派手なショーはいらない。赤坂の隠れ家で“物語”を食べる、6席だけの鉄板焼き劇場

派手なショーはいらない。赤坂の隠れ家で“物語”を食べる、6席だけの鉄板焼き劇場

更新日:2026/01/29

東京・赤坂にひっそりと佇む、カウンター6席のみの鉄板焼き専門店「ヒレ」。 カウンター越しに広がるのは、炎と香り、そして料理人の物語です。素材、器、空間、さらには語られる人生の断片までもが一皿に昇華される——そんな特別な体験を味わってきました。
今回は全12品、12,100円のコースを約2時間かけてゆっくりと堪能。 この日はカップルが二組いらっしゃいましたが、普段は20〜30代を中心に、女性のおひとり様も多いのだとか。復興支援の思いを込め、福島県産の食材や福島牛を積極的に使っているというエピソードも印象的でした。

  • 赤坂鉄板焼 ヒレ

    東京都|港区

    独創的でイノベーティブな鉄板焼きを堪能

    東京メトロ赤坂駅から徒歩約2分に位置する、「ホテルヒラリーズ赤坂」の1階に佇む鉄板焼きの店。料理人が鉄板で牛肉を調理して、カウンター越しに提供するという、オーセンティックな鉄板焼きのスタイルに加えて、フランス料理をベースにイタリア料理や日本料理、中国料理などのエッセンスを散りばめた、全11皿のイノベーティブなフュージョン料理を提供。大切な人をもてなす席やデート、記念日などにおすすめ。30余年のキャリアを持つ、金谷馨シェフのフランベパフォーマンスに酔いしれる、特別なひとときが堪能できる。

    住所:東京都港区赤坂3丁目12-5 ホテルヒラリーズ1F

    営業時間:17:00~23:00

    定休日:日曜日

■静けさから始まる、6席だけの“小さな劇場”

赤坂の夜に溶け込む、隠れ家鉄板焼きのドア

音と香りを間近に感じる、対面式カウンター

今夜の“小さな劇場”の幕開けは、グラスを合わせる音から

一枚鉄板と6席だけの“小さな劇場”

赤坂の路地裏、ホテルヒラリーズの一角で、さりげなく佇むお洒落なドアを発見。そっと扉を開けると、その先にあるのはカウンターが6席だけの、こぢんまりとした空間でした。
席に腰掛けると、視界いっぱいに広がるのは一枚の鉄板と、穏やかな表情のシェフ。YouTubeで見るような、コテをカンカン鳴らす派手なパフォーマンスは一切ありません。 余計な音を削いだ分だけ、食材が焼けるかすかな音や、立ちのぼる香りが、まっすぐにこちらへ届いてきます
ここは、にぎやかな“見せるショー”ではなく、静けさごと味わうための小さな劇場。この6席に腰掛けた人だけが体験できる夜が、ゆっくりと幕を開けていきます。

■一皿目から“主役級”。静岡茶そばとユッケが告げる開演

トリュフ香るユッケと茶そばの新鮮なマリアージュ

コースの説明をひと通り終えると、そのままシェフが目の前の鉄板で手を動かし始めます。 「鉄板は、目の前で焼いて、会話をしながら見てもらってこそ」とのことで、レイアウトはあえてカウンターのみ。さらに「一皿一皿がメインになれるような構成」にしているのだそうです。
ファーストプレートは、静岡県産の茶そばと愛媛県産の牛肉を使ったユッケの一皿。茶そばの上に、みかんの皮を食べて育った牛のユッケをのせ、トリュフの香りをまとわせたソースで和えています。柿やベルローズ(食用花)が添えられていて、見た目も華やか。
このユッケのために誂えたという器は、京都の陶芸家・小川さんに頼んで作ってもらったという京焼の皿。淡い色合いとマットな質感が、上品なユッケの表情を引き立てていました。 「そば×ユッケ」の組み合わせは初体験でしたが、口当たりは驚くほど軽やかで、するすると食べ進めてしまうおいしさ。一皿目から、「このコースは最後まで外さないだろうな」と確信させてくれる、余韻の長い幕開けでした。

■鉄板の上でほどける、海と大地の香り

2種類のソースで表情を変える、海と大地の贅沢な皿

続いて登場したのは、店主が現地まで足を運び、滋賀県の職人に特注したという器の一皿。この器は鉄板の上に直接置ける仕様で、料理を「鉄板の温かさのまま」味わえるようになっています。
キャベツはエチュベ(蒸し煮)にして甘みを引き出し、その上には殻をすべて外した「天使の海老」や北海道産の魚介が重なります。仕上げにかけるのは、イタリア産ポルチーニを贅沢に使ったクリームソースと、スイートチリを効かせたトマトソースの2種類。
「まずは別々に、最後はソースを混ぜて食べてみてくださいね」 シェフにすすめられるままに試してみると、ポルチーニの香りとトマトの甘辛さが重なり合い、想像以上に奥行きのある味わいに。まるで皿の上で“コースのクライマックス”をもう一度迎えたかのような満足感がありました。 「最初から最後まで、どこで終わっても“今日来てよかった”と思ってほしくて」と、シェフは笑います。

■皿の上に描かれる四季。山形牛のロールステーキ

桜色のソースが描く、皿の上の“春”

山形牛ヒレと福島野菜を巻いたロールステーキ

この日のメインは、山形牛のヒレを使ったロールステーキ。福島県産のほうれん草や野菜を巻き込み、鉄板の上でじっくりと火を入れていきます。
仕上げにまとわせるのは、柚子の果汁を効かせたソースと、桜色の大根。皿の縁には、桜の枝を思わせるソースのライン。 「1月から春先までは桜、その前は紅葉、クリスマスの時期はツリーにしたりしてるんです」 シェフはそう語りながら、季節ごとにモチーフを変え、皿の上に“物語”を描いてきたそうです。

器は丹波焼。登り窯で焼かれたというその器は、土の成分や窯の気圧の違いによって、同じものがひとつとしてない表情に仕上がるのだとか。マットで素朴な“地表”のような質感に、艶やかな桜のソースが映えて、思わず写真を撮りたくなる一枚でした。

■「派手さ」より「静けさ」を選んだ、シェフの鉄板焼き人生

生産者とゲストをつなぐ、カウンター越しの案内人

カウンター越しに聞くシェフの経歴は、鉄板焼きの歴史そのもののようでした。 もともとはホテルのフレンチ出身。戦後の新しい食文化として広まった鉄板焼きを、東京でいち早く導入したホテルで修業を積み、25歳で鉄板焼きカウンターのトップに。指名制の店で“焼き手指名No.1”となりながらも、「天狗になっていた自分の鼻をへし折るため」に、あえて町場の店にアルバイトとして飛び込み、給料も立場も一度手放したといいます
コンサルタントとして複数のブランドをゼロから作り、Googleの評価2.1の店を4.1まで押し上げ、行列店に変えてきた経験も。それでも最終的にたどり着いたのは、「6席のカウンターだけ」の店でした。

「鉄板で焼いて裏から出す店も、鉄板焼きと言えば鉄板焼きなんですけど…やっぱり、目の前で焼いて、話して、その人のために火を入れたいなと思って。数字だけを追うんじゃなくて、“顔が見える距離”でちゃんと向き合える店をやりたかったんです」

そう話す横顔は、派手なテレビ出演歴よりも、目の前の一皿とゲストにすべてを注いでいるように見えました。

■鉄板から立ちのぼる、香りの“伏線回収”

立ち昇る蒸気と金谷シェフ

黒烏龍茶と鰹だしの香りで仕上げるシメのご飯

コースの終盤に登場したのは、黒烏龍茶と鰹だしを合わせたスープで仕上げる、鉄板仕立てのご飯もの。 甘エビや具材を合わせたご飯を、鉄板の上でじんわりと蒸らしていきます。
沸騰させず、香りだけを優しく立ちのぼらせることで、ご飯に出汁のうまみと香りを移していくのだとか。 コースの序盤から何度も出てきた「香りを楽しんでほしい」という言葉が、この一皿で“伏線回収”されたような感覚。最後のひと口まで、きちんと物語として構成されていることに、思わず唸ってしまいました。

■器と産地に宿る“もうひとつの物語”

料理とともに楽しみたい、器の表情

一皿ごとに器も変わる、“もうひとつの物語”

印象的だったのは、料理だけでなく「器」と「産地」へのこだわりです。 京都や滋賀、丹波の作家を訪ねて選んだ器の数々。そして、復興支援の思いを込めて選ばれた福島を中心とした食材
「こっちから“これダメ、あれダメ”って言い過ぎると、作り手さんもつらいじゃないですか。信頼してお任せして、その時の状態をどう生かすかが、僕らの仕事だと思ってます」 そう語るシェフの言葉には、生産者への深いリスペクトが滲んでいました。

■まとめ:記念日も“自分へのご褒美”にも。誕生日を彩るカウンター体験

静かなカウンターに、ささやかな“ハッピーバースデー”の時間

この日、同じカウンターには、誕生日祝いと思われるカップルが二組。コースの終盤には、バルーンアートや特製デザートプレートで祝福するシーンもあり、静かな店内に、さりげない拍手と笑い声が広がっていました。
派手な炎のショーや、にぎやかなパフォーマンスとは少し距離を置き、「静けさ」と「香り」と「物語」で魅せる鉄板焼き「ヒレ」。6席だけのカウンターで、シェフの人生とこだわりが詰まったコースを味わう時間は、まさに“小さな劇場”で過ごす一夜のようでした。
記念日やデートはもちろん、「今日はちょっと良いものを食べたい」という日に、自分のペースでゆっくり味わえる大人の一軒として、また訪れたいと思います。

  • 赤坂鉄板焼 ヒレ

    東京都|港区

    独創的でイノベーティブな鉄板焼きを堪能

    東京メトロ赤坂駅から徒歩約2分に位置する、「ホテルヒラリーズ赤坂」の1階に佇む鉄板焼きの店。料理人が鉄板で牛肉を調理して、カウンター越しに提供するという、オーセンティックな鉄板焼きのスタイルに加えて、フランス料理をベースにイタリア料理や日本料理、中国料理などのエッセンスを散りばめた、全11皿のイノベーティブなフュージョン料理を提供。大切な人をもてなす席やデート、記念日などにおすすめ。30余年のキャリアを持つ、金谷馨シェフのフランベパフォーマンスに酔いしれる、特別なひとときが堪能できる。

    住所:東京都港区赤坂3丁目12-5 ホテルヒラリーズ1F

    営業時間:17:00~23:00

    定休日:日曜日

旅色編集部 なかしま

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記事企画・監修:旅色編集部 なかしま

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