『夢千夜日記』に憧れて~余部鉄橋から湯村温泉へ【兵庫】
旅色LIKESライターのふみこは、永年勤続のリフレッシュ休暇をもらった。同級生のれーちゃんを旅行に誘うと「『夢千夜日記』の舞台に行ってみたい」と。1985年に放送されたNHKドラマ『夢千夜日記』は、主人公の夢千代が広島での胎内被爆という宿命を背負いながらも、ひたむきに生きる実話を元にしたストーリー。今年11月20日から再放送が決まった。当時人生一周目の高校生で吉永小百合の美しさに圧倒されていた私が、どこまでこのドラマを理解できていたのだろうか。舞台となった湯村温泉を目指し兵庫に向かった。
目次
『夢千代日記』とは
1985(昭和60)年にNHKで放送されたドラマで、舞台は山陰のひなびた温泉の芸者置屋。そこを営む吉永小百合演じる夢千代は、広島で胎内被爆し白血病で余命いくばくかであった。彼女を中心に、さまざまな人間模様が繰り広げられる。
余部鉄橋へ
憧れの余部鉄橋を前に感無量。
リサーチの結果、オープニングの物悲しいテーマ曲の時に出てくる冬の日本海の上に佇む赤い高架鉄橋は「余部(あまるべ)鉄橋」であることが判明。宿泊先である豊岡市の城崎温泉から、ドライブすること約40分。山と山の間にコンクリートの橋が見えてきた。その奥には日本海も見える。しかし「あれ、赤くない」、近づくと赤い鉄骨の一部が現れた。1912(明治45)年の建設から100年近くも地域を見守ってきた赤い鉄橋。1986(昭和61)年には、基準風速を超えた強風による列車転落事故があり、乗務員と鉄橋下の工場の従業員6人が亡くなる事故が起きてしまう。その後、2010(平成22)年に現在の橋に架け替えられたそう。昔使われていた駅側の3本の橋脚直下には、自由広場や芝生の広がる公園として整備されていた。
写真を撮る手が止まらない「空の駅」
鉄橋の一部は2013(平成25)年に展望施設「空の駅」になった。高さ約41メートルのところまで、全面ガラス張りのエレベーター「余部クリスタルタワー」を使う。日本海と周辺地域の風景を眼下に見ながら、約45秒で到着。カメラ好きとしては、思わずカメラを構えたくなる場所だ。居合わせた撮り鉄さんに電車の時刻と進行方向を伝授され、必死にシャッターを切る。電車はあっという間に通り過ぎてしまい、納得いく写真が撮れなかった。
◆余部クリスタルタワー
住所:兵庫県美方郡香美町香住区余部
営業時間:6:00~23:00
定休日:なし
料金:無料
その他:日没~21:30は毎日ライトアップ
ならばと、今度は駅が上から見えるフォトスポットの空の駅を目指し15分程度の山登り。登るにつれて日本海に面し山に囲まれた小さな集落が見えてくる。重い一眼レフカメラを抱えゼイゼイ言いながら頂上に到着すると、日本海の青と山の緑をバックにした鉄橋が見えるではないか。電車の時刻と進行方向を確認し、ベストショットの画角を探す。頭の中で「ハッピートレインは~」とNHK BS『中井精也の絶景!てつたび』のテーマソングが流れる。あれ、私、撮り鉄だったっけ……? さあ、オレンジ色の電車がやってきたぞ。必死でシャッターをきる。この一瞬を切り取る。日本海、山、集落、その上の鉄橋を走る電車。絶景だ。山陰の港町の日々の生活を100年以上も支えてきた鉄橋だからこそ心に響くのだろう。鉄道写真の楽しさも知ることができた。
ドラマの世界へ没入体験「夢千代館」
余部鉄橋から兵庫県屈指の温泉地・湯村温泉を目指し、海から山へ約20分のドライブ。夢千代館に到着すると、昭和20~30年代を再現したレトロ雰囲気のドラマのセットが出迎えてくれた。そうそう、こんな雰囲気だった。館内では、雪が舞う余部鉄橋を走る電車のオープニングシーンが放映されている。実際の風景を見てきた後だけに、物悲しさがぐっと胸に迫ってくる。ドラマの登場人物になったつもりで、セットに入り込んだ。昭和生まれの私が小さい頃はこんな風景に囲まれていた。実際に使用された黒電話などの小道具も、子どもの頃、手に取ったものばかり。なんだかとても懐かしい。この風景の中で、夢千代たちは自分の人生を必死に生きてきたんだ、とドラマの話なのにやたら感情移入してしまう。
2階に上がると、平和を想う部屋がある。夢千代が胎内被爆をした設定だからだろう。一緒に旅をしているれーちゃんは広島出身で子どもの頃から平和教育を受けている。私は被爆者が描いた、原爆の絵を見る機会を故郷・山口で得た。だからなのか、ふたりとも無言で展示を見る。そして、普通の生活を送れる平和な社会に生きていることに感謝する。年を重ねたせいだろうか。
◆夢千代館
住所:兵庫県美方郡新温泉町湯80
電話:0796-99-2300
営業時間:9:00~18:00
定休日:年中無休※臨時休業あり
料金:大人300円、小中学生150円
夢千代たちが暮らした息遣いを感じる「湯村温泉街」
さて、湯村温泉の温泉街を歩いてみよう。兵庫県北西部に位置し、豪雪地帯にも指定されている温泉地で、春来川(はるきがわ)を真ん中に街が広がっている。まずはドラマにも登場した荒湯へ。約98度の高温泉が毎分470リットルも湧き出る元湯だ。近づくだけで熱い。温泉の湯気の上がる冬の寒い日に、ここでたまごや野菜をゆでるシーンが印象的だった。近くの売店でたまごを買って、湯壺に投入。店員さんのおススメで、待つこと約10分。名物「荒湯たまご」こと固ゆでたまごの出来上がり。なんといっても約98度のお湯でゆでるので、キッチリ固い。荒湯横の川沿いの足湯に足をつけてみた。これはちょっと熱いぞ……。足を入れたり出したりしながら、塩化物・硫酸塩・炭酸水素塩泉の効能でお肌ツルツルを狙う。もう少し寒くなって湯煙に囲まれて足湯を楽しむのも風情あるかも。
川沿いの石垣の間から雑草がのぞいている。その上にレトロな雰囲気の家が立ち並ぶ街は、地元の人たちの生活の息遣いが聞こえるようだ。まずは川沿いに歩いてみる。川のせせらぎの音が心地よい。路地裏に入ると、レトロな街並みが残されている。昭和の看板が集められた塀。木枠のガラス戸が印象的な古民家カフェ。廃業した劇場の看板がのこる駐車場。華やかな観光地とは違う、心が落ち着く風景がここにはある。それは、飾らない普段着の温泉街を歩いているからに違いない。
◆湯村温泉
住所:兵庫県美方郡新温泉町湯
また夢千代に逢える
この空気感がたまらなく心地よい。photy byれーちゃん
街を歩いていると、登場人物達に街角で出会えそうな気がする。物悲しいけれど、でも優しい。そんなドラマの空気感そのままだった。
なにげなく見ていたテレビで『夢千代日記』再放送の番組宣伝が流れた。NHK BSで2024年11月20日から12月18日までの再放送。瞬時に、れーちゃんに連絡を入れた。「うぉー。絶対見る。」と速攻で返事が返ってきた。あれから長い年月が流れ、当時テレビに釘付けだった高校生はおばちゃんになった。今は人生の何周目だろう。ここまで来るのにいろいろな経験をしてきた。楽しいことも辛いことも。そんな今の私が夢千代日記をみたらどう感じるのだろう。懐かしいような、ドラマを通して今までの自分の人生の振り返るような気持でもある。












