
2026/10/13
長野県松本市の浅間温泉に佇む「界 松本」が、リニューアル期間を終え8月に営業を再開しました。NAGANO WINEと料理のペアリングやコンサート、温泉を楽しみ、客室ではレコードに耳を傾ける。雨の朝に聴いたビートルズの「Here Comes the Sun」も心に残る、松本らしさに触れた一泊を綴ります。
界 松本
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2026年8月、「松本エレガンテに浸る湯宿」をコンセプトにリニューアルオープンした「界 松本」
松本駅からタクシーで約20分、松本ICから車で約30分。「松本の奥座敷」と呼ばれる浅間温泉は、開湯から1300年以上の歴史を持つ温泉地です。その一画に、音楽と長野ワインを滞在の大きなテーマに掲げる「界 松本」があります。
館内へ一歩足を踏み入れて、まず驚いたのがロビー。高さ約10mの吹き抜けの丸天井が頭上に広がり、その開放感にまず圧倒されました。夜にはここが、ご当地楽(※)「ソノリティコンサート」の舞台になります。ロビーには長野県で作られるギターや「松本渓声(けいせい)塗り」の作品を展示。トラベルライブラリーにはワインや信州に関する本、レコードなどが並びます。
※ご当地楽:全国に展開する「界」で、その地域ならではの伝統工芸や芸能、食などを楽しめるおもてなしのこと。
松本は、世界的な音楽祭「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」などに象徴される音楽文化を持ち、「楽都」とも呼ばれるまち。館内の廊下や案内表示などにも音楽や松本を感じさせるモチーフが散りばめられ、「音楽の街・松本」にいることを自然と意識させてくれます。
宿泊したのは、リニューアルで新設された「ジュニアスイート」。広々とした客室で目に留まったのがレコードプレーヤーです。部屋にもレコードがありますが、トラベルライブラリーから好きな一枚を借りることもできます。さらに今回の客室には露天風呂も。誰かの予定に合わせる必要のないひとり旅。ワインを飲むのも、レコードを聴くのも、湯に浸かるのも気の向くままです。
客室でくつろぐのは後のお楽しみにして、館内着に着替えて大浴場へ。「界 松本」では、内風呂や露天風呂、寝湯など「八種十三通り」の多彩なお風呂を楽しめます。なかでも珍しいのが、タイル張りの寝椅子「ラディアントバス」。内部を巡る温水の熱が、横になった体をじんわりと温めてくれます。高温のサウナが苦手な私にも心地よく感じられました。ほかにも、檜の香りに包まれるおがくず風呂など、それぞれ趣の異なるお風呂を巡っているうちに、つい時間を忘れてしまいます。
温泉のあとは夕食へ。イタリアンディナーと長野ワインのペアリングを楽しみます。
ここで感じたのは、「界 松本」が単に「地元のワインも飲める宿」ではないこと。日本酒やビール、外国産ワインまで幅広くそろえ、そのなかに長野ワインがあるのではありません。提供するお酒を長野県産ワインに絞った、まさに「長野ワインを楽しむ宿」なのです。その思い切った割り切りが、この宿の強い個性になっています。

レストラン入口には「長野ワインバレー」とペアリングで登場したワインのディスプレイ
現在、長野県には非常に多くのワイナリーがあり、県内には5つのワインバレーが形成されています。ワインに詳しくない私も、さまざまな長野ワインを味わううちに、「もっと長野ワインを知りたい」と興味が膨らみます。次は実際にワイナリーを訪ねてみたい。そんな新しい旅の楽しみまで見つかった夜でした。
夕食後は、ロビー2階「NAGANO WINE BAR」へ。ここでも長野ワインを楽しめますが、この夜は寝る前にもう一度温泉へ入りたい・・・と思っていた私は、地元・林農園のぶどうジュースを選びました。長野ワインを存分に味わえるワインバーまで来て、ぶどうジュース。もったいない気もしますが、お酒が得意でなくても、この大人の空間を楽しめるのはうれしいところ。館内着のまま利用できる気軽さも、温泉宿ならではです。
ソノリティコンサートは、ワインバーで選んだグラスを片手に、そのままロビーへ移動できます。私も、ワイン・・・ではなく、ぶどうジュースを手にロビーのソファーへ。演奏者のすぐ前の席は、楽器を奏でる指先まで見える距離です。演奏前には「文化の語り部」であるスタッフが、異なる木材を叩いたりギターを奏でたりしながら、木材による響き=「ソノリティ」の違いを解説。その後、ギター、サックス、ピアノによる演奏を楽しみました。音楽を「鑑賞する」というより、演奏者と同じ空間で音を体感しているような近さが印象に残りました。

ソノリティコンサートは、一晩に2回開催されます。ワインバーのスタッフから「聴く場所によって、音の聞こえ方が違う」と聞き、その違いを確かめたくて2回目も聴くことにしました。今度は、演奏者が直接見えない2階のソファーへ。演奏が始まると――確かに、違う。特にピアノの輪郭がはっきりし、3つの楽器のバランスまで違って聞こえます。丸天井の形? それとも2階という高さ?不思議に思って階下をのぞくと、グランドピアノの蓋が1回目より開いていました。
――そりゃ、違う。
座る場所による響き方に加え、今回は演奏側のセッティングも違っていたようです。
夜の締めくくりは再び温泉へ。夕食でワインを飲んでから時間を空け、長湯はせず、さっと湯浴み。その後はトラベルライブラリーで借りたレコードを部屋で聴きながら、ゆっくり夜を過ごしました。

雨の日の「青空体操」は館内で開催
翌朝はあいにくの雨。本来テラスで行う「青空体操」も、この日はワインバーのある2階で開催されました。朝の体をゆっくり目覚めさせる軽めの内容で、五十肩で片腕が上がりにくい私でも無理なくついていけました。

地元の食文化を取り入れた和朝食。糸寒天もしみ豆腐も、長野は一大産地。
青空体操のあとの朝食は、地元の食文化を取り入れた和食。糸寒天やしみ豆腐、里芋、大根、ニンジンなどが入った具だくさんのお味噌汁には、「界 松本」オリジナルの七味をひと振り。柑橘系の爽やかな香りが立ち、辛さ以上に香りを添える七味という印象です。自家製ヨーグルトも酸味が穏やかでまろやか。前夜のイタリアンとはがらりと変わり、郷土を感じて、ほっとするような朝ごはんでした。

トラベルライブラリーで見つけたビートルズの『Abbey Road』
朝食後は、再び大浴場へ。男女が前日と入れ替わり、昨日とは違う湯処を楽しめます。ここにも音楽が流れ、朝からお湯と音楽の両方に浸るひとときです。お風呂から上がっても、チェックアウトまではまだ少し時間があります。トラベルライブラリーに立ち寄り、ビートルズの『Abbey Road』を借りて部屋へ。このアルバムを最初から聴くのは本当に久しぶり。もしかすると、何十年ぶりかもしれません。レコードに針を落とし、しばらくすると『Here Comes the Sun』が流れてきました。

ふと窓の外を見ると、先ほどまで降っていた雨が上がっています。その偶然が、なんだかうれしい。
——今なら入れる!
朝は諦めていた客室の露天風呂へ。雨上がりの空を眺めながら、チェックアウトぎりぎりまで最後の湯浴みを楽しみました。

笑顔の素敵なスタッフの佐々木さん。言葉の端々から松本への愛着が伝わってきました。その姿もまた、この土地の魅力を物語っているようでした
滞在して感じたのは、音楽やワインといった松本・長野の魅力を、「界 松本」ならではの解釈で宿泊体験へと落とし込んでいる面白さです。音楽とワインを強く打ち出しながら、温泉旅館らしさもしっかり残っています。「温泉で癒やされたい。でも、ただのんびりするだけでは少し物足りない。滞在しながらその土地の文化に触れ、新しい魅力にも出会いたい」そんな好奇心あふれる私の心を満たしてくれる宿でした。実際、次は長野県内のワインバレーを巡ってみたいという、新たな旅の楽しみもできました。宿での一泊が「この土地をもっと知りたい」という気持ちにつながり、次の旅へ。そんな余韻を残してくれるのも、「界 松本」の魅力です。そして、雨上がりの空とともに聴いた『Here Comes the Sun』。次にこの曲を耳にしたとき、松本で過ごした雨の朝を思い出しそうです。
参考になりましたか? 旅行・おでかけの際に活用してみてください。
記事企画・監修: 旅色編集部
ライター:長月あき