フリーワードから探す
×
← 戻る
2026/06/30
自然が好きで、関西近郊の山へ出かけることが多い私ですが、高野山はまだ訪れたことがありませんでした。そんななか試乗体験に参加したのが、南海電鉄の観光列車「GRAN 天空」。なんば駅から極楽橋駅までの移動そのものが、景色、空間、食、沿線文化に触れる旅の時間へと変わる列車です。今回は、車内で感じた上質なひとときと、到着後に歩いて巡った高野山散策までをレポートします。
GRAN 天空
この記事の目次
目次を開く ▼
今回体験したのは、南海電鉄の観光列車「GRAN 天空」。なんば駅から極楽橋駅までを結ぶ、高野山方面への新しい列車旅です。公式サイトからチケット予約ができ、座席タイプは複数用意されています。料金や運行日、予約条件は時期やプランによって変わる可能性があるため、訪問前には公式情報の確認がおすすめです。
私が出発したのは、南海電鉄「なんば駅」。GRAN 天空が発着するのは「0番のりば」です。最初に名前を見たときは少し不思議に感じましたが、なんでも、従来の1番線降車ホームをリニューアルして新設された場所とのことで、この名前がついたのだとか。駅のなかにありながら、ここだけ空気が少し違いますね。
曲線的でやわらかな印象の木製の長椅子が置かれ、座ってみると座面はなめらか。出発前から、肩の力が自然と抜けていくような心地よさがありました。列車に乗る前から旅の気分を整えてくれる空間で、「ここから高野山へ向かうのだ」という期待が静かに高まります。
なんば駅を出発し、終点の極楽橋駅へ。停車駅は、なんば、新今宮、天下茶屋、堺東、金剛、河内長野、林間田園都市、橋本、九度山、極楽橋の計10駅です。所要時間は約1時間30分。高野山へ向かうこと自体が初めてだった私は、出発直後から少し浮き足立っていました。
この日は試乗体験だったため、1〜4号車のすべてに立ち入ることができました。
1号車は「リラックスシート」。全24席のリクライニングシートで、座面の心地よさもあり、名前の通り自然とくつろげる車両です。大阪の街並みを抜け、徐々に山々が近づいてくる車窓を眺めていると、日常から旅へと気持ちが切り替わっていくのを感じました。
続く2号車は、全30席の「ワイドビューシート」。車内の片面には、車窓と向き合うように座席が配置されています。個人的に、今回もっとも印象に残ったのがこの車両でした。
標高800〜900mほどの高野山方面へ、列車が力強く登っていく様子を大きな窓越しに見られる時間は、想像以上に迫力があります。
花びらや葉がひらひらと舞うなか、車輪がレールをしっかりとつかみながら進んでいくような感覚がありました。山道を自分の足で登るときの感覚に近く、座席に身を預けているのに、自然の険しさを間近に感じる不思議な体験です。
車窓を眺めているうちに、「この自然を見て、そのまま戻ってしまうのはもったいない」と思い、急きょ高野山を散策することに決めました。
せっかくのひとり旅ですから、思いつくままだっていいじゃない。
3号車は座席ではなく、「ロビーラウンジ」として使われています。軽食やおつまみ、ドリンクなどを購入でき、1・2号車の乗客も利用できるのがうれしいところです。列車に乗りながら少し席を立ち、気分を変えられる場所があることで、移動時間にゆとりが生まれます。
私はここで「紀州南高梅酒 熊野レッド」をソーダ割りでいただきました。真っ赤な見た目が印象的で、グラスを手にした瞬間から気分が上がります。紀州産の南高梅らしいフルーティーな風味に、ふっくらとした酸味。ソーダの爽快感もあり、車窓を眺めながら味わう一杯としてちょうどよい華やかさでした。
3号車で目を引いたのは、ドリンクだけではありません。江戸時代から続く、歴史ある大阪の伝統的工芸品「大阪浪華錫器」の手洗い鉢も設置されています。錫(すず)が放つ光は、鉄や銀とはまた違うやわらかさがあり、静かな存在感を放っていました。派手に輝くというより、近づいてじっくり見たくなる美しさです。
さらに、アテンダントの皆さんが着用するシックな制服にも注目しました。コシノジュンコ氏によるデザインとのことで、落ち着いた車内空間とよく合っています。観光列車でありながら、どこかハイクラスホテルのような気品も感じられ、細部まで世界観が整えられていることが伝わってきました。
4号車「グランシート/グランシートプラス」は、2名以上で予約できる特別感のある空間です。全4シートのうち、ゆるやかなL字を描くソファー席の「グランシート」が3席、革張りの座席でより上質な雰囲気を演出する「グランシートプラス」が1席。列車のなかに、まるで小さなラウンジが用意されているような印象でした。
最大の魅力は、4号車では食事付きプランを選べること。監修は、和洋中の枠にとらわれない創作料理で知られるレストラン「Genji」の元川篤シェフです。泉州・南河内・和歌山の旬の食材を活かした料理が、時間帯別に「モーニング」「ランチ」「アフタヌーンティー」として用意されています。
2026年春夏メニューでは、モーニングに地元野菜や有田みかん、じゃばらなどを使った小鉢、サンド、冷製ポタージュなどが登場。ランチでは、泉州タコや河内鴨、有田みかん、じゃばらなどを使った小鉢に、季節の炊き込みご飯や冷製土瓶蒸しが添えられます。アフタヌーンティーには、紅南高梅と生山椒のプリンや旬のフルーツタルトなど、旅の余韻に合いそうなメニューがそろっていました。
食事をしながら車窓の景色が移り変わる時間は、単なる移動ではなく、目的地へ向かう過程そのものを楽しむ体験です。次に乗るなら、4号車で食事付きのプランをゆっくり味わってみたいと思いました。
車内だけでなく、車体のデザインにも見どころがあります。深い紅色の外装は、乗り込む前から上質な観光体験への期待を高めてくれます。先頭車両に輝く黄金のエンブレムも印象的でした。
エンブレムは羅針盤をモチーフにしたデザインで、中央から伸びる矢印は、南海電鉄を中心として難波、関西空港、和歌山、高野山へ広がっていく旅を表しているとのこと。単に高野山へ向かう列車というだけでなく、南海沿線の文化や自然、食をつなぐ存在としてつくられていることが伝わってきます。
極楽橋駅に到着したころには、すっかり観光気分になっていました。もともとはそのまま戻ることも考えていましたが、GRAN 天空の車窓で見た山の力強さに背中を押され、ケーブルカーで高野山駅へ。さらに、バスではなく歩いて高野山を巡ることにしました。
高野山駅を出発し、坂道を登っていくと、道中には山々とふもとの街並みを見下ろせる絶景ポイントがありました! 雲の隙間から光の柱のように日差しが降り注ぐ景色に、思わず足が止まります。列車で感じた「移動している」という感覚が、今度は自分の足で進む実感へと変わっていく時間でした。
大門に到着すると、その大きさに圧倒されます。現在の大門は1705年に再建されたものとのことで、長い歴史の入口に立っているような気持ちになりました。横手の登山口から登山パーティーが出てくる様子を見かけ、自分ももっと体を動かしたくなります。
その後は壇上伽藍へ。なかでも大塔の迫力は強く印象に残りました。金剛峯寺では、ぎりぎり桜が咲いている様子も見られ、春の終わりを感じる景色に出合えたのもうれしい瞬間でした。
しっかり歩いたあとは、遅めのランチへ。せっかく高野山まで来たなら、この土地ならではのものを味わいたいと思い、「寺カフェ成慶院」に立ち寄りました。武田信玄ゆかりの寺院で精進料理をいただける、高野山らしさを感じられるお店です。
私が注文したのは、人気の「精進御膳」。ご飯や味噌汁のほか、生胡麻豆腐、精進おでん、天ぷらなどが並ぶ、品数豊かな御膳です。歩き回ったあとだったこともあり、目の前に料理が運ばれてきた瞬間の満足感はひとしおでした。
なかでも印象に残ったのは天ぷらです。衣はサクッと軽く、素材そのものの味わいがしっかり立っています。添えられた抹茶塩を少しつけると、味がきゅっと引き締まり、滋味深さが増しました。精進料理と聞くと、どこか控えめな食事を想像する方もいるかもしれませんが、実際には一品一品に表情があり、食べ進めるほどに満たされていく御膳でした。
メニューには「精進蕎麦御膳」もあり、時期によってはさらに選択肢が増える可能性もあるとのこと。観光の途中で、自分の食べたいものや空腹具合に合わせて選べるのはありがたいポイントです!
帰りは周辺のバス停から帰路へ。ラグジュアリーな観光列車に乗り、高野山の自然と歴史に触れ、精進料理まで味わう一日になりました。
印象的だったのは、高野山へ「移動した」というより、GRAN 天空とともに高野山を楽しんだという感覚です。電車は普段、通勤などで利用する日常的な乗り物です。けれど、GRAN 天空では、その日常的な移動手段が、旅の目的のひとつへと変わります。
車窓を流れる景色、沿線の食材を活かした料理、伝統工芸を取り入れた車内空間、そして到着後の高野山散策。そのすべてがつながることで、身体だけでなく心まで、少しずつ日常から離れていくように感じました。
幅広い世代が楽しめる列車だと思いますが、上質で落ち着いた空間を味わえるので、特に大人のおでかけに向いていると感じました。いつか60歳代の両親とも一緒に乗ってみたいです。
大阪・なんば発でアクセスしやすく、ひとり旅にも、家族との日帰り旅にも取り入れやすい「GRAN 天空」。移動時間まで大切にしたい人にこそおすすめしたい、高野山への新しい旅の過ごし方です。
参考になりましたか? 旅行・おでかけの際に活用してみてください。
記事企画・監修:旅色編集部 おおもと
ライター:おおもと