【熊本・阿蘇】大草原で生物の多様性を知る1泊2日のリジェネラティブツアー
旅色LIKESライター・トレンド旅担当のおんりです。みなさんは、「リジェネラティブツーリズム」を知っていますか? 旅をただ楽しむだけではなく、旅行先の環境がより良い状態になるように積極的に貢献することです。8末月に「生物多様性」をテーマにしたリジェネラティブツアーが熊本県阿蘇市で開催されました。ツアーの内容をご紹介します。
目次
阿蘇の大草原はどうやってできたのか?
NPO法人グリーンズと公益財団法人阿蘇グリーンストックが企画運営した今回のツアーは、一般的な観光ツアーとは趣が異なります。「草原の生物多様性」がテーマで、どちらかというと「学ぶ」要素が強いものでした。参加者は九州を中心に、全国各地から十数人ほど。
まず案内されたのは、代表的な観光地「大観峰(だいかんぼう)」。標高約935メートルにある展望所で、阿蘇カルデラ、カルデラ壁、阿蘇五岳、九重連山まで大自然を一望できる人気の観光地です。
阿蘇の草原について説明してくれるのは、草原研究の第一人者である増井太樹さん。野焼き支援ボランティアの受け入れや希少種を守る活動など、草原の保全と価値創造に尽力されている方です。約1時間の講座で、草原の成り立ちや役割、生物の多様性について学んでいきます。
阿蘇の草原がどのようにしてできたか考えたことはありますか。広大な阿蘇の草原は自然にできたものではなく、人々の生活と関わり合いによってできたものなんだそうです。私にとって阿蘇は、修学旅行や家族旅行、友達や夫と10回以上は訪れているなじみの観光地。何度も見たことがある風景ですが、広大な草原がどのようにしてできたのか考えたこともありませんでした。
阿蘇の草原の代表でもある「米塚」(2024年5月撮影)。
阿蘇の草原は、建築材料としての萱(かや)の調達や牛や馬の放牧、飼料や肥料としての採草など、人々の暮らしや産業の中で長年維持されてきました。しかし草原は放置すると雑草が生い茂り、藪となり、やがて森になってしまうのだとか。近年、生活様式の変化や少子高齢化、後継者不足など、様々な原因で草原の面積は減少し続けています。いわれてみれば、小学生の頃に見た景色に比べて、草原が減り、森林が増えているような……。また阿蘇に向かう途中には、一面にソーラーパネルが設置されている場所もありました。耕作放棄地の有効活用とはいえ、ギラギラと銀色に光る大地は何だか異様な感じです。
あか牛を放牧して草原を守る
草原の保全に一役かっているのが、牛や馬の放牧です。草刈機が入りきらない狭い場所や急斜面の草を、牛や馬が食べ、糞尿は大地の養分となります。阿蘇の草原は立入り禁止区域が多いのですが、ツアーではそういった場所にも入ることができます。
案内してくれたのは、あか牛を年中放牧して育てる「周年放牧」を行っている内山彰さん。内山さんは、放牧の面白さに魅せられて、エンジニアを辞め、阿蘇に移住してきました。「牛には全部、和名をつけてるんですよ」と嬉しそうに話す姿から、牛への愛が伝わってきます。「まだまだ試行錯誤していますが、僕が持っている放牧のノウハウを次世代に伝えることで仲間を増やし、全国に広めていけたらと思っています」と前向きな姿勢がとても頼もしく感じられました。
都市農村体験交流施設 「ゆたっと村」で交流を深める
今回宿泊するのは、野焼き支援ボランティアの会の活動拠点でもある「阿蘇ゆたっと村」。阿蘇五岳を真正面に静かにたたずむ古民家は築100年超え、中に入るとまるで昔話の世界に迷い込んだよう。広い土間や、広い畳の部屋など今では滅多に見ることができない空間にテンションがあがります。
夕食は、待ちに待ったあか牛のバーベキュー! メインのあか牛を塊のまま焼いていきます。いや~贅沢。あか牛は、赤身が多くヘルシーな反面、調理が難しく「固い」と言われることも多いそう。この日はありがたいことに、増井さんがつきっきりで火入れをしてくださり、最高の状態に焼きあがりました。旨味はありつつ油がしつこくないのでいくらでも食べれてしまいます。熟成させるとより旨味と柔らかさが増すそうです。熟成肉も食べてみたい!
参加者自作の生ハム。発酵させたものは、ほんのりチーズのような風味がして赤ワインとの相性が抜群!
とにかくタレント揃いの参加者たち。昆虫や、野生動物、蛇などを食した経験がある強者が多く、「蝉は羽化したてが一番おいしい」などの仰天エピソードも飛び出し、大いに盛り上がりました。参加者たちが持ち寄ったお酒、おつまみ、お菓子などをいただきながら、楽しい夜は更けていきます。
室内にエアコンはありませんでしたが、阿蘇自体が高地に位置することもあり、扇風機だけでも問題なく熟睡することができました。
翌朝は5時半過ぎに起床、阿蘇の朝は、空気が瑞々しくて気持ちがいい! その後6時から朝活として増井さんによる講義がはじまります。参加は任意でしたが、ほとんどの人が参加していました。朝ごはんをいただいたら、最後のフィールドワークへ向かいます。
草原でのフィールドワークで生物の多様性を学ぶ
波野駅から徒歩5分ほどで、阿蘇グリーンストックが取得した土地に到着します。歩きながら観察していくと、今年の夏は猛暑だったにもかかわらず、草原の草花はすっかり秋の装いに様変わりしていました。植物はきちんと季節の移りかわりを感じていることに驚いてしまいます。この日は大雨の予報だったのに、見事な晴天!丘の上まで登ると、少しだけ秋の気配を感じる風が吹きぬけ、あちこちで「気持ちいい~!」と声があがっていました。絶滅危惧種に分類される草花も見ることができて、森林セラピーならぬ草原セラピーを満喫しました。
草原を上り丘の上から見ると、植林された場所、藪化している場所、雑木林になりつつある場所が一目瞭然です。一見、自然豊かに見える風景も、草原がなくなる過程だと知ると複雑な気持ちになります。フィールドワークのあとは阿蘇草原保全活動センターへ移動し、昼食をいただきながら、2日間の感想をシェアしてツアー終了となりました。
おわりに
阿蘇といえば、広大な大草原。その大草原が、放っておくとなくなってしまうという事実をリジェネラティブツアーに参加して初めて知りました。人間の営みと草原の関係が希薄になった今、草原を維持しようとすると、大変なコストとマンパワーが必要となります。増井さんは「太く短い支援よりも、細く長い支援をして欲しい。それを可能にするような幅広い支援方法を模索中です」と話す一方、「長い歴史の中で振り返ってみたときに、草原の保全が正しいことなのかどうかはわかりません。時代と共に、価値観や見方は変わるものだと思っているので。」とも話していました。それでも草原の保全に取り組み続ける理由は、シンプルに「草原が好きだから」。「好き」というシンプルな思いが、一番強い原動力になるのだと感じました。
ツアーメンバーと草原で。
みなさんの住んでいる周りに草原はありますか? その草原がどのようにしてできているのか調べてみると、意外な発見や取り組みがあるかもしれません。私は今まで「自然が好き」と思っていましたが、実は人と自然が調和する「二次的な自然」が好きなんだと気づかされました。「リジェネラティブツアー」は、私が参加したツアー以外にもいろいろな地域や団体で企画されています。興味がある方はぜひ参加してみてくださいね。
増井さんが所属している阿蘇グリーンストックは、野焼支援ボランティアや、草原アクティビティ、あか牛のオーナー制度など様々な活動を行っているので、そちらもチェックしてみてください。











