魚嫌いだった笠原さんが作り上げた「ヒモノBar」が伝える、リゾナーレ熱海の“PLAY HARD” な物語

静岡県

2025.08.29

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魚嫌いだった笠原さんが作り上げた「ヒモノBar」が伝える、リゾナーレ熱海の“PLAY HARD” な物語

海と山に抱かれた温泉街・熱海の高台に建つホテル、リゾナーレ熱海。その最上階に白砂が敷き詰められ、海を望む「ソラノビーチ Books&Cafe」がある。ここで2023年から“大人のための新名物”として人気を集めているのが「ヒモノBar」だ。そのカウンターに並ぶのは、朝食のおかずとしての「干物」の概念を覆す華やかなヒモノアラカルト。主役は、熱海の新ブランド「熱海だいだいサクラマス」の干物5種を多様な調理法で仕立てた一皿と、地元蒸留所による柚子香るクラフトジンカクテル。
このプロジェクトのリーダーを託されたのが、大阪出身で魚嫌い、お酒も飲めない入社4年目の笠原さん。先輩の村上さんからバトンを受け取った笠原さんがいかに没入して人気企画に仕立てたのか、その背景ストーリーを追うと地域を本気で楽しめるリゾナーレの本質価値が見えてきた。

photo:村上未知

目次

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「本当に伝えたい地域の魅力」というバトン

“魚嫌い”だったからこそ周りの意見を聞きまくる!

熱海魚界のキーマン・宇田水産の宇田勝社長

魚伝の五代目は真鶴の“ムチャ振り”請負人

熱量の共鳴が生んだオリジナルカクテル「柚翠」

本気でおもしろがって地域に没入する“PLAY HARD”

エピローグ

「本当に伝えたい地域の魅力」というバトン

入社4年目でヒモノBarの開発責任者に抜擢された笠原万智さん

入社4年目でヒモノBarの開発責任者に抜擢された笠原万智さん

「熱海に配属になってから免許を取って車を買ったんですよ」と愛車を運転しながら話してくれた笠原さん。坂が多く、細い道が多いのに慣れたハンドルさばきで大阪人らしくよく話す。
「目の前に見える海岸、『海の花咲くリゾナーレ』っていう企画で100種の海藻集めるときに通ってたんです。楽しくて休日にも海にいって、友達に『こんな海藻見つけたら教えて!』 って写真を撮って送ってました」
軽く100種、と口に出す。彼女の先輩、村上さんの言葉を思い出した。
「ヒモノBarはテーマとの相性よりも、固定観念を持たずに楽しく取り組んでくれそうな笠原さんに任せたかったんです」

相模湾を見下ろす全室オーシャンビューのリゾナーレ熱海

相模湾を見下ろす全室オーシャンビューのリゾナーレ熱海

2019年から4年間続いた「3時のヒモノ」は、3時のおやつのように気軽にホテルのテラスで干物を味わって欲しいという企画で、小さい子ども連れが多いリゾナーレ熱海のゲストに受け入れられていた。
しかし、村上さんは「お子様には喜ばれましたが、もっと大人に干物の魅力を伝え、新鮮な驚きを生む形の企画にしたかったんです」と考えた。そこには“干物離れ”を解決したいという思いがあった。

地形に恵まれ、天然の良港として知られた熱海市の南東部・網代地区は、かつて“ひもの銀座”と呼ばれるほど盛況なエリアだった。しかし、魚離れが進んだ日本では干物の年間支出額も年々減少傾向にあり、総務省の家計調査によると、1世帯あたりの年間支出額は20年間で3割以上減少しているという。

ヒモノBarのリーダーに抜擢された笠原さんは、村上さんの「私たちが本当に伝えたい地域の魅力って何なのか、もう一歩深く考えてみて」というバトンを受け取り、おもしろがって周囲を巻き込みながら、メニューを考え始めた。

2019~2022の「3時のヒモノ」を担当したユニットディレクターの村上麗さん

2019~2022の「3時のヒモノ」を担当したユニットディレクターの村上麗さん

“魚嫌い”だったからこそ周りの意見を聞きまくる!

「大阪に住んでいたころは本当に魚を食べませんでした。食卓で出されても嫌がって。でも干物の企画を担当しているうちにおいしいと思えるようになったんです。だから、以前の私のような方がいかに干物を楽しめるかを考えました。

バリエーションを楽しんでもらいたいけど、コース料理じゃなくBar形式にしたのは、より多くの大人に干物の魅力を再発見していただく上質なイベントという軸を考えたときに、夕食後でも楽しめるようにっていう考えがあったからです」

昨年は熱海だいだいサクラマスを主役に、スモークの演出で話題を呼んだ。「これが干物!?」という狙い通りの反響ももらえた。しかし、笠原さんはお客様アンケートをもとに、さらに突き詰める。

企画書には、「ジャンクにはしない! 」「原価が上がってもこれは必要! 」など、大人の上質というコンセプトを叶えるための笠原さんのメモ書きが随所に見られた

企画書には、「ジャンクにはしない! 」「原価が上がってもこれは必要! 」など、大人の上質というコンセプトを叶えるための笠原さんのメモ書きが随所に見られた

「昨年もメディアの取材を受けたりして認知された感覚はありましたが、スモークしたメニューに対して『「もうちょっと手軽に食べられるものないですか』っていう声も多かったんです。2025年版のヒモノBarを考えるってなった時に小さなアラカルト料理をプレートにした企画を思いつき、企画書を作成して協力会社さんたちに相談にいきました」

熱海魚界のキーマン・宇田水産の宇田勝社長

リゾナーレのある高台から坂を下り、住宅街の細い路地を入った先にある、宇田水産の加工場。前掛けが似合う気さくなおじさんが出迎えてくれた。熱海で創業して80年を超える宇田水産の代表、宇田勝さんだ。熱海魚市場の復活に尽力し、熱海だいだいサクラマスの開発にも携わってきた宇田社長に写真撮影をお願いしたところ「みんな、一緒に撮ってもらおう! 」と作業中のスタッフに声をかける。これだけで面倒見のよさがみてとれた。地域に頼られて熱海のためにさまざまな開発をしてきた宇田さんだが、笠原さんの提案には驚いたという。

宇田水産の代表・宇田勝さん。熱海魚市場の社長も務める

宇田水産の代表・宇田勝さん。熱海魚市場の社長も務める

「私たちが大事に育ててきた“熱海だいだいサクラマス”は、地元でもまだ珍しい存在だと思っています。刺身で認知を広げようとしてたところ、干物にして新しいメニューを作るという提案をされたときは驚きました。でも、笠原さんと話しているうちに“普通じゃない食べ方”“若い世代へのアプローチ”こそ、熱海の新しい魅力発信になるんだって思えるようになりました」(宇田さん)

「干物は旨味がギュッと詰まっているのが特徴なんです。熱海だいだいサクラマスの旨味を存分に引き出せる調理方法として、去年はウッドチップと橙のピールを使って燻製にしてみました。よりおいしく感じられ演出としても効果的だったと思います」(笠原さん)

熱海だいだいサクラマスwith宇田水産のみなさん

熱海だいだいサクラマスwith宇田水産のみなさん

「年配客は干物といえば焼き魚一択という人が多いけど、今の若者はエスニック風も洋風も何でもチャレンジしてくれる。そういった新しい干物体験の入口を笠原さんたちが発信してくれるのは本当に嬉しい。今回も熱海だいだいサクラマスがどう生まれ変わるか楽しみ」

魚伝の五代目は真鶴の“ムチャ振り”請負人

宇田さんから入手した熱海だいだいサクラマスを使ったワンプレートメニュー実現のパートナーとして声をかけたのが、熱海の隣にある真鶴で120年続く魚屋「魚伝」の五代目・青木良磨さん。がっしりとした体躯に日焼けした肌が似合う、まさに海の男。日本三大舟祭りのひとつ「貴船祭り」の会長も務める漢になぜBarメニューの依頼を、と思った。しかし、話を聞き、調べるうちに実は青木さんも生魚が嫌いで、おもしろがって真鶴の新名物コロッケ「イカ爆弾」を開発するなど、笠原さんと同じ気質を感じられた。

笠原さんのムチャ振りを「楽しい!」 と語る青木さん

笠原さんのムチャ振りを「楽しい!」 と語る青木さん

「以前から村上さんと『3時のヒモノ』でご一緒していて、リゾナーレ熱海でウチの干物を食べたお客さんが店に来てくれたこともあります。それ以来、毎年くる“無茶ぶり”を内心楽しみにしていて(笑)。でも、今回のは普通の干物屋なら絶対やらない! 熱海だいだいサクラマスの干物で洋風エスカベッシュやリエットを作って欲しいって……。エスカベッシュって何?? って検索しましたよ」(青木さん)

「そもそも青木さんはマスを干物に使ってなかったのに、可能性を探ってください! って頼み込んだんですよね」(笠原さん)

「そう、ニジマスで試作は作ったことあったんだけど、あんまりおいしくなかった。だから、熱海だいだいサクラマスって大丈夫? と思っていたけど、笠原さんがこれは脂が乗っていておいしいっていうからやってみたら臭みもないしイケるなって」(青木さん)

「はじめは熱海だいだいサクラマスの干物を使って、おしゃれで新しい料理を作りたい! って抽象的な注文で(笑)」(笠原さん)

「おしゃれって広いし、、そもそも、干物がおしゃれじゃないでしょ(笑)。でも、熱心に提案されるので作っちゃうんですよ。さすがにスイーツはいろいろ試しても無理だったけど」(青木さん)

軽快なやり取りを聞いてると、ああ今回も良いモノができたんだなーと感じた。会話の内容は大変な試行錯誤について語っているのに、悲壮感がない。

青木さんは「アタラシイヒモノ」プロジェクトの立ち上げのほか、昨年には真鶴で定食屋「炉端焼き傳(でん)」をオープン

青木さんは「アタラシイヒモノ」プロジェクトの立ち上げのほか、昨年には真鶴で定食屋「炉端焼き傳(でん)」をオープン

ふと、楽しそうですね、と青木さんに聞いてみた。
「楽しいですよ! 本来こういう仕事は受けないんですが、笠原さんたちが干物文化を本気で考えてるっていう熱さが伝わるから、こっちも面白がって付き合ってます。そうやって毎回ムチャ振りをこなすうちに結果的に僕たちのスキルアップにもなってるんですよね」

熱量の共鳴が生んだオリジナルカクテル「柚翠」

海からほど近い起雲閣通りにある蒸留所併設のバー。代表の釜谷道夫さんは所作が美しく、話し方も丁寧、でも言葉のキレ味は鋭い。自身が手掛けるジンを体現したようなオーラが漂う。それもそのはず、銀座や青山、麻布のBarで活躍したのち、飲食店のコンサルを行っていたという。サーフィンを愛する釜谷さんが仕事で訪れた熱海を気に入り2024年「SEACLIFF 熱海蒸溜所」を開業した。笠原さんはその情報をリゾナーレの仲間から入手するや連絡を取り、地元の素材を生かしたクラフトジンをベースにしたカクテルを依頼したそう。

「リゾナーレ熱海は若い夫婦のお客様が多いイメージを持っていました。小さなお子様を遊ばせている“ステキなご夫婦”。そういった方たちが干物とカクテルのマリアージュ体験をとおして、熱海に来てよかったなって感じてもらえたら嬉しいと思い参画しました。ジンのおもしろいところは素材で地元の個性を表現できるところなので、橙を餌にしたマスの干物に合うお酒と聞いて、ゆずを使えばリンクするのではと思いつきました」

「Arnold Holstein」社製の希少な蒸留器の説明をする釜谷さん

「Arnold Holstein」社製の希少な蒸留器の説明をする釜谷さん

素材のリンクという考え方については、“ジビエの相性理論”ということばで笠原さんの企画メモにも書いてあった。今回の取材中、笠原さんのリサーチ力を何度も目の当たりにした。

「いつも楽しそうに企画の話をされるので、お酒が苦手だとは言われるまでわからなかったです」と釜谷さんがいうように、苦手なことも社内外に聞きまくって楽しくなるまで調べ上げるのが笠原流。それは干物に関してだけではない。熱海蒸留所がジンの売上の1%を藻場再生プロジェクトに寄付しているという話を聞いた笠原さん、すかさず「以前『海の花咲くリゾナーレ』という企画をやってたときに調べました。磯焼けで海藻が育たないんですよね。私もヒモノBarをとおして少しでも藻場再生に関われると思うと嬉しいです」

「ゆずとお茶を合わせてアルコール度数が抑えられているので飲みやすい」。柚翠のテイスティングも様になっている

「ゆずとお茶を合わせてアルコール度数が抑えられているので飲みやすい」。柚翠のテイスティングも様になっている

カクテルの名前は、釜谷さんが命名してくれた「柚翠(ゆすい)」。ゆずと緑茶とジンから発想して若い夫婦にも親しみやすいネーミングにしたという。今回のコラボレーションのためにエアーインフュージョンという特殊技術でゆずの香りを足したオリジナルジンを用意した釜谷さん。まだ自身のお店自体オープンして間がないのに、企画への没入度合いが強い。実は衛生面を考慮して採用されなかったが、リゾナーレ熱海の「森の空中基地 くすくす」に自生している葉をガーニッシュとして添えようという話も盛り上がって、実際に2人で試したらしい。ここでもまた、笠原さんの熱量に地域のキーパーソンが共鳴する現象が生じていた。

本気でおもしろがって地域に没入する“PLAY HARD”

「もともといろんなものに興味があったんですけど、企画を担当するようになってからすごく調べるようになりました」と屈託なく笑う笠原さんを見ていて、リゾナーレのブランドコンセプト“PLAY HARD”に思い至った。ゲストが思い切り遊ぶなかで想像を超える体験をしてもらうという理解をしていたが、キャスト側の笠原さんが地域におもしろがって没入し、キーパーソンを巻き込みながら新しい物語に編集しなおしていることも“PLAY HARD”ではないのか。この言葉に「本気で取り組む」という意味があることも示唆的だった。

この先に「ヒモノBar」が待ち受けている

この先に「ヒモノBar」が待ち受けている

「ヒモノBar」は、ただ目新しい料理・お酒を“映えるから”並べているのではなく、それぞれのメニューに宇田さん、青木さん、釜谷さんたちの物語がある。ゲストは笠原さんが編んだその背景ストーリーを食事や会話を楽しみながら自覚的に、あるいは無自覚に取り込み、旅が終わったあとも熱海という土地の余韻を楽しめる。

「ヒモノBar」の舞台となるリゾナーレ熱海最上階の白砂が敷き詰められた「ソラノビーチ Books&Cafe」にて。笠原さん(左)と村上さん

「ヒモノBar」の舞台となるリゾナーレ熱海最上階の白砂が敷き詰められた「ソラノビーチ Books&Cafe」にて。笠原さん(左)と村上さん

干物を単なる“朝食のおかず”から“リゾナーレ体験”へと変えた仕掛け人の村上さんは、笠原さんの成長をこう語ります。
「最初は干物に興味を持ってくれるかな? と心配していました。でも、社内や協力会社の方々と話すうちに彼女自身が、自分の中に眠っていた食文化の原体験を再発見する場にしていました。仕事とプライベートの垣根を超えて、没入していったんです。自分で考えたこだわりを反映させているからこそ楽しんでヒモノBarを進化させることができたと思います。私も楽しそうに企画を作っている先輩を見て、ああなりたい! と取り組んできたので、本気でおもしろがる系譜がリゾナーレ熱海には紡がれているんだと感じています」

笠原さんは今日もこの坂を愛車で登ってくる

笠原さんは今日もこの坂を愛車で登ってくる

地域のスタープレイヤーたちをその気にさせる熱量。その熱量で地域の魅力を編集するプロデューサーが笠原さんなのだと、今回の取材を通じて気が付いた。
リゾナーレの語源はイタリア語で「共鳴する、響き合う」。
人と人の共鳴から生まれたリゾナーレのイベントの数々は、その背景を知ると土地の本質的な魅力が分かるのかもしれない。固定観念にとらわれず、PLAY HARDに体験してみたいと思った。

エピローグ

取材のあと笠原さんに、魚を食べるようになってご家族は喜んでるでしょうと聞いてみた。
「大阪のお父さんが単身赴任で神奈川に来ているんですよ。先日、車で『魚伝』に連れて行って干物を買ってあげたら、それ以来ひとりで通っていて。『いま魚伝にいるで!』 って写真送ってくるんです(笑)」


●ヒモノ Bar
期間:2025年9月1日~11月30日
料金:入場無料(ヒモノプレート2,000円、ドリンク 900 円~)
時間:19:00~23:00(LO22:30)※21:00以降は12歳以上の宿泊者限定
場所:ソラノビーチ Books&Cafe
席数:約40席
対象:宿泊者

◆リゾナーレ熱海
住所:静岡県熱海市水口町2-13-1
TEL:050-3134-8093(リゾナーレ予約センター)
アクセス:東名高速道路厚木 I.C.より車で約70分、JR 東海道線 熱海駅から送迎バスで約20分

「ヒモノBar」のイベント詳細はこちら
「リゾナーレ熱海」公式HPはこちら

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