職人に聞いた、江戸前寿司の魅力|楽しみ方と東京のおすすめ店を紹介

職人に聞いた、江戸前寿司の魅力|楽しみ方と東京のおすすめ店を紹介

更新日:2025/11/05

江戸の粋を今に受け継ぐ“江戸前寿司”。ひと口で広がる旨味の背景には、職人の手仕事と時間の積み重ねがあります。今回は、「鮨 赤坂 和寿」と笹塚の「鮨 なかにし」の職人に、江戸前寿司の基本や楽しみ方を伺いました。さらに、東京で本格的な江戸前寿司を味わえる6店もあわせてご紹介。伝統と工夫が息づく寿司屋で、一貫の奥深さを体感してみてください。

鮨 赤坂 和寿 × 鮨 なかにし インタビュー

東京の寿司職人に学ぶ、江戸前寿司の奥深さと楽しみ方

江戸前寿司の代表・コハダ

江戸前寿司と聞くと、どこか敷居が高いイメージを持つ人も多いのでは。そこで今回は、赤坂「鮨 和寿」と笹塚「鮨 なかにし」で腕をふるう職人に、江戸前寿司の成り立ちや楽しみ方を伺いました。寿司の基本やちょっとした心得を知れば、一貫の味わいはもっと深まるはず。観光や食事で訪れる際に役立つ、江戸前寿司の魅力をご紹介します。

鮨 赤坂 和寿|“引き算の美学”で味わう江戸前の魅力

「鮨 赤坂 和寿」の店主・國島さん

埼玉県熊谷市出身の店主・國島さんは、商業高校を卒業後、寿司職人の道へ。小学生の頃に抱いた夢を胸に、行田市の寿司店で基礎を学び、20歳で上京しました。その後、東京の寿司店を8軒渡り歩き、多彩な現場で技術を吸収。名店の看板に頼らず、自らの舌で「本当に美味しい」と感じた店で修業を重ね、市場で魚を仕入れながら目利きを習得。徹底した自己研鑽を積み重ねてきました。約30年にわたる歩みは、現在の「鮨 赤坂 和寿」のたしかな技と矜持につながっています。

鮨 なかにし|銀座修業と海外経験で磨いた、“仕事”に宿る江戸前

中西さん

大阪の調理専門学校で和食を学んだのち、銀座の寿司店で約10年、先輩の店で約6年修業を重ねられた店主・中西さん。独立を見据え、さらなる経験を求めて海外へ渡り、福岡の寿司店がプロデュースする上海の店で板長を務められました。地理的・言語的なハードルが多い環境の中でも、日本の味を守り抜かれたそうです。流行の洋食よりも、四季折々の素材に向き合える寿司に魅力を感じたのが原点。積み重ねた経験と探求心が、「鮨 なかにし」の一貫一貫に息づいています。

──ふたりに聞いた、江戸前寿司とは?

鮨 赤坂 和寿|素材の声を聞き、旨味を引き出す職人仕事

江戸前寿司の歩みと“引き算の美学”を語る

江戸前寿司の始まりは、東京湾で獲れた魚を使った屋台寿司。時代とともに流通が整い、熟成や寝かせといった技術が磨かれていきました。ところが今では「江戸前」を名乗りながら、本来の技術や素材にこだわらない店も少なくないといいます。「江戸前の本質は“引き算の美学”なんです」。味を足すのではなく、素材そのものの旨味を引き出すことが大事」と國島さん。米についても「本来はササニシキで握るべき」と語り、寿司の原点を改めて問い直していました。

鮨 なかにし|産地ではなく“仕事”にこそ宿る、江戸前の本質

“仕事”について語る中西さん

中西さんは「手先が不器用で要領も悪かった」と笑って振り返ります。けれど、時間をかけて築いた基礎こそが”いまの土台”なのだと。修行時代を「大変」とは感じず、日々の積み重ねを淡々と続けてきたことが、現在につながっているそうです。
寿司づくりで大切にしているのは、魚の産地よりも“仕事”の丁寧さ。「塩や酢で水分を抜き、寝かせて旨味を引き出す。足し算ではなく“引き算”の妙を重んじています」と語り、「うちの寿司は9割9分、何かしらの仕事(仕込み)をしています」と力を込めます。引き算こそ江戸前寿司の美学という認識は、國島さんと同様の見解ですね。
理想は、ネタとシャリが口の中で同時にほどける一体感。そのために空気を含ませて軽やかに握り、赤酢と塩だけで仕立てたシャリが“仕事”をした魚と調和します。妥協を排し、素材と真っすぐに向き合う。その凛とした姿勢が、「鮨 なかにし」の一貫一貫に息づいています。

肩肘張らずに楽しむ、ふたつの江戸前寿司のかたち

鮨 赤坂 和寿|会話が生まれるカウンターで、温もりある一貫を

3日寝かせたマグロに刃を入れる様子

江戸前寿司の技を体現するコハダは必食のひと品

手間と時間を重ねた漬けマグロ、その切り口に宿る矜持

江戸前寿司の醍醐味(だいごみ)。とろける煮アナゴ

柔らかな身を崩さぬよう、丁寧に切り分ける

「ちゃぶ台を囲む家庭の食卓みたいな雰囲気を大事にしたいんです」そう話す國島さん。カウンターに座れば、隣同士の客が自然に会話を始めることも珍しくないとか。「寿司って本来、堅苦しく食べるものじゃないと思うんですよ。みんなで楽しく過ごしてくれるのが一番うれしいですね」。
おすすめは、江戸前の王道であるマグロの赤身やコハダ。とくに、3日間寝かせたマグロの漬けは自慢の一品です。寿司は皿に置かず、なんと手渡し。「できたての空気が入った状態を食べてほしいから手渡しですね。置いてって言われたら置くけど、それで1分も経ったら勝手に握り直しますよ。そうすると、皆さん丁寧に食べてくださるんです。」と笑います。そんな気さくさに惹かれ、5時間も居座ってしまう常連もいるそう。

  • 鮨 赤坂 和寿

    東京都|港区

    熟練の技と心で握る赤坂の本格江戸前寿司

    東京メトロ赤坂駅ほど近くに静かに佇む「鮨 赤坂 和寿」。心を和ませるもてなしとともに、江戸前の神髄を宿した本格握りを堪能できる。包丁の入れ方、酢締め、漬け加減、都内の寿司店で長年腕を磨いた店主が一貫一貫に細やかな技と心を込める。高級店でありながら“和気あいあいとした空間でありたい”という思いから、気取らずにゆったり過ごせるのも魅力だ。米は宮城県産ササニシキを使用し、季節や天候に合わせて水加減を調整。空気を含ませたふっくらとしたシャリで握られた寿司を、皿に置かず直接手渡しで提供するのが店主の流儀。

    住所:東京都港区赤坂6丁目4-21 美濃屋ビル2F

    営業時間:17:30~24:00※貸切の場合は要相談

    定休日:日曜日、月曜日の祝日※その他不定休あり、貸切の場合は無休(要予約)

鮨 なかにし|静かな空間で味わう、熟成と赤酢の一体感

丁寧に包丁を入れる店主の手元

塩と酢の“仕事”が冴える、江戸前のコハダ

すだちの余韻が、江戸前の仕事をそっと引き立てる

流線形のような美しい見た目が目を引く、端正なコハダの一貫

中西さんが目指すのは、「好きに食べてください」と言える寿司屋。作法やこだわりはあっても、それを押しつけることでお客が構えてしまうのは本意ではないといいます。醤油の付け方や順番など、昔ながらの作法はあれど、最低限のマナーさえ守れば十分。強い香水や大きな時計など、他の客に迷惑をかける行為だけは避けてほしいと話します。
子連れの来店も歓迎。「子どもが泣くことは自然なこと。ただし他のお客さまへの配慮は必要」と穏やかに語ります。おまかせの順番はありつつも、基本は自由。お客は神様ではなく、“楽しんでもらう相手”だと考えているそうです。
笹塚の住宅地に構える小さな店は、静かに食と向き合える空間。全8席ほどのカウンターで、職人の手仕事とお客のリズムがゆるやかに呼応します。派手な演出や宣伝はせず、地道に口コミで広がる“江戸前”の輪。誠実な手と自然体の時間が響き合う。それが、「鮨 なかにし」の魅力です。

  • 鮨 なかにし

    東京都|渋谷区

    職人技が光る本格江戸前寿司に舌鼓

    京王電鉄笹塚駅より徒歩約4分の場所に位置する「鮨 なかにし」。銀座や上海で腕を磨いた職人が握る、本格江戸前寿司が味わえる。季節感あふれる「厳選お任せコース」では、職人の丁寧な手仕事が感じられる寿司に加え、お酒に合う逸品も楽しめるのが魅力。カウンター8席のリラックスできる空間は貸し切りにも対応しているので、大切な記念日や気の置けない仲間との集まりにもぴったり。豊洲市場直送の旬魚と特製シャリが織り成す、こだわりの一貫を堪能しよう。確かな技術と妥協のない仕事ぶりで、満足感の高い一軒だ。

    住所:東京都渋谷区笹塚1丁目37-11 パラス笹塚1F

    営業時間:17:30~22:30

    定休日:月曜日

■東京で食べられるおすすめの江戸前寿司6選

江戸前寿司の奥深さや職人のこだわりを知ると、今度は実際に味わってみたくなるもの。
ここでは、東京で本格的な江戸前寿司を堪能できるおすすめの6店をご紹介します。老舗から実力派まで、それぞれに個性が光る名店ばかり。一貫に込められた“江戸前の仕事”を、ぜひ現地で体感してみてください。

鮨光

臨場感たっぷりの席で握りたての一貫を

ランチ、ディナーともにコースで江戸前寿司をいただけるお店。ランチでは「おまかせ12貫握り」、ディナーでは「大将の厳選おまかせ」などで旬を取り入れたラインアップが楽しめます。カウンター席のみで、寿司を握る様子を目の前で見られるのもポイント。艶のある握り寿司を出来たてでいただけますよ。“肩肘張らずに本格的な鮨を”をモットーとしつつも、香りの強い香水などは控えるよう呼びかけており、料理へのこだわりも見られます。

日本橋すし鉄 本館

創業150年以上!特別な日に寄り添う老舗寿司店

木のぬくもりある空間にカウンター席・テーブル席・個室を構えるお店。毎朝、豊洲市場で目利きした海鮮で握る寿司、職人技が光るコハダやサバの酢締めや煮アナゴもいただけます。その日の仕入れを聞いて注文するも良し、予算に応じておまかせも良し。コース料理では絶品の「アワビのステーキ」が味わえるので、特別な日に検討してみてはいかがでしょうか。握り寿司はもちろん、一品一品の盛り付けが上品で華やかなので、見た目でも楽しめるでしょう。

碧海

六本木の夜を彩るおもてなし寿司

このお店の特徴は、何といってもカウンターに置かれた大きな氷と海鮮。旬を追った海の幸が並ぶ前でいただけるのは、江戸前寿司をはじめお造り・焼き物・煮物まで多種多様です。おすすめは「碧海(うみ)コース」で、旬の食材を贅沢に使い、手の込んだ逸品が12品味わえます。コースにも含まれる名物「ウニイクラ丼」は艶やかなウニとイクラがたっぷりと乗った逸品で、ウニが苦手な方もトライする価値がありますよ。深夜まで営業しているので、六本木での〆の一店にしても良さそうです。

神楽坂 鮨 りん

2種のシャリにこだわる職人の“作品”を

駅近の好立地にありながら、お店が入るビルは閑静な路地に佇みます。落ち着きと高級感のある店内ではカウンター席とモダンな個室が選べるので、シーンに応じた使い分けを。名店で腕を磨いた職人によって握られる寿司は、一貫一貫が光り、まるでアート素材を引き立てるため、シャリは2種類を使い分けるというこだわりぶりです。公式サイトではあえて多くを語らず食欲をそそる写真が並んでいるので、来店前に一度チェックするのがおすすめです。

久兵衛

銀座の老舗名店で粋な江戸前寿司体験を

創業90年、世界の食通や各界の著名人に人気の名店。初代はウニの軍艦巻きを考案したことで知られており、三代目に引き継がれた今もなお技を磨いています。80席ある座席はカウンター席・和室・テーブル席と選択肢が多く、装いを変えた部屋が揃います。記念日などの特別なシーンにも寄り添う格式高い雰囲気です。昼食・夕食ともに「にぎり」「鮨懐石」が用意されているので、予算に応じて選んでみては? どのような寿司ネタが出てくるのかは、その場でのお楽しみとしておきましょう。

麻布十番 鮨 秦野よしき

革新的な江戸前寿司を振る舞う“予約が取れない店”

酢飯の酸味とネタの脂に着目し、鮮魚が持つ魅力をとことん引き出した逸品が味わえるお店。魚の旨味はもちろん、香りや食感にもこだわっており、締め方や熟成の方法も“秦野よしき”流です。東京の有名寿司店で修業を積んだだけでなく、ハワイに渡った経験もあるからこそ生み出される独創的な一品をいただきましょう。「おまかせコース」では、つまみと握り寿司をあわせた季節の料理が楽しめます。

■江戸前寿司に込められた“手仕事”の美しさ

職人たちの話から見えてきたのは、江戸前寿司がただの食文化ではなく、手間を惜しまない“仕事”の積み重ねによって磨かれてきた技だということ。塩を当て、寝かせ、赤酢で仕上げる――その一つひとつの工程に、四季と向き合う日本人の感性が息づいています。

気取らず、けれど丁寧に。
そんな江戸前寿司の世界を、東京の街でぜひ体験してみてください。カウンター越しに交わす会話の中に、“本物の温かさ”がきっと見つかるはずです。

旅色編集部 なかしま

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記事企画・監修:旅色編集部 なかしま