2025/04/01
京都や北海道、沖縄などの観光地は観光資源も豊富で見どころもたくさんあり、人気なのはもちろん異論はありません。また海外からの旅行者も増加傾向。一方でそういった背景から、最近では人気観光地離れも進んでいます。「穴場の観光地がないか?」などの質問は頻繁に受けますが、私が最近注目しているのは「まち泊」に力を入れているエリアです。今回はその「まち泊」の代表的な例として静岡県静岡市駿河区用宗(もちむね)のエリアを紹介します。
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まち泊についてはWebで検索しても、現状ではしっかりとした記述がある内容は表示されません。言葉としてまだ世の中に定着しておらず、しっかりと定義されたものはありません。そういった前提のもと、今回記事として紹介するにあたり、私が考える「まち泊」の定義を記載しておきます。
まち泊とは、「特定の企業や事業だけでなく、まちに点在する複数の施設を回遊させ、まち全体で来訪者をおもてなしする旅スタイル」だと考えます。言葉としては定着していませんが、最近ではこういったことを実践しているまちが増加しています。
最近では旅行者が旅行先で楽しむ趣味嗜好がこれまで以上に多様化しています。ツアーでの団体旅行が主流だった時代を経て、個人旅行需要が増加。さらにはコロナ禍を経験した我々は、旅のスタイルの選択肢が拡大しました。その選択肢の中で共通して大事な点は「旅先で何を得られた・体験できた」が重要です。趣味嗜好が旅の目的になっていく時代に突入しました。まち泊はそんな時代の背景と相性が良く、これからより注目されていくと考えています。
用宗のビーチエリア
用宗は観光の見どころとして大きく3つのエリアに分けられます。用宗漁港がある「港エリア」。レトロな雰囲気が残る「路地裏エリア」。海風を感じる「ビーチエリア」といった区分けになりますが、用宗駅からどのエリアも徒歩約10分圏内の距離にあり、とてもコンパクトなエリアな町なのですが、エリアごとに異なる特性をもっています。
運よく虹がかかってました
静岡駅から2駅で、漁港を起点として漁業で栄えた町でした。しかしながら人口流出に伴い、お店は潰れ、空き家や使われなくなった施設が増加傾向にありました。そんななか、民間企業が町の再建を目指し、立ち上がります。2016年にCSAtravel社を設立し、翌年に一棟貸の宿「日本色」と本格ジェラートが味わえる「LA PALETTE」をオープン。それ以降も複合商業施設や日帰り温泉など続々開業。以降は他企業も続々出店し、静岡市内でも注目の観光スポットへと変貌を遂げています。
日本色
古き良き趣が残された空間で静かに過ごす贅沢なひととき。レセプションで手続きを済ませると10棟のなかから予約した一棟貸しの宿へ向かいます。一棟貸しの建物はすべてが隣接しているわけではなく用宗エリアに点在していて、造りもすべて異なります。
青藍
その中の1つの棟を紹介します。こちらはペットと泊まれる古民家として人気。大きめの庭があり、ドッグランとして利用していただけます。
庭をドッグランとしても利用できます
檜風呂や梁にくくりつけたハンモックなど、木のぬくもりを感じる温かみのある空間で、日常の疲れを癒すことができます。
お部屋に入ると、より以前の暮らしが想像できる空間が広がっています。
安全性を考慮した上で、あえて残された梁。
大きな梁
近くでよく見てみると以前住んでいらっしゃった方が残したお子さんの成長のあと。
以前の生活の面影が
不自然な位置にある、現在は使われていない蛇口。
有料ではありますが、テーブルの中央には現在も使用できる囲炉裏が。
ほっこりするようなものばかり。随所に見える懐かしさが「居心地」の良さとして感じてもらえるのではないでしょうか。
こちらの建物ではありませんが、ユニバーサルデザインの設計で、車椅子の方も利用できる一棟貸しの施設もあります。また最大定員は2名といった一棟貸しや、最大定員8名までと収容できる規模の建物もあり、さまざまなシチュエーションで利用可能。用宗エリアの観光の流れを変えた施設ともいえます。
2017年のオープン以降、地元の方や観光客で賑わいをみせています。静岡県産のミルクと食材を組み合わせて手作りされたメニューはとても豊富です。
気候や地形に恵まれた静岡の素材をふんだんに使用した手作りジェラートのお店。60種類以上のフレーバーのなかから、時期や仕入れ状況によって常時12種類楽しめるので何度でも足を運びたくなるはず。
LA PALETTEのジェラート
2階にはテラス席も。心地より海風を感じながら、松と海の景色を眺めながらいただくのもおすすめですよ。
4つの浴槽と遠赤外線サウナが完備された日帰り天然温泉施設。「漁港ビュー」という珍しいロケーションで、さらにその先には富士山を眺めることもできます。
2018年に漁港の一角にあったマグロの加工場をリノベーションして作られ、釣り人しか立ち寄らなかった漁港が一気に活気づきました。
店長自らデザイン・プリントしたオリジナルサウナグッズの販売や、サウナイベントを開催するなどの取り組みの結果、徐々に市外や県外からも若い世代を中心にサウナ好きが集まってきているそうです。一方で午前中、漁に出た漁師の方が仕事終わりに毎日のように利用されたりもする憩いのスポットに。
The Villa & Barrel Lounge
用宗みなと温泉同様に漁港内にクラフトビール醸造所「West Coast Brewing」を運営する、“ブルワリーに泊まれる”をコンセプトとした直営ホテル。ホテルの1階にはタップルームに隣接する形でバレルラウンジがあり、宿泊者以外の方も気軽に利用することもできる話題のスポット。
ブルワリーに泊まれるホテルとあって、5つのすべての部屋には専用のビアタップが設置されていて、最大で10リットルまでは飲み放題! クラフトビール好きにはたまらないはず。
土曜&日曜日のみ醸造所の見学ツアーが実施されていて、より理解が深まるとビールがさらに味わい深い一杯と感じるはず。(公式HPから事前の予約が必要です。)毎週新作を販売されているそうで、今後さらに注目されるのであろうスポットですが、こちらのスポットも、もともとあった建物をリノベーションして造られた。譲り受ける際に「元々の建物の良さを活かしてほしい」と、とても愛着のある言葉を受け、その点にこだわって設計されたそうです。施設内にリノベーション前後の写真が飾ってあり、とても感慨深いお写真でした。
ここまで4つほど用宗エリアで代表的なスポットを紹介しましたが、冒頭に記載した“たび泊”の概念を改めて記載します。
「特定の企業や事業だけでなく、まちに点在する複数の施設を回遊させ、まち全体で来訪者をおもてなしする旅スタイル」
ここからは用宗ではどういった施設ごとの繋がりや、回遊があるのかについて、少し触れたいと思います。
まずは「日本色」の一棟貸しについてはレセプション棟から歩いて各棟に向かいます。1番遠い棟に関しては5分ほど歩く形に。町に繰り出していく形になり、その間にも他のスポットを立ち寄ったりされる方も多いそうです。
また、お宿からトゥクトゥクに乗って他施設に移動をしたり、案内もしてくれるなど交通インフラも作られています。
トゥクトゥク
こちらの施設では、他のすべての温泉施設に存在するわけではありませんが、日帰り温泉施設ではよく見かけるフリースペースがありません。ロケーションが素晴らしいので、机や椅子は散りばめられていて、ちょっとした休憩はできますが、畳やクッションがあり、そこで寝そべることができるような空間はあえて設計しなかったそうです。
その理由は「用宗には素晴らしいスポットや景色があるから、入浴後はできるだけ町に繰り出してほしいから」と語る店長さんの言葉が強く印象に残っています。
醸造所が隣接されているので、見学をしてビールについて深く理解し、みなと温泉で疲れを癒し、バレルラウンジでビールを一杯。といった最高の流れを楽しむことができます。
宿泊する部屋に設置されているビールサーバーからグラウラーで持ち出し、すぐ近くの海岸でのんびりと過ごす。
漁港ビューという他ではなかなかない珍しいロケーションに温泉施設をつくり、地元の方と市外・県外からの誘客。
これまで紹介したようなまちづくりによって、活気が生まれ、外からも人が集まることで、実は1社だけでなく、他の企業も用宗エリアに続々と進出しています。それにより観光による一時的な人の流入だけでなく雇用が生まれ、人の滞在も起き始めました。現在ではCSAtravel社以外でも約40店舗が新たに用宗に出店し、注目の観光エリアへと成長しています。
先に紹介したように言葉として定着しているわけでもなく、取り組み方法は地域によってさまざまなので一括りに紹介は難しいですが、定義したような町の観光づくりは広がりを見せていると感じます。実際に別の地域でも同じような取り組みは存在します。
歴史ある建造物や大型のテーマパークがなくても、今回紹介した用宗のように、コンパクトなまちの中で“濃密で自分にとって最高な時間”を体感できる場所。そして、そこには“自分に近い価値観を持った来訪者がいる”。
そんな楽しみを求める旅が今後の旅のトレンドになる。そして、それを実現してくれるのが「まち泊」なんだ。そう思わせてくれる今回の静岡・用宗の旅でした。
ぜひ、みなさんも訪れてみてください。今後の自分の旅について向き合うきっかけになるような素敵な場所です。
参考になりましたか? 旅行・おでかけの際に活用してみてください。
記事企画・監修:旅色編集部 ふかい
ライター:ふかい
静岡県静岡市駿河区用宗(もちむね)