今見るべき! 高度経済成長期生まれな浅草橋の“いいビル”【連載第3回】

東京都

2019.09.25

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今見るべき! 高度経済成長期生まれな浅草橋の“いいビル”【連載第3回】

街を歩けば大体出合える、高度経済成長期に建てられた“いいビル”。東京オリンピックに向けて再開発が加速する中、長年平常心で佇んでいる(ように見える)ビルを見ると、なんだか安心してしまう。今回は浅草橋近辺のいいビルにスポットを当てます。長く続く問屋街には、小ぶりでかわいらしいビルが点在しています。その中でも、外壁をいいタイルですてきに装ったビルをご紹介します。

Text&Photo: 西村依莉

目次

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いいビルにはいい喫茶店がある、ゆうらくビル

うぐいす色のタイルが上品な松野製帽

表と裏で違う顔、奉仕会館ビル

いいビルにはいい喫茶店がある、ゆうらくビル

いいビルにはいい喫茶店がある、ゆうらくビル

浅草橋駅すぐ近くにあるゆうらくビルは、一見して派手なデザインのビルではありませんが、この時代の味を感じさせつつも削ぎ落とされたシンプルなデザインが目を引きます。白いタイルと小さな窓がびっしりと几帳面に並んだ外壁に「純喫茶 有楽」の袖看板がよく映えています。いいビルには建った頃から営業している喫茶店が入っていたりしますが、そういう形態だとオフィスだけが入っているビルとは違って堂々と中も見ることができるので嬉しいものです。

戦前から続けていた旅館を取り壊し、新たに建て替えたのが1973年。喫茶店はその1年後にオープンしました。時間をかけて内装に凝っただけあって、スペースエイジ的(1950年代~70年代の宇宙開発時代に流行った、近未来を彷彿とさせるインテリアのこと。)なディテールがたまりません。その名前からも分かるように、こちらの喫茶店のオーナーがゆうらくビルの持ち主。右奥のスペース(結構広い)はオープン当初はなく、お店ができて10年後くらいにテナント貸ししていた部屋の壁を抜いてお店を大きくしたそう。そんなわけで、インテリアの雰囲気が手前とは少し異なりますが、ストライプのソファがまたお洒落。

厨房の手前にはサークル状の半個室があります。「商談が丸くまとまる」ように、とこの形にしたそうですが、一段下げた丸いソファにパーテーション代わりの格子、そしてこの照明! ランプに紛れたシルバーの球体もかわいらしいです。

半個室の反対側の照明のあしらいもすてき! こういった内装はすべて先代のマスターがデザインしたのだそう。お茶しに行きがてら、随所に光るセンスのよさを確かめてください。


◆ ゆうらくビル
住所:台東区浅草橋1-2-10
電話:03-3861-9570
営業時間:平日7:00〜19:00、土曜日11:00〜16:00
定休日:第2、第3土曜日、日曜日、祝日

うぐいす色のタイルが上品な松野製帽

うぐいす色のタイルが上品な松野製帽

優しいグリーンのタイルと、ぐるりと囲わずに両サイドを抜いた白い窓枠が特徴的な松野製帽。

第一印象はその2点ですが、よく見ると1階の入り口の木戸が珍しいんです。創業者(現在の社長のおじいさん)がデザインしたというこちらのビル、自宅のドアと同じ木戸を別注し、取り付けたんだとか。先ほどのゆうらくといい、名建築家の手がけたものでなくても並々ならぬ思いを持って造られたビルは、大切にされていることが多く、時代や流行に左右されない建物の素晴らしさが伝わってきます。

残念ながら撮影した日は入り口に車が停まっていたので木戸が目立ちませんが、拙著『いいビルの世界 東京ハンサム・イースト(大福書林)』に木戸がしっかり見える写真を掲載しているので、そちらでぜひチェックしてください。


◆ 松野製帽
住所:台東区浅草橋5-5-12
電話:03-3866-9261
http://www.matsuno-boushi.co.jp

表と裏で違う顔、奉仕会館ビル

表と裏で違う顔、奉仕会館ビル

少し南方面に足を延ばせば、そこは馬喰町。この街も、ここに至るまでの道すがらも、いいビルがたくさんあります。奉仕会館ビルは、表と裏どちらも通りに面していて、それぞれファサードのデザインが異なっているのが面白い。キャメル系の色とセットバックデザイン(建物の上部を下部よりも後退させること)で統一感はありますが、壁の素材や窓の形がまるで違います。

タイル張りの面は渋く、アール窓(曲線デザインの窓のこと)の面はスペイシー。しかもこのステンレスの窓、ただのアールでなく、フレームが開口部にいくに従ってせり出していて、とても凝っています。8年前に4階をリノベーションし、メーカーのための展示場にしていると聞いて、当分取り壊されずに現役稼働するのかな、と嬉しくなります。

5階には「ホテル奉仕会館」があります。もともとは地方から来る仕入業者のための宿泊室でしたが、数十年前から独立したホテルとして運営しています。現在は半分ほどが海外から仕入れに来る宿泊客だそうですが、もちろん一般客も宿泊可能。問屋街に泊まってみるのも面白いかもしれません。


◆奉仕会館ビル
住所:中央区日本橋横山町5-8
電話:03-3661-1661
チェックイン:13:00(最終24:00)
チェックアウト:10:00
アクセス:JR総武快速線馬喰町駅から徒歩約2分

まだまだ他にもタイル張りのビルはたくさんあります。
釉薬のかかった陶磁器質のタイルは劣化しにくく丈夫なため、いい状態を保っていることが多いです。中には戦前に建てられたビルもあり、その耐久性の高さに感心します。色のチョイス、配色によってはとても華やかで、造り手の個性が感じられるのも魅力の一つ。歯科院のビルは、上層階にタイルで病院名を組んだ遊び心が、広告と患者さんへの親切にもなっているのがいいですよね。

タイル張りのビルは色んな街で見かけるので、出会った際は窓枠や入り口の照明、看板、床材など、様々なディテールを見て、すてきなポイントを探すと楽しいと思います。
ただし、くれぐれも、ビルに用のある人に迷惑にならないように配慮をお忘れなく!

◆西村依莉(にしむら・えり)
フリーランスの編集者・ライター。東京ビルさんぽメンバー。ファッション誌・ライフスタイル誌を中心に活動しつつ、高度経済成長期のステキな建築や街の風景を日々記録している。グラフィック社から『足の下のステキな床』『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』(共著)、大福書林から『いいビルの世界 東京ハンサムイースト』(東京ビルさんぽ)が発売中。

今見るべき! 高度経済成長期生まれな東京の“いいビル”【連載第1回】

今見るべき! 高度経済成長期生まれな中野の“いいビル”【連載第2回】

今見るべき! 高度経済成長期生まれな北海道の“いいビル”【連載第4回】

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