さを活かして、戦後まもなく氷甘酒を開発。「飲む点滴」とまで言われる栄養豊富な甘酒を冷たい氷と共にいただく、東京の下町で愛され続ける夏の風物詩です。

[DATA]
天野屋
住所/〒101-0021 東京都千代田区外神田2-18-15
電話/03-3251-7911
定休日/火曜日(祝日の場合は営業)、海の日、8月10〜17日
営業時間/10:00~17:00(かき氷のL.O.15:30 ※10月10日までの提供)
アクセス/JR中央・総武線、東京メトロ丸ノ内線 御茶ノ水駅から徒歩約5分
駐車場/無
小池隆介さん

おいしいだけでなく夏の疲れを癒やしてくれるのがありがたい。涼を取りながら栄養まで補える理にかなった伝統食です

日光の湧水からつくられる味わい120年以上続く伝統と流行の融合を

松月氷室

明治27年(1894年)の創業から、変わらぬ製法で天然氷を作り続ける蔵元。日光の清らかな湧水を自然環境下でゆっくりと凍らせ、檜の木屑を保冷剤にして春まで伝統的な氷室(ひむろ)で貯蔵しています。そんな大変な労力をかけて作る天然氷を、蔵元自らかき氷にして販売。昔ながらのシロップだけでなく、新鮮な果実を使用したものまで豊富なメニューを揃えるのも魅力です。

[DATA]
松月氷室
住所/〒321-1261 栃木県日光市今市379
電話/0288-21-0162
定休日/月曜日(祝日の場合は翌日 ※オフシーズンは金曜日・土曜日・日曜日・祝日のみ営業)
営業時間/11:00~L.O.17:00(季節により変更有)
アクセス/JR日光線 今市駅から徒歩約6分
駐車場/16台(満車の場合は臨時駐車場もあり)
松月氷室 栃木県 日光市
1.生いちごプレミアム1,100円。ミルクシロップ&練乳もたっぷり 2.レインボー550円。イチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイの全部がけ 3.宇治金時1,100円。自家製蜜には京都の抹茶を使用しています 4.ストロベリーショコラホイップ990円。まるでケーキのような豪勢さ
松月氷室
混雑する繁忙期には整理券を発行中。待ち時間には日光散策もできます
小池隆介さん

天然氷にはミネラルなどの成分が含まれています。食べ比べれば味の違いも分かるはず。歴史やロマンも感じますよ

町中で食べられる甘酸っぱくて冷たい名物氷

山辺温泉保養センター 山形県 山辺町
酢だまり氷200円。杉の葉は注ぐ量の調節に便利で防腐剤にもなるそう
山辺温泉保養センター
地域の風習として溶け込む酢だまり氷。明治発祥という説まであります
山辺温泉保養センター
源泉を利用した打たせ湯やマッサージ効果がある圧注湯も完備

山辺温泉保養センター

この町では、イチゴ味のかき氷に酢だまり(酢醤油)をかけるのが定番。町内の八百屋やたこ焼き屋など、さまざまな場所で提供しています。おすすめなのは、効用の異なる2つの源泉をかけ流しで楽しめる日帰り入浴施設「山辺温泉保養センター」。露天風呂などで体を温めた後のかき氷はまた格別。酢だまりの酸味、シロップの甘さ、氷の冷たさが、湯上がりを清々しく演出してくれるはず。

[DATA]
住所/〒990-0323 山形県東村山郡山辺町大塚近江801
電話/023-664-7777
定休日/第4月曜日(祝日の場合は翌日 ※6月のみ第4月曜日、火曜日、水曜日定休)
営業時間/6:30~21:00
アクセス/JR左沢線 羽前山辺駅から徒歩約25分
駐車場/約80台
山辺温泉保養センター
地元の憩いの場でもある施設。採れたて新鮮野菜も販売しています
小池隆介さん

しっかりと酸味があり、イチゴシロップとの相性もなかなか。食べ進めるほど癖になるスッキリとした味わいです

南国の冷たい定番おやつはかまどで煮込んだ金時豆×氷

新垣ぜんざい屋 沖縄県 本部町
氷ぜんざい300円。ふわふわの氷から程よい甘さの金時豆が顔を出す

新垣ぜんざい屋

沖縄のぜんざいは、かき氷と一緒にいただくのがスタンダード。そのルーツは本土とは異なり、オーマーミ(緑豆)などを甘く煮て冷やした「あまがし」という伝統食です。戦後になり金時豆と氷を使うのが定番となったそう。代表的な老舗が、1948年創業という本島北部の専門店「新垣ぜんざい屋」。薪のかまどで8時間かけて炊き上げた、ふっくら艷やかな金時豆は地元が誇るアンマー(おふくろ)の味です。

[DATA]
新垣ぜんざい屋
住所/〒905-0214 沖縄県国頭郡本部町字渡久地11-2
電話/0980-47-4731
定休日/月曜日(祝日の場合は翌日)
営業時間/12:00~18:00(売り切れ次第終了)
アクセス/渡久地港旅客船ターミナルから徒歩約6分
駐車場/6台
新垣ぜんざい屋
レンガ造りの伝統的かまど。大きな鍋で一気に約150人前の豆を炊く
新垣ぜんざい屋
券売機のボタンは40個全てぜんざい。ぜんざい一筋70年以上です
新垣ぜんざい屋
那覇市から車で1時間30分ほど。町には美ら海水族館もあります
小池隆介さん

券売機で20人前までまとめて注文できます。地元の方はお鍋を持参して訪れると聞き、まさにソウルフードだと感じました

天文館むじゃき 本店 鹿児島 鹿児島市
白熊(レギュラー)740円。熟練の氷すり職人が仕上げています
天文館むじゃき 本店
プリン、チョコーレート、ヨーグルトなど多彩な白熊がずらり
天文館むじゃき 本店
昭和30年代の店舗。当時は新婚旅行の定番コースに含まれていたそう

栄養豊富な下町の風物詩 糀と米だけの甘酒がたっぷり

天文館むじゃき 本店

お店が創業した翌年、昭和22年(1947年)に考案されたのが、今や全国的に有名な氷「白熊」。練乳の代わりに開発した自家製ミルクをかけ、チェリーやレーズンなどをトッピングし、上から眺めたところ、白熊の表情に似ていたことから名付けられたそうです。現在もイチゴ、メロン、パイナップルといった季節ごとのフルーツがたっぷり。氷のなかまで果実が詰まっています。

[DATA]
天文館むじゃき 本店
住所/〒892-0843 鹿児島県鹿児島市千日町5-8
電話/099-222-6904
定休日/不定休
営業時間/11:00~19:00(L.O.18:30)
アクセス/鹿児島市電 天文館通停留場から徒歩約3分
駐車場/無
天文館むじゃき 本店
本店があるのは鹿児島最大の繁華街。鹿児島中央駅直結ビルにも支店あり
小池隆介さん

開発した当初はかなりの贅沢品だったことでしょう。いま見てもワクワクするほど、たくさんのフルーツを使用しています

白熊はここもおすすめ!

東京近郊にも本格的な白熊が食べられる店があると、とっておきのお店を教えてくれました。「鹿児島出身の店主が切り盛りする鎌倉市の『たい焼き なみへい』です。子どもの頃から白熊を食べて育っただけあり、ふるさとの味を近郊の子ども達にも食べてほしいという熱い思いを感じます。オレンジピールを入れるなど、一手間加えた自家製シロップも素晴らしいです。今後地域を牽引する店舗のひとつになるのではないでしょうか」。

[DATA]
たい焼き なみへい
住所/〒248-0016 神奈川県鎌倉市長谷1-8-10
電話/0467-24-7900
定休日/月曜日(火曜日不定休)
営業時間/10:00~18:00
アクセス/江ノ島電鉄 由比ヶ浜駅から徒歩約3分
駐車場/無
たい焼き なみへい
「たい焼き なみへい」のしろくま1,000円
たい焼き なみへい
たい焼き、焼きそばなど屋台の定番料理も揃う
小池隆介さん

高度経済成長期以降、製氷機が身近なものになると、かき氷の文化も様変わりしたと小池さんは語ります。「例えば東北地方でも山形県や秋田県ではかき氷のお店が多く、青森県は少ないなど地域差が生まれたようです。その理由として考えられるのが、地域を牽引する個性的なお店があるかどうか。地域に根付いたお店の美味しいかき氷が、各地に味を広げたのだと思います。全国津々浦々めぐっていますが、まだ私たちが発見できていない伝統的なかき氷もあるはずです」。シンプルな食べ物でありながら、深い歴史と文化があるかき氷。これからも各地に伝播しながら、あっと驚くような新しい味も誕生していくことでしょう。