体験レポート

木屋旅館で巡る三朝温泉と三徳山投入堂! 大人の女子旅で挑む“プチ修行”体験記
ふみこ(綴りびと)ふみこ(綴りびと)

鳥取県:三朝温泉

家族・母娘 / 60代以上 / 訪れた時期:8月

2026/09/24

木屋旅館で巡る三朝温泉と三徳山投入堂! 大人の女子旅で挑む“プチ修行”体験記

先日、鳥取県にある木屋旅館を訪ねた。還暦を迎え、体が自由に動くうちにやっておきたいバケットリストのひとつ。それが、“日本一危険な場所にある国宝”ともいわれる、三徳山三佛寺(みとくさん さんぶつじ)投入堂への参拝だ。断崖絶壁に張り付いているお堂を自分の目で見てみたいが、平安時代以降、山岳修行の霊場として多くの修行者が歩いた険しい山道を登れるのか。そんな不安を吹き飛ばしてくれたのが、森林セラピーガイドの資格を持つ、木屋旅館9代目・利洋さんのガイドだった。修験の道をたどりながら、娘・ノリコとちょっぴりスリリングな“プチ修行”な滞在を楽しんだ。

お迎えバスの中から、旅は始まる

趣のある木屋旅館の玄関。

廊下が小さな美術館に。秀さん曰く「木屋旅館のパブリックスペース」。

落ち着く和室で、リラックス。

倉吉駅前で待っていてくれたのは、木屋旅館の法被を着た白髪のイケオジ、8代目の秀さん。三朝温泉まで約15分、バスを運転しながらの話が面白すぎる。車窓に広がるのは緑の田んぼと、オレンジ色の屋根瓦。石州瓦と呼ばれ、鉄分を含む釉薬による色なのだそう。古来の製鉄法「たたら」が行われた土地と聞けば、旅への期待も高まる。三朝温泉街の温泉本通りが「くねっ」と曲がる角に立つのが、国の登録有形文化財・木屋旅館。もとは庄屋で、「木屋」の屋号は、三徳山の鉱石や木材を北前船で運んでいたことに由来するという。明治元年創業で、大正、昭和と増築を重ね、今の姿に。使い込まれた調度品が並ぶ廊下を抜け、藍色の布を巻いた手すりの階段を上る。案内されたのは、どこか懐かしく、ホッとする和室だった。

平安時代から続く三朝の名湯をたのしむ

温泉マップを頼りに館内の湯を楽しむ。

階段をおりて「薬師の湯」へ。

利洋さんが「温泉ソムリエ」となり、木屋旅館にある7つの温泉の楽しみ方を伝授。宿では、ただ湯に浸かるだけでなく、「浸かる」「吸う」「飲む」「寝る」といった楽しみ方が体験できる。ラジウム温泉のラドンを取り込むと、なんと細胞レベルで30歳若返るのだとか。一日の上限は温泉水500cc、またはミストサウナ25分+温泉水100cc。ならばと枕湯へ。お腹をタプタプにしながら温泉水を飲み、ノルマ達成。これで30歳若返ったはずだ。その後は「薬師の湯」にゆったり浸かる。倉吉で出会ったボランティアガイドさんの「木屋旅館のラジウム温泉は最高ですよ」という言葉にも納得だ。温泉はすべて階段を下った地下にあり、長い年月を重ねた風情がたっぷり。迷路のような館内で、湯へ向かう途中に迷うのもまた楽しい。聞けば、三徳山に登る前日は温泉に入り、身を清めるのがお作法とか。これで準備は万端。明日に備え、早めに布団に入った。

邪念は消える? 三徳山、修行の道へ

森林セラピーガイドのトレードマークの笠をかぶった利洋さん。

三徳山登山コースは、木屋旅館が宿泊者向けに案内しているアディショナルサービスのひとつ。木屋旅館から車で約15分、三徳山の登山口へ。森林セラピーガイド資格を持つ利洋さんが、歩くペースや見どころを伝えながら案内してくれる。田園風景から深い山へと景色が変わり、いよいよだ。三徳山は標高900mの霊峰で、古くから信仰を集めてきた。投入堂は三徳山三佛寺の奥の院で、中腹の断崖絶壁に建つ。利洋さんが看板の前で行程を説明してくれた。想像以上に険しそうだ。まず登山事務所で入山許可をいただく。入山は二人以上が必須で、靴裏もしっかりチェック。滑りやすい場合は藁縄を靴に巻いて登る。準備を整え、「六根清浄」のタスキをかけ、いざ入山。人間の六つの感覚を清らかにし、迷いや欲、執着から離れるという意味だ。投入堂まで登れば、私の邪念も少しはそぎ落とされるのだろうか。

「六根清浄」のタスキをかけて入山前の記念写真。まだ、余裕あり。

利洋さんの説明がなければ、見過ごしてしまいそうな小さな役行者像。

これ、いきなり修行でしょう。目の前にそびえる根っこだらけの急坂におののく。

少し歩くと、三徳山の最重要人物に遭遇。三徳山を開山したと伝わる修験道の開祖・役行者(えんのぎょうじゃ)の石像だ。登山道の脇にちょこんと鎮座し、知らなければ見過ごしてしまいそう。安全登山を祈願して頭を下げる。その先はいきなりの急坂。木の根っこをつかみ、必死に体を引き上げる。早くも修行だ。道が少し緩やかになると、「懺悔、懺悔、六根清浄(ざ~んげ、ざ~んげ、ろっこんしょうじょう)」と唱えながら歩く。「六根清浄」は「どっこいしょ」の語源ともいわれるとか。「最古の流行語大賞ですよね」と利洋さん。なるほど。疲れ始めたふみこの掛け声は、いつの間にか「どっこいしょ」に変わっていた。

足元は断崖、目の前には絶景

岩場を鉄鎖で登る修行中のふみこ。

文殊堂からの絶景を楽しむノリコと腰が引けているふみこ。

地蔵堂からの絶景を戸にへばりつきながらも堪能するふみことそれをからかうノリコ。

秋の紅葉もきれいなのだそう。(提供:木屋旅館)

ほぼ垂直の岩場を、鉄の鎖を頼りに登りきると、断崖絶壁に建つ文殊堂へ。お堂を囲む濡縁は幅わずか60cmほど。手すりのない縁を恐る恐る進むと、目の前には緑の山並みが幾重にも連なる絶景が広がっていた。晴れた日には遠く大山まで望めるという。とはいえ、足元は断崖。ノリコは縁に座って悠々と景色を楽しむが、母は怖くて腰が引けっぱなし。それでも、この風景は頑張ったご褒美だ。小さな達成感に、「もう少し頑張ろう」と元気が湧いてくる。大きな岩を越え、次は地蔵堂へ。濡縁は文殊堂より少し広い気がするが、やっぱり怖い。それでも自分の目で見たい。戸にへばりつきながら、三徳山の絶景を目に焼き付けた。かつて多くの修行者もここに立ち、同じ景色を眺めたのだろう。どんな思いで見つめていたのか。やっぱり、怖かったよね。

とうとう投入堂へ

足を滑らせてはならぬ。牛の背、馬の背を渡る。

胎内くぐり。今から生まれ変わる。

「牛の背」「馬の背」と呼ばれる細い尾根を、足を滑らせないようそろりと進む。「落ちるんなら右側ですよ」なんてジョークを笑う余裕はない。それでも、ここまで来たら前へ進むしかない。やがて岩壁の奥にぽっかり開いた薄暗い洞穴にある納経堂へ。洞窟を抜けることは、大地の子宮へ戻り、新しい自分として生まれ直す意味があるという。暗がりを抜けた先に、投入堂が姿を現した。断崖の窪みに建つ国宝は、生まれ変わった自分を迎えるように静かに佇んでいた。険しい修行を耐え抜いた僧たちの信仰心を感じる。それにくらべれば、私なんて煩悩の塊だ。それにしても、こんな断崖絶壁に、いつ、誰が木材を運び、お堂を建てたのか。大きなミステリーだ。神秘的で凛とした投入堂を眺めていると、役行者が法力で「投げ入れた」という伝説を信じたくなる。この谷間には「ふいご」が使われる前の古代製鉄の遺跡が眠るという。修行僧が鉄資源を調査し、大名に報告していたスパイだったという説も。これもまた、三徳山に残されたミステリーだ。

とうとう投入堂までやってきた。記念写真。

下山しながら、利洋さんが護摩行や火渡り、滝行など、三徳山の行事について教えてくれた。すっかりこの山に魅了された私たちは興味津々。なかでも、お盆の夜に行われる滝行は、荘厳で幻想的なのだという。いつか見てみたい。
最後に宝物館へ。平安時代後期に投入堂に安置されていた7体の仏像とご対面。本尊の蔵王権現立像は、鎌倉時代の仏師・快慶の父、泰慶の作だという。歴史好きにはたまらない。さらに、大正時代に建て替えられた投入堂の支柱に、「国宝にタッチ」と言いながら、触れてみる。三徳山の歴史を、少し身近に感じる瞬間だ。見逃してしまいそうな宝物館だけれど、ぜひ立ち寄ってみては。

三徳山の余韻を楽しむ、木屋旅館の夜

ミストサウナでラドンを吸収。30才若返ったはず。

旅館に戻ると、ミストサウナへ直行。その後は女湯でゆっくり湯に浸かり、修行の疲れを癒した。三徳山での修行・参拝を温泉で締めくくるのがお作法だという。この修行で生まれ変わったのか、それとも煩悩まみれの自分を再発見したのか。さて、どちらだろう。

夕食は鳥取の食材がたっぷり。なかでも味わい深かったのが、三徳山へ向かう途中に見た田んぼで、契約農家が育てる「三朝米」。最後は鳥取牛のすき焼きの汁でおじやにし、おひつは空っぽ。ノリコは「こんなにおいしいなら、太っても本望」と一言。

美人に描いていただきました。

食後は、向かいの直営喫茶「茶房 木木(きぎ)」へ。秀さんが描いてくれた似顔絵は、独特のタッチと日本絵具の彩色が素敵だ。絵を描きながら、アメリカのニュース専門テレビ局CNNのクルーやフランス大使も訪れ、ユーロ導入前のフラン紙幣を置いていったという話も聞かせてくれた。木屋旅館には、知る人ぞ知る魅力があるようだ。「自分が楽しまないと、お客さんも楽しめないでしょ」秀さんの言葉に、木屋旅館が人を惹きつける理由を見た気がした。

旅の終わりに

翌朝、思ったほど筋肉痛はひどくない。膝も腰も大丈夫だ。これも温泉の効能だろうか。
秀さんが車で倉吉駅まで送ってくれた。道中、秀さんが「渡り鳥は磁場に引き寄せられてやってくる」と教えてくれた。そういえば、この旅では燕が飛ぶ姿をよく見かけた。ノリコが「来年は三徳山の滝行に参加したいなあ」とぽつり。この土地の磁場に引き寄せられるのは、渡り鳥だけではないのかもしれない。

  • ふみこ(綴りびと)

    ふみこ(綴りびと)

    山口県出身。神奈川県在住。 平日は会社員。週末は全国通訳案内士(英語)。史子の名前のとおり歴史好き。交流が旅の醍醐味と、出会った方とおしゃべりを楽しむ。料理好きで、地元のお茶、塩、味噌はマストバイ。自宅で旅の余韻を楽しんでいます。

    ※旅色綴り(旧旅色LIKES)のコミュニティメンバーです。

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 旅色編集部

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