【山口市】瀧塔山 龍蔵寺~アメリカ人の目に映る日本の心とは
米国ロサンゼルスに住む友人のスティーブは、日本が大好き。ニューヨーク・タイムズ紙「2024年に行くべき52か所」に選ばれた山口市が私の故郷だと知らせると、5回目の日本旅行の目的地の選んでくれた。ここ数年は身の回りに変化が起こり、カオスの中にいたらしい。そんなスティーブと約1300年の歴史のある古刹、瀧塔山(ろうとうざん) 龍蔵寺へ。アメリカ人の目にはどう映ったのだろう。
目次
山岳修行のお寺に向かう
2024年8月号の『月刊旅色』でも紹介された瀧塔山 龍蔵寺。実家のある地域にあり、子どもの頃から事あるごとにお参りをしてきた。湯田温泉からは、タクシーで約10分。くねくねした山道を登った滝山の中腹にある。タクシーから降りると山からの空気がひんやりと冷たく、厳粛な気持ちになる。赤い帽子と前掛けのお地蔵様が見守る、苔むした石段を登って本堂に向かう。ここは真言宗御室派の寺院で、中国33観音霊場の第17番札所。境内には35メートルほどの高さがある「鼓(つづみ)の滝」といわれる自然の滝もあり、1300年前より山岳修行の場ともなってきた、山口市最古の名刹だ。
滝行で身を清める
初めて日本に来た時に行った高野山が印象的だった、とスティーブ。龍蔵寺は同じ宗派に属し、住職も高野山で修業したとのこと。荘厳な雰囲気に身がひきしまる、と本堂に向かう。本日の体験は滝行。寒い冬に滝行をしなくても……とも思ったが、スティーブは滝行で自分を取り巻くカオスを浄化したい、と決行することになった。滝行の行程の説明を受け、滝衣(たきごろも)に着替え、ご本尊の前に座る。住職が塗香(ずこう)とよばれる粉末状のお香を掌に一つまみのせてくれた。それを手に揉みこみ合掌すると、優しいにおいがふわっと広がり、気持ちが落ち着いてきた。唱えるのは「阿毘羅吽欠(あびらうんけん)」。真言密教のメインの仏さまである大日(だいにち)如来のご真言の一部。サンスクリット語で地、水、風、空を表し、ことの達成のための呪文だとか。何度も唱えているうちに、集中力が高まってきた。本堂を出て、滝に向かう。10メートルの大聖青不動明王様にもお祈りをして、滝に続く石段を登っていく。「鼓の滝」が現れた。
晴天、最高気温9度。冬にしては穏やかな日だが、寒いぞ。晴れの日が続いたので、滝の水は少なめ。滝の前でお祓いを済ませると、いよいよ滝行が始まる。まずは住職が滝に入る。目の前で初めてみる滝行に、真摯な気持ちになってきた。「あびらうんけん、あびらうんけん」の呪文と滝の音で荘厳な雰囲気が漂っている。いよいよスティーブの番だ。滝つぼの石に足元をとられながらも、一歩一歩滝に向かって歩いていく。そして、スティーブの滝行が始まった。何を祈っているんだろう。事前に「住職より長く滝に打たれようなどとは思わず、自分のペースでやってください」と言われたのに長いぞ。何かあったらどうするの。早く帰ってきて。と母親のような気持ちで見守った。
●滝行
料金:3,000円
所要時間:約1~2時間
滝行とはなんだろう
住職によれば、滝つぼのゴツゴツした石も人生の苦難そのもの。バランスを失いながらも歩いて滝に向かうのは、人生と同じだ。滝に打たれながら、自然の中に溶け込んでいく。そうやって日々の喧騒の中で失いかけた人間らしさを取り戻していくそう。人間は宇宙の一部との教えだ。住職の名前は大地(だいち)。息子の副住職は大空(たいくう)。お二人ですでに宇宙を形作っている。
濡れた滝衣を着替えてほっとしているスティーブに、滝行の感想を聞いてみた。「数千本の針に刺されているようだった」と第一声。滝に打たれているうちに、気持ちが落ち着いてきて、心が清められていくような気がしたとのこと。手に揉みこんだ塗香は滝行の間も香り続けて、リラックスできたとスティーブ。すると、住職がご自分が使われている塗香壺(ずこうこ)を特別に譲ってくださった。恐縮し、でも、大喜びのスティーブ。山口での大事な思い出。そして宝物にだとか。帰国後もポケットに入れて持ち歩き、香りをかいで心を落ち着けているそうだ。
精進料理を楽しむ
滝行で身を清めた後は、本堂で精進料理をいただいた。本堂の窓から、先ほど打たれた鼓の滝が綺麗に見える。すべての料理は住職の奥さん・ユウコさんの手作りで、仏教の戒律に基づき、肉や魚を使用していない。が、かなりのボリューム。3,300円のコース(3日前の予約が必要)で、季節のごはん、香の物、お吸い物、小鉢、お刺身(こんにゃく)、炊き合わせ、胡麻豆腐、ゆず味噌田楽、天ぷらが次々とでてきて、お腹いっぱいになった。どうやったら豆腐が鰻のかば焼きの味になるのかなど、ユウコさんとの会話も楽しい。人気の胡麻豆腐は境内の売店でも購入できる。スティーブはヘルシーでおいしいので、「ニューオリンズにいるママにも食べさせたいなあ。でも、高齢なので山のお寺を歩けるかなあ」とつぶやいていた。
滝行で身を清め、精進料理でお腹を満たした。日々の生活の中で溜まっていた心の中の垢を取り除いたようなすっきりとした気分で、龍蔵寺を後にした。
●精進料理(懐石膳)
料金:3,300~5,500円
※2~3日前までの電話・FAXの予約が必要
日本のこころを知った山口の旅
後日、スティーブから滝行が腹落ちしたのは、前の日に弓道を体験したからではないだろうか、とのメッセージをくれた。スティーブは黒澤明監督の『七人の侍』を繰り返してみるほど侍が大好き。ならばと、高校からの友人のヒラに弓道体験をお願いした。ヒラは遠的で大学生チャンピオンになり、現在、教士(武道における称号)六段のつわもの。同時に12名が弓を引ける広い道場で弓道レッスンをしてくれた。道場に入り礼をして、的前に進み弓を引く一連の流れを見せてもらった。洗練された無駄のない動きが美しい。スティーブが動画を撮ってロサンゼルスの友人に送ったところ「これはアートだ」と速攻で返信が来たとか。このイメージを持ってスティーブも挑戦すると、初めてとは思えない綺麗な射形。約2時間の体験で、二本も命中させた。「リラックスして集中する」弓道で得たこの感覚が、滝に打たれながらも自分に集中できた理由ではないかと。ヒラより「弓道は立禅といわれていて、つまり坐らずに立ったままでする坐禅のことです。なかなか私も無の境地までいけていませんが、欲を捨て、心を澄ますことを心がけています。 滝行も通じるところがあると思います」との返事。日本のこころを自然に受け入れてくれたスティーブ。また、山口に来てね。












