【ツアーレポート】知床を愛する人たちとの交流が旅好きメンバーたちの価値観を変えた! 「ちゃんと旅を考える学校」修了旅
9月21日(日)~23日(火)に、「ちゃんと旅を考える学校」の修了旅として「2泊3日のアドベンチャートラベル体験in北海道 知床」を催行しました。参加者たちに「ただ観光する」だけでなく「現地を知り尽くした人たちと交流する」ことを堪能してもらった今回の旅。なかでも3名の方との出会いが、参加者の旅の価値観に大きな影響を与えました。その様子をレポートします。
目次
知床を知り尽くすガイド・寺山 元さんが語る「自然界との付き合い方」
3日間通して参加者を案内した寺山 元さん。日本人ではじめてチョ・オユー(※1)の山頂からスキーをしたという根っからの冒険家で、知床で約20年ガイドをされています。そんな寺山さんが旅の冒頭で話したのは「人間と自然界(に住むもの)との付き合い方」でした。
「知床には約8,000年前から人が住んでいた痕跡があり、その時もクマとの共存は課題だったはず。観光においてここ30年事故がなかったのも、『人間がクマや野生動物がすむ森の中に入る際、何に気を付けるべきか』を伝える努力があったからです。」
自然を楽しむ旅はリスクをゼロにはできません。だからこそ大切なのは“距離をとること”だと寺山さんは語ります。たとえば、自然界にはない金属音をクマ鈴で鳴らし「人間がいる」と思わせたり、自然界にないもの(お菓子やペットボトル飲料など)を持ちこまないようにし、「人間=おいしいものを持っている」と認識させないようにしたりすることが重要とのこと。
このお話を聞いて、クマだけでなく、自然のある場所へ旅するのであれば、その環境に適したルールを正しく理解し、適切な距離で観光するのが、わたしたち旅行者に必要なことだと考えさせられました。
※1チョ・オユー:ネパールと中国チベット自治区にまたがるヒマラヤ山脈の山。標高は8201 mで世界第6位。
知床財団・中西さんが引き継いだ、美しい自然を大切に思う心
知床自然センターでは、公益財団法人知床財団 事業部自然再生・交流推進担当参事の中西将尚さんとの出会いがありました。かつて乱開発の危機にあった知床国立公園内の開拓跡地を保全し、原生の森を復元するための「100平方メートル運動」を推進している中西さん。多くの人がイメージする「美しい知床の自然」にどのような歴史があり、どうやって守られているかを教えてくれました。
「知床に訪れる観光客の多くは『知床の自然=手つかずの雄大な景色』と思っていますが、実は北海道開拓時代に森が切り開かれ農地として利用された歴史があり、現在の姿はナショナルトラスト運動(※2)によって取り戻された姿なのです」
知床では三度に渡って開拓が行われ、1973(昭和48)年頃に終了。その跡地は土地投機ブーム(※3)で生まれた原野商法(※4)により、約6割が不動産業者の手に渡ることになってしまいます。しかし、1964(昭和39)年に知床が国立公園になったことから、土地の買い上げと開墾された自然を守りたいという町民たちの思いからナショナルトラスト運動が起きたのです。その効果もあり、2002(平成14)年に土地の買い戻しは終了。その後も知床の森を守るべく植樹活動などが現在も続いていますが、大事なのは「自然を大切に思う人の心」だと中西さんは語ります。
「土地を取り戻しただけ、緑を増やしただけではゴールになりません。生物多様性に富んだ森を育てるには200年かかるとされ、それには同じ想いを持ってくれるサポーターや人材の育成が必要なんです」
都会の喧騒から逃れ、非日常に癒しを求めて出かける旅先にも、その土地を守る人たちの思いや努力がある……。当たり前のことですが、忘れがちなことです。ただ観光地を訪れ、見るだけ、写真を撮るだけ、では気づかされないリアルを知るためにも、現地の人との交流は旅に必要な要素だと再認識しました。
※2ナショナルトラスト運動:都市化や開発から貴重な自然や歴史的建造物を守るために、市民が寄付金などで土地や建物を取得し、後世に引き継いでいく市民運動のこと。
※3土地投機ブーム:土地の価格が実体経済からかけ離れて急騰するバブル経済期において、土地を売買するだけで利益を得ようと多くの人々が土地に投資した状態。
※4原野商法:価値がほとんどない遠隔地の山林や原野を、「開発計画がある」「必ず値上がりする」などと嘘の情報を伝え、高額で売りつける詐欺まがいの商法。
伝統産業を未来に残すために、加瀬漁業・加瀬里紗さんが始めた挑戦
知床の自然の未来を考えるのと同じく、知床の産業を守り、発展させようと挑戦し始めたのが加瀬漁業の加瀬里紗さん。約130人いる羅臼昆布漁師のなかで伝統製法「天日干し」を行う、数少ない天然羅臼昆布漁師の一人です。天然の羅臼昆布を製品として流通させるのには、採取、洗い、干し、整形作業など20を超えるの工程を経ないといけません。それに加え昆布を夜露で湿らせ、しわを伸ばし再び天日で干しあげるなどを繰り返すなど、変わりやすい夏の天気や自然と向き合いながら製品化しています。
「羅臼の夏はすっきり晴れることはほとんどありません。毎日、雲の隙間から見える青空を見ながら、タイミングを見計らって浜辺に何千枚もの昆布を出したり、雨が降りそうになったらブルーシートをかぶせたり……。一瞬たりとも気が抜けないです」
また、海水温の上昇の影響からか海中にある昆布の根が腐ってしまったり、昆布を乾燥機で乾かす際に必要な重油が高騰したり、さらに北海道全体の昆布を取り巻く環境は年々深刻化しているよう。漁業を続けられるか、どうしたらもっと天然羅臼昆布含め、羅臼町の良さや歴史を伝えていけるか。悩んだ加瀬さんが思いついたのが、今年の2月から開業させた一組限定の貸し切り宿・KOBUSTAYです。
「コンセプトは『暮らすように旅する』。ここを訪れる国内外の方に知床の美しい景色や食文化、産業の景色を共有したいと思って始めました。こういった挑戦を通じて、漁獲量に固執しすぎない漁業を見直し、持続可能な町のあり方や産業の魅力を私たちの世代から広めたいと思います」
環境の変化や担い手不足に悩まされるとしても、自ら新しい道を切り開き、大切なものを残していきたいという加瀬さんの意気込みに、なんだか勇気づけられた出会いでした。
おわりにー現地の人との交流が旅好きの価値観を大きく変えたー
今回参加したメンバーたちの多くは旅慣れていたり、旅が好きで写真やブログで記録を残したりしていました。そんな参加者たちが旅程終了後、口をそろえて言ったのが「旅への価値観が大きく変わった」ということ。ただ旅行をするだけ、写真を撮るだけ、記録を残すだけ。そんな旅ももちろん楽しいが、現地の人と出会える場へ赴き、語らい、見るだけではわからない歴史や面白さを知ることで、より旅が思い出深くなったと話していました。
「濃厚な3日間でした。今まで経験した旅とは違います」
「人生観が変わる旅でした。想像以上の大自然と知床愛にあふれた人たちとともに過ごした3日間はこれからのわたしの旅人生の基点になるはずです」
みなさんも、旅先での出会いを大切にしてみては?












