マイナス20℃の寒さを楽しさに変える! 星野リゾート トマム「氷のホテル」ができるまで ~継ぎ目のない一枚氷に宿る、職人とスタッフの熱量~
星野リゾート トマム広報の佐藤香苗です。小樽市出身の私が、入社して初めてトマムに来た時、マイナス20℃にも達する桁違いの寒さに衝撃を受けました。車のドアが開かないほどの厳しい寒さにネガティブな感情を抱くこともありました。そんな星野リゾート トマムには、幻想的な雪と氷の街「アイスヴィレッジ」が冬の夜にだけ現れます。街に足を踏み入れたとき、美しさに魅了され寒さなど忘れています。今回取材をしてみると、「アイスヴィレッジ」の制作背景には、極寒の自然に立ち向かい、氷のホテルと向き合い続けるスタッフたちの物語がありました。
目次
かまくらではない、光を透過する「アイスシェル」の魔法
今や星野リゾート トマムの冬を象徴する雪と氷の街「アイスヴィレッジ」。この場所は、当時働いていたスタッフの「この土地の寒さを生かしたコンテンツを作りたい」という一言から始まりました。
まずは雪や氷で人が入れるような空間を作ろうと模索し始めましたが、一筋縄ではいきませんでした。トマムのサラサラとした雪(パウダースノー)はまとまりにくく、かまくらを作ろうとしても崩れてしまいます。そんな中、日本酒の醸造のために「氷のドーム(アイスシェル)」が北海道旭川市で作られたニュースを目にました。雪山を掘るかまくらでも、雪を積み上げるイグルーでもない「アイスシェル(Ice Shell)」という特殊な技法で作られています。東海大学の粉川牧名誉教授が考えた技法で、空気膜(バルーン)を型枠にして、そこへ雪と水を吹き付けて凍らせるというものです。藁にもすがる思いで粉川教授の研究室を訪ねたことで、「アイスヴィレッジ」に欠かせない、「氷のホテル」の実現に向けて動き出します。
膨らませた巨大なオレンジ色のバルーン(袋状平面膜)に網目ロープを張り、アイスドームの形の原型をつくる。
粉川「イグルーやかまくらは雪の建築構造物として古くから知られていますが、大きな空間を柱なしで覆うことはできません。一方、アイスシェルは―10°C以下の厳しい寒気の中で散雪と散水を繰り返し行い、氷を何層にも重ねて作りました。私が開発した「粉川式アイスシェル」は、美しくもあり非常に大きな建築空間を創ることができます。アイスヴィレッジには直径15メートルのものを作ったこともありました。水と雪だけでつくるため、春になれば溶けて大地に戻る、地球にやさしいです」
計算し尽くされた網目ロープと、過酷な夜に挑む
粉川教授の当時の図面と理論を受け継ぎ、アイスドームの強度を保つための「網目ロープ」を複雑な立体構造を読み解きながら一つひとつ手作業で編み込んでいます。
アイスドームの強度を保つための大きな鍵となるのが、バルーンを覆う「網目ロープ」。社内スタッフでアイスドームの制作を担当する矢野さんは、アイスシェルと北海道の自然にほれ込み移住してきました。アイスシェルの立ち上げ当初から見てきた矢野さんは、粉川教授の当時の図面を今でも大切に受け継ぎ、一つひとつ手作業でロープを編み込んでいきます。
矢野「バルーンを膨らませた時、ロープで押さえられた部分が凹んで厚みを持ち、壊れにくい強固な構造になります。交差させた網目がずれないように固定していく。三角形を組み合わせた一番強い構造を作っていくのですが、平面の図面から巨大な立体構造を頭の中で組み立てていくので、とても奥深い面白さがありますね」
近年は温暖化の影響でドームを作るのが難しくなってきましたが、ドームの大きさを試行錯誤するなど、この環境下でも安全に楽しんでもらえる工夫を凝らしています。
矢野さんたちの計算しつくされたロープをアイスドームにしていくのは、パートナー企業である松本工業の松本社長が率いるチームです。バルーンを型枠にして、実際に水と雪を吹き付けて凍らせていく作業をマイナス15〜20℃という骨も凍るような寒さのなか、夜8時から朝方にかけて、行っています。
松本「風向きを読みながら均等に水を撒かないと、片側だけが重くなってドームが崩れる原因になります。5分も外にいれば寒さで体がビリビリしてくるので、交代しながら少しずつ厚みを出していくんです。バルーンを引き抜いて脱型する瞬間は、亀裂が入らないか毎回すごく緊張しますね」
凍てつく寒さの中で数日かけて行われる水撒き作業の様子。
過去には、急な気温上昇や大雪の重みでドームが崩れ落ちてしまう絶望的なハプニングに見舞われたこともありました。それでも彼らが決して諦めないのは、「星野リゾートの一員」としての強い誇りと確固たるプロ意識があるからです。休み返上で重機を動かし、みんなで肩を寄せ合いながら年越しそばを食べて作業を続けた夜もありました。
松本「『やる前からダメって言うな、とにかくチャレンジしてみろ』というのが松本工業の前社長の精神なんで。他人ができない仕事だからチャレンジしたいじゃないですか。うちの若い職人たちも、試行錯誤しながら『ああでもない、こうでもない』ってすごく楽しそうに作業しているんです。できあがってお客さんがすごい! と喜んでくれる声を聞くと、涙が出そうになりますよ」
「寒さを楽しさに」変える、トマムならではの体験
今年阿部さんが新たに考案した仕掛けのひとつが「氷の美術館」でアイスヴィレッジができるまでを写真で伝える展示。
阿部「私も現場で一緒に水撒き作業に参加した時、その苦労と技術の凄さに圧倒されました。初めて担当した2021年の大みそか直前、アイスドームが1つ崩壊したことがありました。その時は『もう終わった…』と頭が真っ白で……。でも、松本さんが『休み返上でやるぞ!』と現場を鼓舞してくださったんです。一刻も早く立ち上げ直すために、重機で土台をならし、バルーンを膨らまし直す作業をどんどん進めて、通常3〜4日かかる工程を一晩で終わらせてくれました。お客様に届けるんだ、という松本さんたちのプロ意識と圧倒的なリカバリーには感謝しかありません。本当にかっこよい、頼りになるパートナーです。そうした職人さんたちの熱い思いやアイディアが共鳴し合い、いろんな方々の協力を経てお客様に『こんなにもすごいものを作っているのですね』と言われるアイスヴィレッジが完成しています。完成するまでのストーリーも楽しんでもらおうと思ったんです。
寒さはネガティブに捉えられがちです。でも、『この寒さがあるからこそ、こんなに美しいアイスドームができるんだ!』『 寒さってこんなに楽しめるんだ!』と感じて、笑顔で帰っていただけるのが一番嬉しいですね」
アイスヴィレッジの雪景色や輝く氷を表現した全7種類のメニュー。
阿部さんは、これまで宿泊者しか体験できなかった氷のホテルで、今冬からの新コンテンツとして「氷のアフタヌーンティー」も企画しています。アイスドームの魅力である継ぎ目のない一枚氷が生み出す「静寂さ」や「空間美」を、より多くの人に五感で体感してほしいという思いが込められています。
熱量と寒さが響き合う、トマムだからこそ出逢える雪と氷の世界へ
アイスヴィレッジに完成した氷のホテルを見上げると、氷の壁を通して青く澄んだ光が優しく差し込んできます。その美しいアイスブルーの輝きは、粉川教授の緻密な理論、矢野さんの丁寧なロープ作り、松本社長たち職人の過酷な水撒き、そして阿部さんの体験への落とし込みという、すべての人々の熱量が共鳴して生まれたものです。「この土地ならではの体験」を本気で追及し、楽しむ。「氷のホテル」には、熱量高いスタッフたちの思いが、継ぎ目のない一枚氷の中にしっかりと閉じ込められています。
▼アイスヴィレッジ概要
期間:2026年12月20日~2027年3月10日 ※天候により、期間や内容が変更になる場合あり。各ドームや体験は順次開始予定。
時間:17:00~22:00(最終入場 21:30)
入場料:600 円(7歳以上)※トマム ザ・タワー、リゾナーレトマム宿泊者は無料(一部プランを除く)
※各ドームや体験は、アイスヴィレッジエリアオープン日以降、氷の状況に合わせて準備が整い次第、順次オープン。
※当日の営業状況の確認は、トマムコンシェルジュまで
※仕入れ状況により提供内容を変更する可能性あり。
◆星野リゾート トマム
住所:北海道勇払郡占冠村中トマム











