金沢の女子旅をディープにする。ローカルガイドと巡る旅へ
週末は東京で通訳案内士をしている旅色LIKESライターのふみこ。今回も高校の同級生のれーちゃんと金沢旅。前日の夕方入りし、迎えた二日目は、有名観光地を巡れる時間が約半日だけの女子旅。観光スポットがコンパクトにまとまった金沢の街は、街歩きにぴったり。金沢ボランティア大学校・観光コースを修了しガイド登録されたローカルガイドさんとの出会いで、限られた時間のなかでも効率よく、王道スポットから地元ならではの魅力まで、そしてちょっとディープに。一味違う金沢旅を楽しんだ。
目次
加賀藩の祖、前田利家・まつ夫妻にごあいさつ
冬の晴れた朝8時、金沢市中心部・近江町市場近くのホテルを出発し、尾山神社へ向かう。昨晩通りかかった際、神社とは思えないほどカットガラスが夜景に色鮮やかに輝く門が目に留まり、「金沢らしくないな」と不思議に感じていた。
実はこの門は、明治8年建立の神門で、和・漢・洋の三様式を取り入れたもの。はめ込まれたカットガラスは「ギヤマン」と呼ばれている。鳥居とギヤマンの門をくぐり境内へ入ると、加賀藩初代藩主・前田利家公と正妻・まつが出迎えてくれる。徳川幕府は百万石の栄華を誇る加賀藩に警戒される存在だったので、神社が創建されたのは明治に入ってからなのだとか。なるほど、この門が作られた時代背景はここにあったのだ。加賀藩の礎を築いた二人に思いをはせながら、居城であった金沢城へと足を運んだ。
いざ金沢城へ
尾山神社の裏手から、幅約5メートル・長さ30メートルほどの大きな橋を渡って鼠多門(ねずみたもん)へ。橋の上からは金沢の街並みが見え、眼下には道路が走っている。実はこの道路、かつての水堀の跡なのだという。こんな大きな堀に囲まれていた金沢城は、どれほど立派な城だったのだろうか。侍になった気分で門をくぐると、目の前には藩主が楽しんだであろう玉泉院丸庭園が広がり、その奥には美しい石垣が続く。「綺麗なお城は石垣も綺麗よね」と思わず見入ってしまう。公式ルート「石垣巡り(石垣めぐり)」の案内板に石垣好き心を揺さぶられつつ、今回は時間がなく断念して二の丸広場へ向かう。ここもまた広々としていて、かつて藩主とその家族が暮らしていたという。移動だけでも大変だ。加賀百万石の栄華に思いを馳せながら歩く。
青空に石川門。桜が満開の時はピンクも加わりお城の美しさが極まると、ローカルガイドさん。
兼六園へ向かおうと石川門へ進むと、手前の石川門入口休憩所にローカルガイドの案内板を発見。通訳案内士をしている私としては、ぜひ地元の方のお話を聞いてみたい。案内は約50分で、金沢城か兼六園のどちらかを選べるとのこと。今回は弾丸旅なので30分ほどに短縮して兼六園のガイドをお願いした。ビブスを着たガイドさんとともに石川門を抜け、兼六園へ向かう。
ローカルガイドさんと兼六園へ
加賀藩が誇る大名庭園で、日本三名園のひとつ・兼六園へ足を踏み入れた瞬間、思わず立ち止まった。 「え、兼六園ってこんな高い場所にあるの?」 平地にあり、周囲を借景として楽しむのが日本庭園だと思い込んでいたのに、視界は大きく開け、金沢の街並みを見下ろせるではないか。イメージしていた庭園と違う。戸惑っていると、ガイドさんがすぐに「ここは平均標高が37メートルあって、一般的な借景庭園とは違い、城の外郭に造られた防御の役割もあったんですよ」 。疑問が一瞬でほどけていく。 「30分しかないので、どんどん行きますよ」。
兼六園といえば、やはり「唐崎松(からさきのまつ)の雪吊り」毎年11月1日に唐崎松から作業が始まり、その後、園内の松やツツジなど約800本へと広げていく、12月中旬ごろにすべての雪吊りが完成するという。冬でも色を失わない松の緑と、稲わらの薄茶色の縄が青空に映えて、なんとも美しい。 「毎年11月1日は、必ず見に来るんですよ」とガイドさん。金沢への深い愛情が伝わってくる。二本足灯籠と唐崎松が一緒に撮れるフォトスポット、霞ヶ池にかかる石橋を渡るときには、 「ここ、たくさんの人が通るからへこんでいるでしょ」 と、いたずらっぽい笑顔で教えてくれた。年間来園者数は200〜250万人。そのほとんどが通る橋なら、石だって摩耗する。だからこそ、いつでも交換できる“スペアの石”が準備されているという。そんな裏話を聞くと、ちょっと得をした気分になる。ほかに印象的だったのは、土地の高低差を利用した噴水。動力を使わずに水を噴き上げる仕組みをつくり上げた加賀藩の技術力には、ただただ感心するばかりだ。「次はひがし茶屋に行きたい。」と伝えると、ガイドさんは一番近い蓮池門口(れんちもんぐち)まで送ってくれた。 「ひがし茶屋休憩館にもローカルガイドがいるから、ぜひ寄ってみてね。」 交差点で友達のように手を振って別れた。
ローカルガイドさんと会話を楽しみながらひがし茶屋を歩く
江戸時代から続く伝統的な茶屋街、ひがし茶屋は金沢を代表する人気スポット。ここでの滞在も1時間ほどだ。多くの店が立ち並び、どこに入ればよいのか迷ってしまうが、ガイドさんのおすすめに従って街歩きができるので安心感が違う。「平日のお仕事は営業さんですか?」と私。「いえいえ、エンジニアですよ。しゃべれないストレスを解消しているんです。ははは」とガイドさん。そんなやりとりに、会話も弾んでいく。今もお座敷遊びができるお茶屋さんや、人気の金箔アイスクリームが食べられるスイーツ店はもちろん、地元の人々が大切にしている宇多須神社(うたすじんじゃ)や小径など、観光で訪れただけではなかなか気づけないディープな場所にも案内してもらい、大満足の街歩きとなった。
そこで、金沢に来てからずっと気になっていた、軒先に下げられているトウモロコシを乾燥させた飾りについて聞いてみた。「これは『門守(かどもり)』と呼ばれる、金沢に昔からある風習で、家や店の玄関や軒先に吊るす魔除けのお守りです」。ひがし茶屋街近くの長谷山観音院という寺で年に一度行られる「四万六千日(しまんろくせんにち)」縁日に祈祷されたトウモロコシを買い、1年間軒先に飾るのだそうだ。最後に案内してもらったディープスポットは、浅野川にかかる梅ノ橋。木造風のデザインで、金沢らしい風情が漂う橋だ。「サスペンス劇場で金沢で殺人事件が起こると、必ず出てくる橋ですよ。」という説明に思わず大笑い。河原を歩き、生活道路として使われている川土手の幅30センチメートルほど、高さ50センチメートルほどの階段を、転ばないように慎重に降りながら橋場交差点へ。別れを惜しみつつ、最後の目的地である近江町市場へと向かった。
近江市場で金沢のおいしいを味わう
歩くこと約10分で、金沢の台所・近江町市場に到着。冬が旬のカニが所狭しと並び、活気にあふれている。前の晩、金沢おでんに舌鼓を打ったばかりだが、ここでしか見かけない巻き貝「バイガイ」を見つけて思わず足を止めた。コリコリとした食感が特徴で、金沢おでんには欠かせない具材のひとつ。地域ならではの食文化に触れた気がした。そういえば、少し甘めの金沢おでんには大野醤油を使うとお店の人が話していた。思い出した瞬間、醤油を求めて売り場へダッシュ。さらに、日本海でとれた脂ののった「のどぐろの定食」をランチでいただいたところで、ついにタイムアップ。急いでタクシーに乗り込んだ。すると運転手さんが、「おでんものどぐろも普通に食べてますよ。どうして観光客がお店に並ぶのかわからないなあ」その言葉を聞いて、改めて実感した。金沢の味を、しっかり満喫した旅だった。
旅の終わりに
弾丸の金沢旅行ではあったけれど、偶然出会ったローカルガイドさんのおかげで、目に映る風景がまるで違って見えてきた。金沢に住む友人と、街に流れるストーリーを聞きながら街を歩いているような感覚だ。SNSやAIで調べて観光するだけでは、きっとこんなふうに心が満たされる旅にはならなかっただろう。金沢という街が大好きで、この街への愛情を自分の言葉で誰かに伝えたい。そんなガイドさんの思いが、旅人である私の心にまっすぐ届いた。金沢の街がぐっと身近に感じられ、もっとディープな金沢を知りたくなる。またゆっくり訪れたい。そう心から思わせてくれる、そんな素敵な旅になった。











