不明
2025/05/14
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瀬戸内国際芸術祭(通称:瀬戸芸)は、岡山県と香川県に跨る瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代アートの祭典です。3年に1度開催され、今回で6回目を迎えます。春会期(4月18日~5月25日)、夏会期(8月1日~8月31日)、秋会期(10月3日~11月9日)の3シーズンにわかれており、期間中、国内外から約100万人もの観光客が訪れます。 開催される島や会場は、過去最大の17エリアととにかく広範囲! 今回は、陸続きでアクセスできる「瀬戸大橋エリア」と「高松港エリア」を紹介します。「瀬戸大橋エリア」は、新たに瀬居島(せこじま)を加え、春会期のみの公開となるので必見です。
国内外からの表玄関として、芸術祭の案内所の役割を果たす高松港。 「高松港プロジェクト」の一環として、開催に先駆けて「そらあみ」合体式が行われました。
高松港のランドマークとしておなじみの大巻伸嗣氏の「liminal air-core-」(2010年設置)。奥に揺れているのが「そらあみ」。
「そらあみ」は、アーティスト・五十嵐靖晃(やすあき)氏と島の人達による漁網を使ったアートです。女木島(おぎじま)、男木島(おぎじま)、豊島(てしま)、小豆島(しょうどしま)の地域住民や観光客約250名と共に漁網を編み、出来上がった約32メートル×約4メートルの巨大な網を空へと掲げます。
5つの色は、瀬戸内海の海の色を表現しているそう。「瀬戸内海の島や人に出会うための、のれんのような役割果たしてくれれば」という五十嵐氏の思いが込められています。夏会期に向けて別エリアの地域住民と制作を続け、さらに大きな「そらあみ」になる予定です。
トレーラーハウスのような展示会場。この中に作品が展示されている。
高松港内を歩いていると、青いトレーラーハウスのような建物が目に留まります。こちらが国連の難民支援機関(UNHCR)との共催したプロジェクトの会場。この中に、ホンマタカシ氏が撮影した難民のポートレートや、インタビューが展示されています。
ホンマタカシ氏は、「普段難民問題のことを考える機会があまりない日本の人たちに、少しでも関心を持ってもらえたら。どちらかと言えば会場より、タブロイド版の方に注目して欲しい。個々のストーリーはこちらにすべて掲載されているので、会場を見て終わりではなく、移動のときなどにこれを見て考えていただきたい」と話されていました。
高松駅から車で25分ほどで、屋島に到着します。屋島は、塩田開発や干拓事業によって、陸続きになった島。屋島山上に2022年に建設された交流拠点施設「やしまーる」は人気観光地のひとつ。
こちらでは、9名の作家が動物をモチーフとした作品を展開しています。建物自体が個性的なので、ユニークな動物アートものびのびして楽しそうに見えました。
施設内には、瀬戸芸のオフィシャルグッズのコーナーもあります。瀬戸芸の広報担当の方も「今回グッズにはかなり力が入っていますよ! 」と太鼓判。ずらりと並んだグッズはどれも可愛い! 大人買いしたくなっちゃいます。
高松港周辺には、過去作が多数残っています。残っている作品の選定理由は、作品の素材や、作家の意向、地域の人達の要望などが関係しているそう。今やすっかり街に溶け込む過去作も、是非チェックしてみてください。
プロジェクト名は、1990年代のトレンディドラマの主題歌の歌詞、「余計な物など無いよね~♪ 」からきているそう。
瀬戸大橋エリアは、瀬居島、沙耶島、坂出市からなるエリア。今回初めて会場となった瀬居島は、香川県坂出市の北部にある島です。島といっても埋め立てにより、現在は陸続きになっています。 瀬居島の旧瀬居幼稚園、旧瀬居小学校、旧瀬居中学校、島全体を舞台に、アーティスト中﨑透氏の監修のもと、16人の作家が多種多様なインスタレーション※1 を展開しています。
※1 場所や空間全体を作品として表現するアート
「物置部屋? 」と思ってしまう空間もありますが、唯一無二のエピソードと、身近にある物が融合するとアートになるという表現の幅広さを感じます。
旧瀬居小学校に入ってすぐに出迎えてくれるのは、狩野哲郎氏の作品です。鳥の視点を取り入れたインスタレーションを展開しており、鳥がとまりやすいように張りめぐらせた木材には、日用品や自然物が置かれています。天気がいい日は校舎の窓を開けて、鳥が自由に出入りようにしているそう。狩野氏の作品は、校舎の中にも展示されています。
小瀬村真美氏には直接お話を伺いました。理科室には、小瀬村氏が撮影した写真が展示されています。「大正時代からの歴史ある小学校に残されている資料や実験器具などは、それだけですでに静物画のようでした。島もコンパクトですし、理科室もコンパクトですし、それまでの歴史も含めてキュッとひとつの写真に縮図のように収められればなぁと思い制作しました」と語る小瀬村氏の新写真シリーズは、まるで元からそこにあったかのように古い理科室に馴染んでいます。
私が一番惹かれたのは、ステンレスの手洗い場に花の写真が配置されたインスタレーション。一見静物画に見えますが、これも写真です。ステンレスという冷たく無機質な素材と、生命力にあふれ、鮮やかでやわらかなフォルムの花の写真の対比が美しく、神聖で静謐な雰囲気に引き込まれてしまいました。
太陽光エネルギーにより扇風機(右手前)が動くことで、糸の先のドラムスティック(左奥)が動くようになっている。
旧瀬居中学校では、福田惠氏と山本晶氏にお話をうかがうことができました。 福田氏の作品「一日は、朝陽と共に始まり、夕陽と共に終わる」は、太陽光によって日用不要品で作られた様々な装置が動く仕組みになっています。太陽エネルギーをダイレクトに反映するので、朝になると稼働し、太陽が沈むと動かなくなるそう。古代の人間の生活様式ともリンクする作品になっています。
作品の説明をする福田惠氏。
「日常的に私たちが使っている電気やエネルギーが、どこから作られているのか。コンセントの向こう側を可視化したいという想いで制作しました。エネルギーには限界値があることを生かしたかった」と言います。
作品の説明をする山本晶氏。グレーの壁にかかっているのが山本晶氏の作品。
次にお話を伺ったのは瀬戸内の海や山、島をモチーフにした絵画を制作した山本晶氏です。岩﨑由実氏との二人展形式をとっており、展示空間もプロデュースしたそう。「防波堤があり、海に浮かぶ島々を行ったり来たりするように、私と岩崎さんの作品を行ったり来たりする感覚が現れればなぁと。出来上がってみると、区切られていながらも一体感があり、想像した以上に不思議な空間になりました」と話されていました。
白い壁に飾られているのが岩﨑由実氏の作品。
瀬居島中学校には、お話をうかがった作家さん以外の作品も多数展示されています。残念ながら私は時間内にすべての作品を鑑賞することはできませんでしたが、是非お気に入りの作品を探してみてください。
今回は、「高松港エリア」「瀬戸大橋エリア」に絞ってご紹介しました。このエリアは陸続きのため、船が苦手という方や、悪天候で船が欠航した時にも楽しめるエリアです。直島、小豆島、豊島などはどうしても人気が集中し、オーバーツーリズムになりがち。人混みを避けるなら、春会期のみ公開の「瀬戸大橋エリア」はおすすめですよ。
瀬戸内国際芸術祭2025