茶畑と古民家と手しごとに癒やされる|京都の穴場・南山城村のスローな旅へ
歴史や伝統に触れる旅が大好きな旅色LIKESライター・長月あきです。先日、京都府最南端にある宇治茶の里「南山城村(みなみやましろむら)」で、ほっと心がゆるむような時間を過ごしてきました。茶畑に囲まれたおうちでのおばあちゃんの郷土ごはん、思い出の詰まった旧校舎での和紅茶体験、古民家を活かした工房での葉っぱを使った豆皿づくりなど、“観光地じゃない京都”だからこそ味わえた癒しの旅体験。次の旅先候補にいかがですか?
目次
南山城村ってどんなところ?
南山城村は、奈良・三重・滋賀に接する、京都唯一の“村”で、かつては伊賀・大和・近江を結ぶ道の要所として旅人や商人が行き交う地でした。南北朝時代には、都を追われた後醍醐天皇※1 が吉野へ向かう途中に立ち寄ったと伝えられ、村内には今も、当時をしのばせる神社や史跡が残っています。逃避行の途中、後醍醐天皇たちはこの静かな里で何を思ったのか――思いを馳せたくなるような風景が今も広がります。また、古くからお茶の栽培が盛んで、現在では宇治茶の京都府内における生産量の約2割を担うなど、自然と農の文化が根づいた里山です。
※1 鎌倉幕府を倒し、天皇による政治(建武の新政)を目指した革新的な天皇。南北朝時代のきっかけを作り、南朝を吉野に開いた。
旅の案内人は村づくりの立役者
南山城村のキーパーソン・森本健次さん
今回、南山城村を案内してくれたのは、村内の人気スポット「道の駅 お茶の京都 みなみやましろ村」立ち上げの陣頭指揮をとられた森本健次さん。この村のご出身で、元は村役場の職員として約30年にわたり地域づくりに携わってこられました。道の駅立ち上げのために一念発起、役場を退職し、道の駅の開業に尽力すると同時に、「村茶」ブランドの立ち上げや商品の開発、販路拡大など精力的に取り組まれています。地元の方々との信頼関係と、驚くほどの行動力で村を元気にしてきた、まさに地域のキーパーソンです。
茶畑広がる里山で、心がゆるむおばあちゃんの味
森本さんの車に乗って、細く曲がりくねった山道を進んで辿り着いたのは、茶畑に囲まれた山あいの一軒家。そこは、長年この地に根ざした郷土料理をつくり続けてきた仲西さんご一家の家でした。ごはんを作ってくれるおばあちゃんと娘さんをはじめ、ひ孫さんまで、家族みんなが温かく出迎えてくれて、まるで親戚の家に遊びに来たような気分になります。
ひとつひとつ丁寧に作られたお料理が並ぶ
おうちに上がってまず目に飛び込んできたのは、手作りの郷土料理がずらりと並んだ、あたたかなおもてなしの食卓。地元産のしいたけがたっぷり入ったおこわ、野山で採れた山菜や、自家栽培・自家加工の食材をふんだんに使ったおかずたち……。どれも丁寧に作られていて、見た目にも心が和みます。「家で作っていないのは、ポテトサラダに入れたハムくらいかな」と笑いながら話してくださったのが印象的でした。お茶も自家製の茶葉から。から揚げは、なんと家の前の罠にかかった鹿の肉。梅に一晩漬けてから揚げたという一品は、まったく臭みがなく、やさしい味わいです。一皿ひと皿に手間と愛情が込められた料理を堪能しながら、「豊かな食卓」とはこういうことなのだと、実感しました。
おうちの近くでは猿や鹿、イノシシなどが日常的に現れるそうで、「猿を追い払うために、おばあちゃんがロケット花火を手に待ち構えていた」なんていう武勇伝も! ほかにも、村には猿の出没情報をリアルタイムで共有するLINEグループがある、といった何気ない会話の一つひとつに、「地に根ざした暮らし」があるのだと感じ、せわしない日常で忘れてしまった人のあたたかさを思い出させてくれたような気がしました。
小学校の教室が紅茶工房に! 思い出の旧校舎で和紅茶の飲み比べを体験
次に訪れたのは、和紅茶の製造工場として使われている廃校となった小学校の教室です。旧田山小学校は2003年に閉校。現在はカフェやギャラリー、工房など、地域に開かれた場所として活用されています。以前、カフェを利用したことがあり、その際に校内を見て回っていたのですが……ここで紅茶を作っているなんてまったく気づきませんでした。
紅茶について教えてくれたのは、「中窪製茶園」5代目の中窪良太朗さん。農林水産大臣賞を受賞した実力派で、なんとここは中窪さんの母校でもあるのだそう。
教室内には萎凋(いちょう/茶葉をしおらせる)、揉捻(じゅうねん/細胞を壊して発酵を促す)、発酵、乾燥といった、本格的な製茶工程に使われる機械や道具がずらりと並んでいました。紅茶ができるまでのすべての工程を、中窪さんお一人で担っているというのだから驚きです。
この日は和紅茶の製造過程について説明を受けたあと、「べにふうき」「やぶきた」「さえあかり」「おくみどり」など、5種類の和紅茶を飲み比べました。品種によって異なる色、香り、味わいの繊細な違いを中窪さんに教わりながら、じっくりと味わう贅沢なひととき(正直に言えば、私はその違いをうまく表現できませんでしたが……)。さらに、茶葉の手もみ体験もさせてもらい、お茶づくりの奥深さを垣間見ることができました。
翌日、気に入った和紅茶をいくつか道の駅で購入し、いまも自宅や職場で旅の余韻を楽しんでいます。紅茶の香りが漂うたびに、あの教室で過ごしたひとときをふと思い出します。
葉っぱで模様をつける豆皿づくり。古民家ギャラリーも見どころ
翌日は、陶芸作家・藤田さんが営む工房&ギャラリー「トロッピカル窯」へ。小高い山の斜面に建つ古民家を改装し、陶芸工房として活用されています。
ここでは工房の裏庭で気に入った葉っぱを摘み、それをお皿にレイアウトして、ぎゅっと押し当てて模様をつけるという、豆皿づくりの体験ができます。工程はとてもシンプルなので大人も子どもも気軽に楽しめます。
とはいえ、「どの葉っぱを使おう?」「どう並べたら素敵かな?」と考え始めると、なかなか決められません。「せっかく南山城村に来たんだから、お茶の葉は入れたい」「シダの葉っぱは模様がきれい……」と悩むこと約1時間。ようやくレイアウトが決まりました(迷わなければ30分もかからず終わる作業です)。
旅先で陶芸体験をしたことは何度かありますが、この手軽さと、葉っぱを使うことで絵柄を“失敗しにくい”という安心感はとても魅力的だと感じました。 完成した豆皿が届くのは2〜3ヶ月後とのこと。今から手元に届くのが待ち遠しくてなりません。作業を行った工房内もとても素敵な空間でした。壁の色や植栽、さりげなく置かれたオブジェの一つひとつにセンスが光っていて、思わずきょろきょろと見回してしまいました。
作業のあとは、古民家を再生したギャラリーでティータイム。藤田さんの作品は、味のある建具や家具、オブジェたちと絶妙に調和し、時間を忘れるほどリラックスできる空間を生み出していました。
藤田さんは、愛知県の海辺の町から南山城村へ移住されたそうで、ギャラリーには海を思わせるようなオブジェも。この古民家を移住先として紹介したのが、当時、役場で移住者受け入れを担当していた森本さんだったそうです。
もともとは、とても人が住めるような状態ではなかったこの家を、藤田さんが時間をかけて改装。レトロな家具や建具、電化製品までもがどこか懐かしく、つい見入ってしまいます。なかには、村の粗大ゴミとして出されていたものもあるのだとか。その一つひとつが、藤田さんのセンスによって息を吹き返しており、終始その創造力に驚かされっぱなしでした。
ちなみに藤田さんがこの地を移住先に選んだ理由は、信楽(しがらき)や伊賀などの「陶芸の産地に近いから」ではなく、古民家の広さや立地、ご近所とのほどよい距離感、駅や市街地へのアクセスの良さといった、“暮らしやすさ”なのだそう。南山城村での生活そのものが、自然と作品づくりにつながっているように感じられました。
ものづくりだけでなく、藤田さんの作り出す世界観の心地よさに時間を忘れてしまう―。そんな体験でした。
観光だけじゃない旅、はじめてみませんか?
隣県出身の私にとって、南山城村はこれまで何度か車で通り過ぎたことのある場所でした。道の駅ができてからは“ちょっと立ち寄る場所”になり、そして今回の旅で、“滞在したくなる場所”へと変わりました。絶景や名所をめぐる旅ももちろん楽しいものですが、旅を振り返ったとき、「どこを見たか」よりも「誰と出会ったか」のほうが、心に残ることが多いように感じます。南山城村には、この土地を大切に思い、丁寧に暮らしている人たちがいます。そうした方々と出会い、日常のひとコマに少しだけお邪魔させていただいた時間は、ただ癒されるだけでなく、不思議と元気をもらえるようなひとときでした。
京都の穴場・南山城村で、“観光だけじゃない旅”、はじめてみませんか?
宿泊する場合は「フェアフィールド・バイ・マリオット・京都みなみやましろ」へ。ホテルについて紹介している記事も併せてご覧ください。


















