［タベサキ Vol.1］
中江有里さんと巡る

伝統野菜から京都の“食”を知る旅

京都府

2018.08.30

タベサキ

雅やかな京料理を支える伝統野菜。生産量が少なく他県に多く出回らないこの野菜を通して京都の食文化に触れる旅へ。大阪出身で京都の錦市場にも何度も足を運んでいる中江有里さんと出かけましょう。

Text：Souta Sanga、Yuki Omura（OFFICE-SANGA）

その土地ならではの旬の食材から
季節の訪れを知る

「ここも伝統野菜の畑なんですか？」大阪のご出身で幼い頃は京都へ遠足に来ていたという、女優で文筆家の中江有里さん。そう、趣深い町並みだけでなく、住宅街や路地のところどころで急に出合う畑も、京都の一つの風景です。中江さんは京都を舞台にしたドラマに出演したり、趣味の寺社仏閣巡りでたびたび京都を訪ねているそうで、京都の食文化にも馴染み深いそう。「独特の文化がありますよね」と話します。
　その独特の食文化に大きく影響しているのが野菜です。千年以上も昔、京都は日本の首都でした。皇室や貴族が大勢住んでおり、全国からあらゆる野菜が献上されました。四方を山々に囲まれ、その養分を南北に流れる桂川と鴨川が運んだことで肥沃な土壌に恵まれているこの地は、野菜づくりに適しており、やがてこれらの野菜が根付いていきました。それゆえ種類が豊富で、それを使った多彩な料理が生まれたのです。
　たとえば、朝廷や公家が楽しんだという御所ゆかりの「有職料理」。高級な食材を求められていたものの、中心の京都市は内陸の盆地であったため、昔の輸送技術では新鮮な海産物を市内に運ぶことは難しく、食の中心となった野菜。そのためにさまざまな改良が加えられました。ほかにも、肉や魚介類を使わず野菜と穀物を主とした「精進料理」、茶の湯の席で出される簡単な料理の「懐石料理」、おばんざいなどの「町方料理」など、京都を象徴する4つの料理の流れはいずれも野菜を大切にしています。伝統野菜とそれを生かした人々の知恵が京の食文化を作り上げたともいえます。そんな伝統野菜を軸に、京都を旅してみましょう。

京都市内で農園を営む玉田さんの畑へ。賀茂なすなどの京野菜が収穫を待っています

太陽と水、自然の恵みを受けた
伝統野菜の畑へ

夏の日差しが鴨川の水面を照らしながらも、どこか涼しげな風情の漂う京都の上賀茂地区。上賀茂・下鴨神社が鎮座し、京の街を間近に見守るこの地は、山に面しながらも鴨川沿いには青々とした畑が点在しています。京都市内から車で約30分。玉田農園オーナーの玉田芳弘さんも、そうした畑で「京の伝統野菜」を作る一人。畑を訪ねた中江さんは賀茂なすの立派さに驚きの様子。真っ黒に日焼けしながらも優しい笑顔の玉田さんは、寒い日も暑い日も、夜明けから日没まで野菜と過ごしているのだとか。そんな愛情の詰まった野菜を、農家自らが軽トラックで販売する昔ながらのスタイル「振り売り」で販売しています。「こんな新鮮なお野菜を毎日買えるなんて羨ましい」と中江さん。

DATA

玉田農園

錦市場の「錦　京野菜　川政」にて。まるまるとした賀茂なすをお土産に買う方も

市民の台所で
旬の食材に触れる

碁盤の目のように路地が行き交う京都で、中京区の中央に位置する「錦市場」。約1300年の歴史を持つ京都の台所には、1日中地元の買い物客が集まってきます。プライベートで錦市場に何度も訪ねているという中江さんも「市民の方の生活と直結していて、いろんな食材で四季を感じられます」と話します。錦市場で約80年の歴史がある老舗の「錦・京料理・川政」は、一般の方だけでなく、レストランや料亭、旅館と幅広い客層に新鮮な野菜や果物を毎日提供しているプロフェッショナル。野菜に愛着を持った作り手がいて、それを流通させる売り手がいるからこそ、今でも美味しい京野菜が食べられます。

DATA

錦　京料理　川政

住所
京都府京都市中京区富小路通錦小路下ル大文字町597-1
TEL
075-221-3773
営業時間
8:00～17:00
休日
水曜日

賀茂なすを温度の違う油で揚げたカツ。「食感と味わいの違いを楽しんでください」とシェフの清水さん

目と舌で京都の“季節”を味わう

どのようにして京野菜が作られ、人々の元へと運ばれるのかがわかったら、味見だってしたくなるというもの。そこで、京野菜を美味しく料理するならここしかない！　という玉田農園の玉田オーナーお墨付きの「西洋酒樓六堀」へ。そこは「京の伝統野菜」といえば懐石料理というイメージを払拭するかのような洋食屋さん。シェフの清水正さんは、賀茂なすを2種類のカツとグラタンへとアレンジ。2種類のカツは温度の違う油で揚げてあり、高温のものは香りを、低温のものは甘みを活かしてありました。一方、グラタンは旬のハモが加えられたもの。ベシャメルとデミグラスのダブルソースがうま味を引き立てます。「コクのある2種類のソースを賀茂なすを見事に調和していますね」と中江さんも大満足。炎天下のなかの取材の疲れもどこへやら、素敵な笑顔でペロリと平らげてしまいました。

DATA

西洋酒樓　六堀

住所
京都市下京区堀川通六条下る元日町5
TEL
075-354-8117
営業時間
11:30～22:30、昼：11:30～14:00（L.O.）、夜：18:00～20:30（L.O.）
休日
水曜日、第2・第4木曜日
座席
72席
平均予算
京都駅からタクシーでワンメーター
駐車場
9台

語りたくなる高知県

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出雲・松江の味わい旅

房総半島を食べつくそう

割烹竹きし

京都府祇園・東山・清水寺

ダシの効いた釜めしが人気の祇園の割烹
ごはん処　田辺宗

京都府北白川・一乗寺・出町柳

明治創業の漬物と味噌の老舗が営む食事処
京料理割烹　三榮

京都府京都駅・梅小路・丹波口

季節ごとの旬な味覚が味わえる京割烹

vol.1「撮りたくなるお肉」

目次を見る

美しいっておいしい心ときめくフォトジェ肉
速水もこみちさんインタビュー
中江有里さんと巡る伝統野菜から京都の“食”を知る旅
もし村上春樹が食べ歩きをしたら西麻布せせり雲丹のせ

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