Special Interview Akari Takaishi
Special Interview 藤原紀香
五感を開放して町の景色、香り、音をキャッチ。海では裸足になって砂浜を舞う。無邪気で天真爛漫、それでいて言葉の端々から知性を感じさせる藤原紀香さん。和歌山に縁がある紀香さんから見た湯浅の魅力と、旅の醍醐味について、お話いただきました。写真/土山大輔(TRON) スタイリング/今井聖子ヘアメイク/光倉カオル 文/西 倫世

湯浅町をぐるりとひと巡りした2日間、いかがでしたか?

印象的だったのは、伝統的建造物群保存地区ですね。私の両親が和歌山出身で、和歌山にはこれまで何度も訪れているのですが、湯浅町は初めて。風情ある佇まいがとても素敵で大好きな町になりました。

町を歩くと、ふわっとお醤油の良い香りが漂ってきて、日本の食文化って、やっぱり発酵があってこそ育まれてきたんだな……と、あらためて実感しました。初めて訪れたのにどこか懐かしさを感じたのは、私たち日本人のDNAにしみこんだ香りだからかもしれませんね。

町並みも、看板のひとつひとつまでレトロで、本当にフォトジェニック! 伝統的建造物群保存地区は大切な文化遺産ですよね。古き良き日本の景色がこうして残されていることに、心が落ち着くとともに、こうした文化を、これからもきちんと守り伝えていかなくては……と、自然に感じさせられる時間でした。

静かな風鈴の音にも癒されて……湯浅の町は、やさしい刺激に満ちていました。

“醤油のふるさと”で、時を受け継ぐ匠の空間に出会う “醤油のふるさと”で、時を受け継ぐ匠の空間に出会う

今回はレンタサイクルを利用しての旅でした。

私、レンタサイクルって好きなんです。旅先で見つけると、つい乗りたくなってしまうんですよね。もちろん、徒歩でじっくりと町を歩くのも楽しいのですが、自転車だと少し遠くまで足を延ばせるので、その土地に暮らす人たちの日常が自然と目に入ってくる気がします。自転車のスピード感って、早すぎず、遅すぎず、ちょうどいい。

湯浅の風景や空気の中をペダルで進みながら、身体ごと町に溶け込んでいくような心地よさがありました。坂道をのぼるときの風、木陰の涼しさ、行き交う人たちの穏やかな表情――自転車だからこそ出会える瞬間が、たくさんありました。

お醤油を作っている「角長」にも行きました。

お醤油は、和食づくりが好きな方への贈り物と、我が家用に。和歌山出身のお友達にも、ぜひ届けたいなと思っています。きっと喜んでくれるはず。

お店のすぐそばにある「職人蔵」では、実際に使われてきたお醤油づくりの道具が丁寧に展示されていて、ご説明をうかがいながら、その一つひとつに込められた想いと誇りが伝わってきました。なかでも、木製の足踏み小麦ひき割機はとても珍しく、代々受け継がれてきた深い歴史を感じて、思わず胸が熱くなりました。

ご主人の佇まいにも“職人気質”がにじんでいて、あの空間全体に静けさと重みがありました。湯浅町が“お醤油のふるさと”と呼ばれる意味を、まさに五感で体験できた時間でした。

ほかにおみやげは買いましたか?

金山寺味噌を購入しました。実家の母は、昔から冷蔵庫に欠かしたことがないほどの金山寺味噌好きで。自身もなかなか好みの味に出会えないものですから……ときどき和歌山の親戚にお願いして送ってもらっていたんです。きゅうりに添えたり、白いごはんにのせたりするだけで、もう立派なおかずになりますよね。お醤油のルーツともいわれる金山寺味噌が、ここ湯浅町から始まったと知って、改めて“日本の味のふるさと”に触れた気持ちになりました。

湯浅グルメも堪能いただきました。

まず「スパイスカレーチャッピー」さんでいただいた、「オクラとシラスのだしカレー」。しらすのカレーは初めての体験でしたが、湯浅の朝獲れしらすの塩味と旨みが、和出汁ベースのカレーに驚くほどよく合っていて、思わず「なるほど!」と。

オクラやミョウガなど、地元の夏野菜の鮮度も素晴らしくて、素材の力を感じました。隠し味にお醤油を使っていると伺って、味の深みがしっかりとまとまっている理由にも納得。古民家の落ち着いた空間でいただく、現代的なスパイスカレー——とても粋で贅沢なひとときでした。

そして「千堂」さんでいただいた、湯浅茄子の茶碗蒸しも感動の一品。口に含んだ瞬間、お出汁がふわっと広がり、思わず目を閉じて味わってしまうほど。すべてのお料理に温泉水を使っていらっしゃるとのことで、そのまろやかな口当たりが、身体の内側からじんわりと沁みてくるようでした。

茄子の皮をそのまま器にしたスタイルもとてもユニークで、自立するほどしっかりとした皮の中に、とろとろの茶碗蒸しが包まれていて……その“固さ”と“やわらかさ”のギャップが、なんともいえず魅力的でした。

「千堂」の設(しつら)えも気に入ったご様子でしたね。

玄関から廊下、そして各お部屋に至るまで、隅々にまでおもてなしの“氣愛”が行き届いていて、心から感動しました。お部屋ごとに季節を映した室礼(しつらい)がなされていて、その空間にふさわしい旬の花がふんわりと生けられ、床の間には、その月ごとの掛け軸や絵がしつらえてあって。空間全体に漂う“気”が凛としていて、お料理をいただく前から「きっと素晴らしい時間になる」と確信できる佇まいでした。

真の日本料理店は、お料理だけでなく、その空間すべてがごちそう。窓から見えるお庭も、細やかに手入れがされていて、春夏秋冬、四季折々の日本の美意識を感じさせてくれました。和歌山を訪れるたびに、また「千堂」さんに帰ってきたくなる——そんな気持ちを抱かせてくれる、特別な場所でした。

ブラウス253,000円(ジュン アシダ|03-3463-8631)、ネックレス530,000円(RUBIDA(ルビーダ)|Jewel TSUCHIYA (ジュエルツチヤ)054-629-1670 )、ピアス37,400円(リアドロ|リアドロ ジャパン03-3569-3904)、時計(本人私物)、パンツ(スタイリスト私物)

湯浅町では、港から船に乗り、四季折々の魚を狙う本格的な海釣りが楽しめます。

私、実は子どもの頃から釣りが大好きで、和歌山の祖父が紀ノ川で鮎の友釣りをする姿を夢中で眺めていました。今も和歌山を訪れると、白浜空港からそのまま海へ直行。船頭さんに船を出してもらい、まずはサビキで小魚を釣ってエサを確保し、次に鯛などの大物を狙います。釣った魚をその場でさばき、いただく“キャッチ&イート”は、まさに自然の恵みに感謝する時間です。

今回は湯浅で、初めてのカワハギ釣りに挑戦できると楽しみにしていたのですが、あいにく天候の都合で出航は叶わず……。それもまた旅の思い出。次こそ、この海でカワハギと出会いたいと思います。

旅という非日常に身を置くことで 心に余白が生まれ、気持ちがリセットされる 旅という非日常に身を置くことで 心に余白が生まれ、気持ちがリセットされる

トップス38,500円(ハウス オブ ロータス|ハウス オブ ロータス二子玉川店03-6431-0917)、パンツ33,000円(レストレーゲ|チェルキ03-6418-6779)、スニーカー36,300円(ノーネーム|(株)ストックマン03-5426-2251)、ネックレス970,000円、ピアス※参考価格(ともにRUBIDA(ルビーダ)|Jewel TSUCHIYA (ジュエルツチヤ)054-629-1670)、時計(本人私物)、バッグ・帽子(スタイリスト私物)

紀香さんにとって、旅とは?

旅の魅力は、感受性が豊かになること。五感が研ぎ澄まされ、心の窓を開いて、知らない土地の景色や香り、初めて出会う人との会話といった非日常の体験を受け入れると、新しい自分に出会える気がします。

旅は、ただ新しい体験を重ねるだけでなく、自分の心と静かに向き合う時間でもあります。忙しい日々の中では考えごとが増えて心が満杯になりがちですが、非日常の旅先では、日常で絡まっていた感情がほどけて、気持ちをすっとリセットできる。だから旅から戻ると、今までやりたくても手をつけられなかったことに、自然と向き合える自分がいるんです。

本当に大切にしたかったことがクリアになり、自分の本音に気付ける——それもまた、旅の醍醐味だと思います。

もう一度、湯浅町を訪れるとしたら、誰とどこへ?

今度は夫とこの町を訪れたいですね。伝統的建造物群保存地区の趣ある景色を一緒に歩き、栖原海岸の夕日も並んで眺めたい。和歌山の海って、静けさと力強さが同時に息づいているように感じるんです。撮影中も思わず靴を脱ぎ、裸足で砂浜の感触を確かめたほど。あのやわらかな波音や、肌に触れる潮風を、夫にも感じてもらいたいです。

湯浅の旅は、どんな人におすすめですか?

癒しを求めている人にぴったりだと思います。歴史を感じる町並みの中で静かに過ごす時間は、日常から少し離れて心を整えてくれるはず。昔から変わらない景観や、丁寧に受け継がれてきた手仕事に触れると、自然とあたたかい気持ちになって、それが癒しへとつながります。

自転車でのんびりと町を巡り、海風を頬に受け、熟成された醤油の香りに包まれる——そんな静かでいて濃密な時間が流れる旅。きっと、心の整理や感性のリセットにつながる、忘れられないひとときになると思います。

藤原紀香
藤原紀香 Norika Fujiwara
Profile
兵庫県出身。神戸親和女子大学英米文学科在学中に「ミス日本グランプリ大会」でグランプリを受賞。卒業後、モデルを経て女優へ転身し、数多くのドラマで主演を務めるほか、CM、司会、声優など幅広い分野で活躍。映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』では夫婦共演でも話題に。近年は舞台出演が続き、『キャッツ・アイ』の舞台化、『サザエさん』、朗読活劇『細雪』、『怪談・牡丹灯籠』などに出演。2025年12月からは、堤幸彦演出による舞台『忠臣蔵』全国公演で、上川隆也演じる大石内蔵助の妻・大石りく役を務めることが決定している。芸能活動のみならず、社会貢献活動にも積極的に取り組む。NPO法人「Smile please藤原紀香 世界子ども基金」の発起人として、世界の子どもたちの教育や環境改善を目的とした支援事業を20年以上継続中。現在開催中の大阪・関西万博では日本館名誉館長を務め、国内外の賓客を迎える役割を果たしている。