2025/05/19
瀬戸内国際芸術祭(略称・瀬戸芸)は、岡山県と香川県に跨る瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代アートの祭典です。3年に1度開催され、今回で6回目を迎えます。春会期(4月18日~5月25日)・夏会期(8月1日~8月31日)・秋会期(10月3日~11月9日)の3シーズンにわかれており、期間中、国内外から約100万人もの観光客が訪れます。 開催される島や会場は、過去最大の17エリアととにかく広範囲! 今回は、小豆島(しょうどしま)、豊島(てしま)、宇野港エリアの3会場を紹介します。
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小豆島は、瀬戸内海では淡路島についで2番目に大きな島で、古くから海上交通の要所として栄えてきました。名産品に、塩、醤油、そうめん、オリーブなどがあります。
元JA倉庫を、1棟まるまる利用したアートを展開している豊福亮氏。一歩足を踏み入れると、そこは東南アジアの王宮か、はたまたインディジョーンズの映画のセットか、と見紛うばかりの黄金の世界が広がります。水が張られた室内では、驚くことに船に乗ることも可能。もはやアートというより、立派なアトラクションです。
豊福氏は、「島の伝承や伝説を自分なりに解釈して作りました。ゲームに出てくるダンジョンのような異空間を楽しんでもらえれば」と話されていました。倉庫の入口には、「豊福亮・黄金フィギュア」のガチャガチャも。没入感が半端ないアート作品でした。
築120年の水車小屋の中に、農具や民具、そうめん箱などを使って、音が出る装置を作り、音楽を奏でるというインスタレーション※1を展開している岡淳氏。この水車小屋には、かつて岡氏の曽祖父が暮らしていたそう。
※1 場所や空間全体を作品として表現するアート
岡氏は「この家でかつて営まれていた生業(なりわい)の記憶を、音で再現出来たら」と語ります。装置が動き出すと、チャカポコといった素朴な打楽器音が小屋の中に響き、愉快なリズムに参加者からも笑みがこぼれていました。
公開前から何かと話題になっていたワン氏の作品。山の中にマスクメロンのようなユニークな外観が見えてくると、思わず歓声があがります。約4,000本の竹を使用し、台湾の竹職人や地元の人達と一緒に作りあげたそう。
巨大な鳥の巣のようにも見える。
長く続く竹のトンネルを抜けると、高さ約15メートル、直径約13~15メートルのドーム状の空間が現れます。不規則な形の床は、小豆島の形になっているのだとか。座ろうが、腰かけようが、寝転ぼうが、寛ぎ方は自由です。裸足になってみると竹のひんやりした感覚が心地よく、寝転がると鳥のさえずりが聞こえ、作品に抱擁されているような気持ちになります。
ワン氏は「タイトル《抱擁》は、人の温度やつながりを感じる行為。こうやってお互い知らない人同士が隣に座ることで、新しい縁をつないで欲しい」と話していました。
通訳と談笑するワン氏。
小豆島の自然と一体となるようなワン氏の作品は、夜間ライトアップもされるそう。夜の姿も楽しみです。
バナーは、前回インドネシアのアーティストが作成したもの。福田地区の野菜や、瀬戸内の海をモチーフに思い出を描いている。
アジア各地のアーティストのハブになってきた「福武ギャラリー」が、名称を「瀬戸内アジアギャラリー」に変更し作品を展示しています。ギャラリーの中には、カフェやショップが併設され、ワークショップも開催される予定だとか。バラエティに富む展示作品を一挙に紹介します。
イ・ビョンチャン「CREATURE 2025」。プラスチックを素材に、動く生命体を表現。空気が入り、膨らんだりしぼんだりする様子は、まるで呼吸しているかのよう。
舟の中で生活できるように作られた家船。70年代までは活躍していたそう。
かつて瀬戸内海で使われていた家船(えぶね)と呼ばれる木造船に、癌細胞やウイルスなどの形状を彫り込んだ木戸龍介氏の作品。ウイルスは、既存の機能や構造を破壊する一方で、隙間から光や風を循環させ、新たな命を吹き込みます。
作業の様子をデモンストレーションしてみせる木戸氏。
彫刻には、歯科技工士が使う道具を使用しているそう。木戸さんは、「これが一番丈夫なんですよ。他の工具だとすぐ壊れちゃうけど、これは何年ももつ優れもの」と笑います。 夜間ライトアップもされ、幻想的な夜の家船も必見です。
真っ暗な倉庫の中に、光ファイバーで作られた船が浮かぶ幻想的な作品。船の中に寝転ぶことも可能ということで、乗せていただきました。
波に揺られているかのように、微妙に揺れる船底。
波が満ち引きする音を聴きながら船底に寝転んでいると、空中に浮遊しているような気分になります。作品タイトル「うみのうつわ」は、「海の器」と「生みの器」のダブルミーニングになっているそう。言われて見ると、海の中のようでもあり、胎内のようでもあり、宇宙空間のようでもあります。不思議な感覚を体験してみてください。
1975年以降、産業廃棄物の不法投棄場所となっていた豊島。「ゴミの島」と呼ばれ、住民は50年近く環境再生を訴える運動を続けてきました。今ではアートの島として、直島や小豆島に続く、人気の島となっています。
空き家を利用し、「火」「水」「風」を表現したの3つのインスタレーションを展開。3部屋を合わせて鑑賞することで、メッセージ性と強い意志を感じる空間になっています。
2010年の瀬戸芸で、古民家を改修してつくられた飲食店「島キッチン」。島の恵みや豊かさを象徴するアート作品として、今も運営を続けています。大きくカーブする屋根が印象的。毎月「島のお誕生会」が開催され、子供からお年寄り、観光客も一緒に楽しむのだそう。
空き家の中に、古い素麵の製麺機3台を設置し、赤い糸で編みこんだ塩田千春氏のダイナミックな作品。血の色を彷彿とさせるような赤の色の鮮烈さに圧倒されます。 使った赤い糸は、37キロメートルにもおよぶそう。壮大な塩田氏のインスタレーションは必見です。
2010年の瀬戸芸で設置された青木野枝氏の屋外作品。鉄の輪が貯水タンクを囲むように設置されています。作品のすぐ横には「唐櫃の清水(からとのしみず)」が湧き出ており、水の音とリンクさせて楽しむことができます。
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宇野港は岡山県の南端に位置し、塩づくりが盛んだった場所。本州と四国を結ぶ連絡港として重要な役割を果たしています。
元銭湯だった場所を利用し、天井から滴る水の音などを集め、プログラミングによって新たなサウンドを生み出す音のインスタレーション。タイトルの「潮返」は、中国語で「湿気る」という意味なのだそう。作家の出身地である広東省は湿気が強く、旧「港湯」に親近感を持ったと言います。音をプログラミングしてアートにする、という発想の自由さに驚かされます。
塩づくりが盛んだった歴史と、日本の神話をモチーフに、サンドアート集団SILTが作る塩アートです。絵の直径は約4メートル、使用した塩は60キロ以上になるそう。秋にはすべてを終結したライブパフォーマンスやワークショップも行われる予定です。
夜になるとどういう見え方をするのかも気になる。
空間に開いた黒い穴から、様々なものが出入りするシリーズを手掛けている金氏鉄平氏の作品。宇野港の風景を借景とした作品は、本当に空間から何かが飛び出ているように見えます。
天体望遠鏡のような、人工衛星のような巨大な金属のインスタレーションは、光や空間、時間の移動を通して、別の場所を往来する経験を表現しているそう。難しいコンセプトですが、宇宙っぽい感じがかっこいい作品です。
海側に回り込んで見ると、鏡のように磨かれた部分に、夕暮れの景色が映り込み、とても綺麗でした。
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エステル・ストッカー「JR宇野みなと線アートプロジェクト」
今回は小豆島、豊島、宇野耕エリアの新作アートを中心に紹介しました。宇野港周辺には過去の瀬戸芸作品も多数残っているので、あわせてご鑑賞ください
初めて瀬戸芸に参加しましたが、瀬戸内の美しい自然と、人々の生活や営みの中に、個性的な現代アートが融けこんでいるのがとても印象的でした。関わっている方々の熱量も高く、長く愛される芸術祭である理由がわかる気がしました。瀬戸内の自然、食べ物、アート、人との交流、いろいろと楽しめる瀬戸内国際美術祭へ是非足を運んでみてくださいね。
参考になりましたか? 旅行・おでかけの際に活用してみてください。
記事企画・監修:レポーター 旅色LIKESメンバー
ライター:
瀬戸内国際芸術祭2025