
2026/03/19
徳川家康公が晩年を過ごした「静岡市」。世界遺産の富士山を望む絶景はもちろん、実は南アルプスの豊かな水が育む「美食の宝庫」であることをご存じでしょうか?
今回は、水揚げ量日本一を誇る冷凍マグロから、家康公が愛した「わさび」、伝統の「在来種そば」まで、静岡市の魅力を五感で味わう1泊2日の観光モデルコースをご紹介します。
歴史の重みと清らかな水が生み出す、静岡の旬の味覚。心と体を満たす、大人の開運グルメ旅へ出かけましょう。
この記事の目次
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旅の始まりは、世界文化遺産の構成資産である三保松原。松林の先に広がる駿河湾の深い青、そして背後にそびえる富士山。その景色は、歌川広重をはじめ多くの芸術家を魅了してきました。
訪れたのは2月の穏やかな日。澄んだ空気の中、やわらかな表情の富士山が印象的でした。
羽衣伝説の舞台としても知られ、天女が羽衣を掛けたと伝わる「羽衣の松」も必見です。
「嘘をつくのは人間だけ。天に嘘はない」
伝説に残るこの言葉に、思わず心を打たれました。
松並木の「神の道」を歩き、御穂(みほ)神社へ。神馬の像や華やかな御朱印も印象的で、静かながら力強い気に満ちているのを感じます 。
創建は古く、平安時代の書物にもその名が記される由緒ある神社です。
境内には「神馬(しんめ)」と呼ばれる神様のお使いの馬の像があり、凛とした佇まいが印象的。今年が午年ということもあり、特別なご縁を感じさせてくれます。
御朱印やお守りは色鮮やかで愛らしく、手にするだけで気持ちが明るくなるような気がします。静かながらも、内側から力が湧いてくるような、すがすがしい 空気に満ちた場所でした。
御穂神社
ランチは静岡が誇る海の幸を堪能できる清水港へ。「河岸の市(かしのいち)」は、地元の仲卸業者が直接販売を行う市場で、鮮度と価格の安さは折り紙付きです。
実は、冷凍マグロの水揚げ量日本一を誇る静岡市清水区。国土交通省の港湾統計などを見ても、清水港の取扱量は圧倒的で、日本で消費されるマグロの約半分がここ(清水港)を経由しているといわれるほど。まさに日本の食卓を支える「マグロの聖地」なんです。
やってきたのは、まぐろ館にある人気店「ととすけ」。ここの名物は、マグロのカマを揚げて特製の甘辛ダレに絡めた「ととすけ揚げ」です。
「両手にビニール手袋をして、かぶりついてください」との案内書きがありましたが、私は上品ぶって(笑)手で身をほぐしていただきました。すると驚くことに、骨からホロホロと身が外れるのです。
口に入れると、揚げた身のやわらかさと、スパイシーなコショウが効いた甘辛ダレが絶妙にマッチ。脂っこさはまったくなく、ペロリと完食してしまいました。これは記事を書いている今でも思い出して食べたくなる、忘れられない味です。
もちろん、定食についてくるお刺身も絶品です。ミナミマグロ、バチマグロ、ビンチョウマグロなど、その日おすすめの3種盛りなどをいただけます。私は脂が強すぎるマグロは少し苦手なのですが、ここのマグロは程よい脂乗りで、さらに赤身の旨味がしっかりと感じられました。市場ならではの活気ある雰囲気の中で食べる海鮮丼は、旅の満足度を一気に高めてくれます。
ととすけ揚げ
続いて向かったのはオクシズエリア(奥静岡エリアのことで、静岡市の8割を占める山間部のこと)にある築250年の古民家を改築した施設「宿 にしむら」。縁側でいただいた、焼いた里芋とわさび。目の前に広がる山の景色と相まって、とても幸せな気分に。天井の梁(はり)や建物そのものから江戸時代の職人の手仕事が伝わり、ほっこりとした時間を過ごすことができます。デイユースや宿泊では、わさびの収穫体験も可能です。
お腹が満たされたら、少し足を延ばして山間部へ。知る人ぞ知るスポット、「有東木(うとうぎ)」地区を目指します。 わさびといえば伊豆をイメージする方が多いかもしれませんが、実はわさび栽培発祥の地は、この静岡市の有東木だといわれています 。

わさび田
標高約600mの山間部にある有東木。周囲の山々の源流に近く、標高差があることで水が急勾配で流れ込むため、清らかな水が豊富な場所です。さらに寒暖差のある気候も相まって、わさび栽培には最適な地とされています。
実際にわさび田を訪れると、石が丁寧に積み上げられた独特の景観が広がっています。
これは「畳石式(たたみいししき)」と呼ばれる栽培方法で、石の隙間を水が流れ落ちることで水に酸素が溶け込み 、わさびの根に不可欠な酸素が十分行き渡るのだとか。さらに石や砂が天然のフィルターとなり、不純物をろ過する仕組みにもなっているそうです。

畳石式について語る白鳥さん
わさび農家の白鳥正文さんに教わりながら、私も収穫体験に挑戦! クワを使って手前に引くように収穫する様子を見よう見まねでやってみましたが、思った以上に根がしっかり張っていて力がいります。(写真はモデルさんです)。
冷たく澄んだ水に触れながら収穫したわさび。鮮やかな緑が輝いて見えました。
ここで興味深い歴史の話を聞きました。その昔、駿府に隠居していた徳川家康公に、有東木の庄屋がわさびを献上したそうです。家康公はその香りと辛味を絶賛しましたが、わさびの葉が徳川家の家紋「葵(あおい)」に似ていたことや、あまりの美味しさに他国へ広まるのを恐れ、門外不出の「御法度品」にしたと伝えられています。そんな歴史ロマンを感じながらいただく採れたてのわさびは、辛さの中に爽やかな甘みがあり、まさに「絶品」でした。

採れたてのわさび
夕食は、「手打ち蕎麦たがた」へ。 店主の田形治(たがたおさむ)さんは、「静岡ベストシェフアワード2025」でグランプリを受賞された実力者です。
そんな静岡が誇る職人が打つ「そば」を口にした瞬間、衝撃を受けました。
私が最も驚いたのは、打ち立ての生のおそばの食感と香り。静岡市は南アルプスからの伏流水に恵まれており、水が枯れない土地。新幹線から見る安倍川はいつも水が少ないと思っていましたが、
あれは地下にたっぷりとお水が隠されていたのだと実感します。
手打ち蕎麦たがた・外観
田形さんが打った生のおそばをさらに口に含むと、そばの芳醇な香りが鼻に抜け、もちっとした食感が堪能できます。そのあとのコースでは、水だけでいただく「水そば」に更に感動。そば本来の繊細な味をより噛みしめることができる「通」の味わいです。
「十割そばは水溶性で消化が良いので、胃もたれしませんよ」と教えていただきましたが、本当にもちっとしていて喉越しが良く、いくらでも食べられそうでした。
また、お茶の葉を入れた氷水にそばを浸して食べる「氷ダシ」も初体験。お茶とそばは原産地が同じで相性が良いそうですが、静岡ならではの贅沢なコラボレーションに脱帽しました。
田形さんは、在来種そばを守り育てる活動にも尽力されています。 井川地区で行われている伝統的な「焼畑農法」は、まさにSDGs(持続可能な開発目標) のお手本のような農法。単に作物を育てるだけでなく、山を再生し、その栄養分が川を通じて海へ流れ、豊かな漁場を作るという循環を生み出しています。
「森を育てることが、海を豊かにすることに繋がる」 そんな壮大なストーリーを一皿のそばから感じることができる。これこそが、静岡市が提唱するガストロノミーツーリズムのコンセプト「JIMI(滋味)」 の真髄そのものです。
ディナーのあとは、大人の社交場へ。 静岡駅からほど近い場所にある「浮月楼(ふげつろう)」は、明治24年創業の老舗料亭であり、かつて徳川慶喜公が約20年間住まわれた屋敷跡です。

浮月楼・ライトアップ
門をくぐると、そこは別世界。 広大な敷地には見事な日本庭園が広がり、夜はライトアップされて幻想的な雰囲気を醸し出しています。地元では「けいきさま」と呼ばれる慶喜公も愛でたであろう景色を眺めながら、バーでお酒をいただく時間は至福のひと時です。
私はここで、静岡産のお茶を使ったジンをいただきました。さわやかな 香りが庭園の空気と混ざり合い、旅の夜を美しく彩ってくれます。
2日目の朝は、地元で「おせんげんさん」と親しまれる静岡浅間神社へ 。ここは、天下人への一歩を踏み出した家康公が元服式を行った場所です 。境内にある7つの社すべてを巡る「七社参り」は、満願成就のご利益があるといわれています 。
・神部神社:宝を授ける福の神
・浅間神社:良縁安産子授けの神
・大歳御祖神社:殖産興業守る神
・少彦名神社:技芸上達知恵の神
・麓山神社:人のしあわせを招く神
・八千戈神社:人の運勢を開く神
・玉鉾神社:試験合格を祈る神

楼門
現在、静岡浅間神社では「平成・令和の大改修」が行われています。 重要文化財に指定されている26棟のうち総漆塗りの社殿23棟を、約20年かけて修復するという国家プロジェクト並みの規模の改修。
漆塗りには高度な技術が必要で時間も要することから、完成は2038年頃とのこと。
まるで、スペインのバルセロナにあるアントニ・ガウディ設計の未完の聖堂「サグラダ・ファミリア」のように、今しか見られない修復の過程を目撃できるのも貴重な体験です。
静岡浅間神社は、徳川家康公が元服式(成人式)を行ったとされる神社としても知られています。境内社の八千戈神社は、家康公の守り神を祀った神社として有名です。天下人への第一歩を踏み出したこの場所は、新しいことを始めたい人や、人生の節目を迎える人にとって最強のパワースポットといえるでしょう。この日は久しぶりの大雨。前日、わさび農家の白鳥さんが、「雨が降ってくれないと……」と言っていたのを思い出し、「家康公がめぐみの雨を降らせてくれたのでは?」と思いました。
参拝後は気に満ちた境内に囲まれてすがすがしい気持ちになり、私も新たな活力をいただきました。
まだまだ静岡の魅力は続きます。
次にやってきたのは丸子地区。伝統工芸と新しいカルチャーが融合するエリアです。
「駿府の工房 匠宿(たくみしゅく)」では、駿河竹千筋細工やお茶染めなど静岡の伝統工芸を体験できます。
敷地内にはラガー専門の地ビール醸造所「静岡醸造」があり、クラフトビールを楽しむことができます。パーティー好きでビール好きというオーナー・福山康大(こうだい)さんの思いが込められた、「コールドIPA」と「ハニーピルス」をいただきました。
<ビール> ・ハニーピルス ・コールドIPA <ボトル> ・ハニーボック ・静岡クラシック
そして訪れたのは一松園。丸子と言えばとろろ汁が有名です。東海道五十三次にも描かれた東海道三代名物(桑名の焼きハマグリ、新居のうなぎ、丸子のとろろ汁)のひとつです。
とろろ汁は消化が良く、旅人が駿府城へ向かう前のエネルギー源として重宝されていたそうです。丸子はフォッサマグナの境目付近に位置し、赤土が豊富で質の良い自然薯が採れることから、とろろ汁が広まったと言われています。
あまりの美味しさに、ついご飯を三杯も……。お腹も心も大満足です。
用宗漁港の潮風を感じながら乾杯。
そして今、静岡市で熱い注目を集めているのが用宗(もちむね)エリア。かつてのマグロの加工場などをリノベーションしたおしゃれなスポットが増えています。
私が訪れた「The Villa & Barrel Lounge」と「West Coast Brewing(WCB)」は、用宗漁港のすぐそばにあるブルワリーと、 “ブルワリーに泊まれる”をコンセプトとした直営ホテル。 アメリカ西海岸を思わせる開放的な雰囲気の中で、出来たてのビールを楽しむことができます。
「The Villa & Barrel Lounge」外観
驚いたのは「The Villa & Barrel Lounge」の客室には専用のビールサーバーが設置されており、なんと、宿泊者は出来たてのビールを10Lまで自由に楽しめるとのこと! 近隣の温泉施設で体を温めた後、プライベート空間で“ホップな一杯”を味わう……。 これこそ、大人のための究極の「自分へのご褒美」ではないでしょうか。
静岡市は海と山が近く、両方の恵みを一身に受ける土地です。南アルプスの豊かな水と長い日照時間により、この地に美味しい作物を育みます。
山の栄養を蓄えた水が海へと流れ、豊かな漁場を作る。こうした山と海が一体となって育む豊かな生命力の中に、家康公が晩年を過ごす地としてここを選んだ理由があるのかもしれません 。
ここには、人が健やかに、そして心豊かに生きるための「命のサイクル」が息づいています。それは単なる観光地という枠を超え、訪れるだけで心身が整い、明日への活力が湧いてくる、まさに運気を拓く「開運の聖地」だと感じました 。
訪れた人の心と体を満たす静岡市、今、もっともおすすめしたい場所です。
参考になりましたか? 旅行・おでかけの際に活用してみてください。
記事企画・監修:旅色編集部 こうの
ライター:こうの