「羅臼昆布を知ってほしい」加瀬漁業・加瀬里紗さんが天然昆布にかける思いと挑戦

北海道

2025.10.29

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「羅臼昆布を知ってほしい」加瀬漁業・加瀬里紗さんが天然昆布にかける思いと挑戦

日本の食卓に欠かせない昆布。国内の昆布生産量の約95%を占めている北海道では、羅臼昆布をはじめ、利尻昆布、真昆布、日高昆布など、さまざまな種類の昆布が採取されています。しかし、早朝から深夜まで続く長時間労働や、海外からの輸入増加により、後継者不足が問題に。そんななか、天然昆布にこだわるだけでなく、「漁師の生活を体感してほしい」と宿泊業まで始めたのが、北海道羅臼町の加瀬漁業・加瀬里紗さんです。わたしたちの想像のはるか上をいく大変な作業のもと生まれる羅臼昆布。その工程内容とともに、天然羅臼昆布を後世につなげるために始めた加瀬さんの挑戦と思いを聞きました。

目次

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昆布と潮の流れに「手」と「口」で対峙!? 驚愕の天然昆布採取方法

羅臼町ではここだけ。「天日干し」であめ色に輝く昆布が浜にずらり

加瀬漁業でしか見られない夏の風景は天気との勝負!

「出荷は嫁入りと同じ気分」。いくつもの努力を経て、美しい姿で出荷

自身が魅了された「羅臼昆布」を未来につなげるために。2025年2月から始まった加瀬さんの挑戦

おわりに

昆布と潮の流れに「手」と「口」で対峙!? 驚愕の天然昆布採取方法

そもそも、昆布がどのように海から揚げられるか知っていますか? 「海女さんのように素潜りで海中の昆布を獲る……」というわたしの妄想に加瀬さんが教えてくれた正解は、想像を絶する内容でした。

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昆布の根っこ。「これで4~5枚くらいの昆布が獲れます」と加瀬さん

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昆布竿を持って根っこを獲るイメージトレーニング。「長いものなど約9メートルほどあります」。9メートル……?

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箱メガネ。手前下のグレー部分がマウスピース。「80代で入れ歯をされている漁師さんもいますが、専用の箱メガネを使って漁に出られています」。恐るべし

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写真左が昆布漁に出られている旦那さん。一連の説明を受けた後にお会いしたので、対面時は感動してしまった

「天然昆布はまず、海底にある昆布の根っこを『昆布竿』で挟んでねじりとります。潮の流れがあるので狙っても目指す昆布を採るには一苦労です。また、海底から引き揚げるので結構重労働なんですよ」

加瀬さんは笑顔で教えてくれますが、自分がやるとなったらどれだけ大変なんだろうか、と口をあんぐり開けてしまったわたし。そんなわたしに加瀬さんがさらに驚愕の工程を話します。

「竿は両手で持たないといけないので、海底の様子は『箱メガネ』から覗きます。実は、船体に取り付けているのではなく、マウスピースでがっしりと挟んで、口で固定するんです」

あまりのことに「えー!」と叫んでしまいました。この「箱メガネ」も当然、潮の流れを受けて動くので、相当歯を食いしばらないと固定できません。口にも両手にも道具を持ちながら約5時間の操業を経て、船が昆布で満杯になってから陸に戻ってくるそう。でも、ここまではまだ序の口。“昆布の王様”と呼ばれる天然の羅臼昆布が製品になるには、さらなる工程が待っています。

羅臼町ではここだけ。「天日干し」であめ色に輝く昆布が浜にずらり

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シーズン中はこの浜いっぱいに昆布が並べられる。写真奥に見えるのが国後島

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びっしりと並ぶ昆布

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乾燥機内部。上部にある洗濯ばさみに昆布を挟んで吊るす

水揚げした昆布を、まずは海水を使って専用の機械を使い、付着物や溝に入った泥などを落とします。その後、浜の上で「天日干し」にします。この「天日干し」はいまでは加瀬漁業を含め数件のみ、珍しい光景になっているんだそう。

「揚がったばかりの昆布は水分ですごく重いし、何千枚も浜に並べるのは手間もかかります。けれど、海の向こうに見える国後島から上がる太陽であめ色に輝く昆布はとても美しくて、苦労も忘れてしまいます」

そううっとり話す加瀬さん。大変な作業も、昆布への愛があるからこそ続けられるのかもしれない。そう感じたわたしですが、愛情だけでは乗り越えられないのでは? というくらい、まだまだ工程は続きます。

「天日干し」後、内部が55度の温風が舞う平屋(=乾燥機)で約15時間かけて完全に乾かします。「天日干し」だけではまだ生乾きの部分もあるので、乾燥機の中に人が入って、乾いていない部分に風を当てることも。

加瀬漁業でしか見られない夏の風景は天気との勝負!

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「ここで問題です」と加瀬さん。加工された昆布は、何重かに折り畳まれて包装されています。完全に乾ききった昆布を、どのようにして畳んでいるのでしょうか。「専用のスチームアイロンとか?」と考えているとまたまた驚愕の答えが。

「もう1回浜に並べ直して、夜露に当てるんです」

また、「えー!」です。乾燥機をかける前に畳んでしまうと、生乾きの跡がついてしまうため、一度完全に乾かしてから伸ばす必要があるそう。また、昆布は海水には強いですが、水分には弱いため、大量に水をかけることもできません。そのため、夕方頃に山から下りてくる天然の夜露に当てる必要があるのだとか。
そうして柔らかくなった昆布を一度巻いて、ほどいて真っ直ぐにしたあと、またまた、浜に並べ太陽光で乾燥させます。

「『日入れ』という干しあげる工程は、日照りを待つ作業のため特に天気との勝負。家族全員ピリピリしています(笑)。というのも、昆布漁は7月下旬~8月に行うんですが、この時期の知床はすっきり晴れることはほとんどありません。なので、雲の間から晴れ間を見て作業をしています。もしちょっとでも天候が悪くなったらブルーシートで覆ったり、逆に天気が急に良くなったら、ほかの作業はすべて中断して浜に並べ直したりします。」

「出荷は嫁入りと同じ気分」。いくつもの努力を経て、美しい姿で出荷

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白い部分は汚れではなく、旨味が詰まっている部分。ここは切り落とさないように注意

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細かい基準が設けられている等級

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“花嫁衣裳”に身を包まれ、右側の四角部分に印を押され、出荷

ここまで獲られて、洗われて、干されて、夜露にさらされ、また干されて……といろんな工程をふんだ昆布を1・2週間ほど奄蒸(あんじょう≒ベンチタイム)に入ります。その後、休ませた昆布の整形作業「ヒレ刈」へ。わたしもこの作業に挑戦させてもらいました。

「人間と一緒で、大きいものがあったり、ひねくれた形のものがあったり、傷があったり……。どれ一つ同じものはないです。そんな昆布たちが一番美しく見える状態にするのが『ヒレ刈』です」

専用の鋏で迷いなく昆布の端を刈っていく加瀬さん。どこを切ればよいか教わりながら恐る恐る切っていくわたしとは大違いです。約5分かけて3枚の昆布の「ヒレ刈」をしましたが、加瀬さんは一日800~1,000枚ほど作業するそう。その後、等級を決めて15キロごとにくくり、最後は検査員による抜き打ちチェックを経て、出荷です。

自身が魅了された「羅臼昆布」を未来につなげるために。2025年2月から始まった加瀬さんの挑戦

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加瀬さん一家

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写真左が先代のお義父さん

壮絶な作業工程を経て誕生する“昆布の王様”。天然昆布一筋の加瀬漁業に嫁いだ加瀬さんは現在、3人の娘さんの子育てと家事をしながら、1~6月はウニ漁、7~8月は昆布漁に従事しています。

「札幌生まれで、18年前に観光関連で働くために移住してきました。嫁いでから先代の義父に漁業権を譲り受けたのが8年前。そこからは覚えることばかりだし、子どもたちも小さかったので本当に大変でした。5・6年かけてやっと覚えたかな? という感じです」

とこれまでを振り返る加瀬さん。昆布漁に慣れ始めたころ、温暖化による漁の変化や、担い手不足問題などに目を向けられるようになったそうです。

「昆布は水温の低い海を好みます。けれど、温暖化で根が腐っていたり、獲れても乾燥機で使う重油が高騰していたり……。いつまで続けられるかな、と不安になりました」

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羅臼町随一の風景や代々続く昆布漁を守っていきたいと考えた加瀬さんが今年の2月にオープンさせたのが「KOBUSTAY」です。お義父さんが開業のころから倉庫として使っていた場所を、2階建ての貸し切り宿へとリニューアルさせました。

「コンセプトは『暮らすように旅する』。どうやったら受け継いだものを守れるかな、と考えたときに思いついたのが『漁師の暮らしに触れて、知ってもらうこと』だったんです。自炊型の貸し切り宿で、一組限定6名様まで滞在可能。ゲストには自炊を楽しんでもらい、また清掃はクリーニングスタッフさんに支えてもらいながら、本業の昆布漁と掛け持ちが可能なのです」

むしろ、昆布漁のシーズンにこそ来てほしい、という加瀬さん。「知ってもらう」ことで、羅臼昆布の魅力や、羅臼町で続く風景を後世まで残せる……。滞在者には「ヒレ刈」体験のほか、「天日干し」や荷揚げの見学の機会も提供しています。取材日時点で開業から約半年が経っていましたが、インバウンド客を中心に好調だそう。

「知床自体が海外の方から人気なのもあって、あやかっている気持ちです(笑)。海外では『日本食』への興味も高まっているみたいなので、体験も楽しんでもらえています」

おわりに

シーズンが決まっているとはいえ、大変な作業量を毎日こなすだけでも苦労が絶えないはずなのに、家事・育児に加え、新しいチャレンジも始めた加瀬さん。その原動力はやはり「昆布(漁)を知ってほしい」というところにあるそう。

「娘たちだけでなく、近所の子どもたちも手伝いに来てくれています。最近だと何年も通い続けてくれた子が大学進学を機に卒業することになって……。感慨深いです。けれど、娘たちもそうですが、『自分たちの親(町)が何をやっているのか』を目の前にして、自分も体感することで、『働く』ということについても理解が深まっているみたいです」

加瀬さんとの出会いで気づかされたのは「知る機会を得る」ことの重要性です。旅に出る前は目的地へのアクセス方法やどんなことができるかなどは調べますが、その土地の伝統産業やどんな人がいるかまで把握はしてきませんでした。ですが、少しアンテナを高くして、自分がこれから赴く場所について興味を持ってみたり、その場所に住む人たちのイメージをするだけでも、「新しい知識や体験との出会い」につながるかもしれない。そう感じた旅でした。

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#北海道 #インタビュー #体験レポート #ちゃんと旅を考える学校

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