体験レポート

【愛知】海と魚と酒、そして宿主さんとのおしゃべりと。「伊良湖温泉 恋路ヶ浜黒潮」で渥美の物語に浸る
ふみこ(綴りびと)ふみこ(綴りびと)

愛知県:伊良湖温泉

家族 / 60代以上 / 訪れた時期:7月

2026/08/21

【愛知】海と魚と酒、そして宿主さんとのおしゃべりと。「伊良湖温泉 恋路ヶ浜黒潮」で渥美の物語に浸る

太平洋へ細長く伸びる渥美半島を貫く一本道を、半島の先端、恋路ヶ浜を目指して車が走る。青々と茂る夏草に囲まれた細い坂道を上がると、ふいに目の前が開けた。「うわぁ」と声が漏れる。海だ。大きな白波が幾重にも岸に押し寄せる、少し荒々しい太平洋が水平線まで広がっていた。「伊良湖温泉 恋路ヶ浜黒潮」は本当に渥美半島の先端に建っている。朝獲れの地魚、宿主・渡邉さんが選ぶお酒と土地の物語に触れる1泊2日の旅へ。

レトロな旅館の宿主さんに出逢う

熱くお酒を語る渡邉さん

宿の駐車場で車を降りると、潮の香りと絶え間なく響く波の音。
真ん中に螺旋階段があるレトロなロビーで宿主の渡邉さんが迎えてくれた。おじいさんが宿として始めて、現在は三代目。「この宿ができるずっと前は、この土地に豊橋(愛知)から牛車で新婚旅行に来る人が多かったそうです」。
恋人の聖地や幸せの四つ葉のクローバー発祥の地など、独特の語り口で地元の魅力を熱く語ってくれた。
もっと熱かったのは、お酒の話。ビール、日本酒はもちろん国産ワインからクラフトジンまで。国産ワインだけでも1,000本を超え、保管庫を借りるほどなのだという。

三河湾と太平洋、ふたつの海に包まれる客室

ベランダからの太平洋の風景

鳥羽からのフェリーが入港する三河湾

エレベーターで6階の客室へ。6階に上がった瞬間、廊下の窓いっぱいに三河湾が広がっていた。渥美半島の対岸は三重県の鳥羽。鳥羽からのフェリーがゆっくりと入港してきた。穏やかな風景だ。ガチャリと鍵を回し、和モダンの部屋に入る。ベランダの向こうには目の前いっぱいに太平洋が広がる。三河湾とは対照的に、大きな白波が立つ力強く荒々しい海景色が広がっていた。ベランダに出ると、波音が聞こえてきた。その響きが心地よい。

宿主さんに教わる、朝獲れ地魚の味わい方

地魚のお刺身

豊橋名産・濱納豆が地魚の味を引き立てる

今回の旅の楽しみのひとつ、夕食の時間だ。テーブルには、地元の旬の食材をふんだんに使った料理が次々と並び、期待が高まる。そこへ運ばれてきたのは、この日の朝に水揚げされたばかりの地魚のお刺身。コショウダイ、アブゴ、アイ――どれも初めて名前を聞く白身魚だ。口にいれると驚くほどの弾力で、噛むほどに上品な甘みが広がる。刺身は熟成させて旨味を出すことが多いが、「この地域では、あえて熟成させず、さばきたてを味わうんですよ」と渡邉さん。その言葉に、思わず納得。みずみずしい食感は、鮮度があってこそ。この日は、渡邉さんが粉末の濱納豆も出していただいた。常時用意はあるそうで、声をかければ提供いただけるとのこと。味噌のようなコクのある塩味が、淡泊な白身魚をぐっと引き立てる。
鯛の煮付けも印象的だった。ショウガやみりんは使わず、味付けは醤油と砂糖、お酒だけ。さらりとした煮汁が、鯛本来の味を引き立てる。「特別なこだわりはないんですよ。素材がいいから。それがここの料理です」。これこそが、この宿の料理の本質のように感じた。新鮮な魚介に恵まれたこの土地だからこその飾らないごちそうだ。

呑みすぎ注意、料理に寄り添う選りすぐりのお酒たち

食事は座敷の個室のほか、レストランや部屋での提供も

“ひねってる”ご自慢の古酒は、愛知県半田市で造られた「鳳凰敷嶋(ほうおうしきしま)」

さらにこの料理を引き立てるのは、渡邉さんご自慢のお酒たち。まずは、地元・田原市のクラフトビール「渥美半島ビール」から。私が選んだのは渥美半島産の大麦を使った定番のエールビール「IRAGO」。ビールが注がれたのは、渡邉さんがこだわって選んだ、口当たりの薄いグラス。唇に触れた瞬間の繊細な感覚が心地よく、風味をより引き立ててくれる。口に含むと、麦茶のような香ばしい味がする。料理の味に寄り添った穏やかな味だ。
その後は、国産ワイン、日本酒、クラフトジンへと進む。会話をしながら、渡邉さんがコレクションの中から、選りすぐりのお酒を次々と持ってきてくれた。中でも長い時間をかけて大事に熟成させた日本酒、古酒はここでないと楽しめない特別な一杯。「通は、ひねってる(=老ねている)と言うんですよ」と渡邉さん。老香(ひねか)と呼ばれる、独特の香りがあり、味わいはずっしりと深い。特別な日本酒をチビチビ呑みながら、地魚をつまむ。この土地ならではのぜいたくな時間だ。地元のご馳走と丁寧な説明付きの美味しいお酒を堪能し、気づけば家族全員すっかり酔いが回ってしまった。渡邉さんから「今日は温泉に入ったらだめですよ」と声をかけられ、部屋に戻った。布団に横になったら、そこからの記憶はない。
その土地ならではの味わいを存分に堪能できた。旅先でしか出合えない食文化を、楽しめるひとときだった。

太平洋を身近に感じる、伊良湖の朝

船を見守る伊良湖岬灯台。宿からは徒歩15分弱で行ける

波の音を聞きながら海辺のジョギングを楽しむ娘

黒潮の大浴場

翌朝は早起きをして、伊良湖岬灯台までウォーキングを楽しんだ。小高い山を越えると、太平洋の荒波が迫る海の傍に白い灯台がすっと立っている。その向こうには太平洋が果てしなく広がり、遠くに見える船影が旅情を盛り上げる。朝6時だというのに、たくさんのサーファーが波を楽しんでいる。このエネルギーに満ちた風景も、もう一つの伊良湖温泉だ。そっとイヤホンを外す。どんな音楽よりも波音が心地よい。荒々しい太平洋を見ながら、聞きながら、五感で旅を楽しんだ。その後は、ゆっくり伊良湖温泉に浸かる。殺菌効果の高さから“傷の湯”ともいわれる温泉を、大浴場で堪能してもらいたい。昨夜の酔いもすっかり抜けてリラックス。贅沢な朝の時間を楽しんだ。
アジの干物など地元の食材を活かした和食膳の朝食の後、波音を聞きながら宿を後にした。視界から青い太平洋が消え、波の音が遠くになったとき、旅の終わりを感じた。

おわりに

渡邉さん、お世話になりました。

今回の旅が特別な時間になったのは宿主・渡邉さんからその土地や料理、お酒などにまつわるストーリーを直接聞けたから。旅人がちょっとだけその土地に馴染めたような、そんな温かな特別感があった。地元の方との交流は旅を自然にアップグレードしてくれる。お酒好きの方はもちろん、地魚や海辺の景色、宿の人との会話を楽しみたい人は渡邉さんに会いに恋路ヶ浜黒潮へ行ってみては。きっと、ここでしか味わえない“土地の物語”が、旅を深くしてくれるはず。

  • ふみこ(綴りびと)

    ふみこ(綴りびと)

    山口県出身。神奈川県在住。 平日は会社員。週末は全国通訳案内士(英語)。史子の名前のとおり歴史好き。交流が旅の醍醐味と、出会った方とおしゃべりを楽しむ。料理好きで、地元のお茶、塩、味噌はマストバイ。自宅で旅の余韻を楽しんでいます。

    ※旅色綴り(旧旅色LIKES)のコミュニティメンバーです。

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 旅色編集部

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記事企画・監修: 旅色編集部

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